国内外研究成果発表会等派遣事業 研究成果レポート





藤野良孝(メディア社会文化専攻)
 
1.事業実施の目的 【e.国際会議等研究成果発表派遣事業】
  研究成果の発表及び情報収集
2.実施場所
  Renaissance Orlando Resort at Sea World(アメリカ合衆国,オーランド州フロリダ)
3.実施期日
  平成18年6月25日(月) ~ 平成18年7月1日(金)
4.事業の概要
  アメリカ合衆国,オーランド州フロリダで開催されたED-media(World Conference on Educational Multimedia, Hypermedia & Telecommunications 2006)とは,教育工学の領域において最も規模の大きい国際会議である.基本的には,教育工学に関与した研究者が参加する学会であるが,その受け皿は広く,参加者は文学,心理学,工学など多岐に渡る.学会の内容は,主にメディアコンテンツ,遠隔教育,Eラーニング,バーチャルリアリティなどを媒介とし,学習教育全般の支援に役立てる技術,方法を公表・提案する場となっている.学会の日程は,26日から30日まで計5日間に渡り行われた.初日は,学会参加者全員のレセプションパーティー(顔合わせ)を行い,研究者間のコミュニケーションや情報交換を行った.翌日からは,日程ごとにプログラムされているシンポジウム,チュートリアル,ポスターデモ,プレゼンテーション(ショートペーパー(15分),フルペーパー(20分))などのセッションを聴講した.これらの参加は,全て任意であることから,参加者は自己の興味のあるセッションを選択し聴講することができた.
本事業として,この国際会議に参加した最大の目的は,これまで従事してきたスポーツオノマトペ(運動に伴って生成される擬音語・擬態語)の研究成果を公表し,より多くの国外研究者から意見や助言をもらうことであった.また,それと平行して,各発表者のプレゼンテーション,ポスター発表を視聴したり,チュートリアルデモやオーラルセッションに参加し,現在行われている最先端の研究技術を知ることや,研究理論並びに研究手法や研究アイディアを学ぶことであった.
まず,その第一目的であった成果発表(発表題目:Development of a “Japanese Sports Onomatopoe” Computerized Dictionary for Understanding of Subtle Movement)については, 20分間のオーラルプレゼンテーションと5分間の質疑応答を通して,自己の研究内容の紹介や意見交換を行った.次に,各分科会に参加し国外研究者の行っている研究を聴講した.その中で,26日に行われたThe media Explosion, Security and Dependability in E-LearningというチュートリアルやFull paperのDesign Talk To Native in the E-Lerning Marketに参加した.聴講を通じて感じたことは,アメリカやヨーロッパの両研究者は,新しい技術の教育への適用に対して興味が非常に高いという印象を受けた.ポスターデモにおいては,その場で視聴するだけではなく,実際に研究者が持参したアプリケーションを使用させてもらったり,その活用方法を具体的に教示してもらった.
上述された内容を,5日間行い本事業の活動とした。


5.学会発表について
  ○ 発表したプレゼンテーションの概要は,以下の通りであった.

体育・スポーツ学習に有効なスポーツオノマトペ(運動に伴う擬音語・擬態語などの音象徴)の電子辞典を開発するため,はじめにスポーツオノマトペの実態調査とそのニーズ調査を行い,スポーツオノマトペが種々のスポーツで幅広く用いられ学習全体へ多角的な効果を及ぼすことを確認した.次に,実態調査で得たスポーツオノマトペをデータベースとして電子辞典を試作し,従来の冊子型辞典と使用比較を行い学習に与える効果の分析を検討した.その結果,電子辞典の方が冊子型辞典よりも総合的に肯定的な評価結果であることが示唆された.しかしながら,両者の機能ではスポーツオノマトペの表現する微妙な動作内容を支援しきれない問題に逢着した.
そこで本研究は,その問題を解明すべく辞典に実装する構成要素(スポーツオノマトペ音声刺激「グッ」と「サッ」・運動強勢ごとの動画「握力」と「全身移動」)の設計を行った.設計した構成要素は,知覚の観点よりスポーツオノマトペの持つ動作感覚の印象をプレーバックできることを確かめた.さらに,行動科学の視点から捉えた実践動作学習および表面筋電図法による生理的測定では,両者ともプレーバックされた動作感覚に近似する実測値を示し,それらの効果に対する主観評価からも有用な結果が示唆された.形成的評価によって,体育・スポーツ学習に効果的なオノマトペ辞典のプロトタイプを完成することができた。得られた結果は総じて,電子辞典の高度化,及び学習面全体に有効な知見を裏づけるものであった.

○ 主な意見
口答発表においては,以下の4つの意見が挙げられた.

① スポーツオノマトペ音声刺激は,「グッ」と「サッ」以外のオノマトペ音声刺激を用いても運動学習者へ普遍的な運動指導が行えるのかどうかという意見.

② 例えば,英語のオノマトペ学習においてオノマトペのもつ表出内容を理解するのは,非常に困難と言われているのですが,スポーツで使用されるオノマトペの表出内容が運動選手に理解し易いのは,ただ音の感覚・印象で理解するだけではなく,身体と同時に覚えられる(動きに応じて自然に音声が発声される)ので分かりやすいのではないかという意見.つまり,体を動かして学習を行なうと,学習効率や長期記憶に残るという従来の理論と同様の働きが生じている.

③ 今回の実験は,柔道アスリートをターゲットにした内容でしたが,他のスポーツ種目においても柔道と同じようなスポーツオノマトペが使用されるのかどうかという意見.

④ スポーツオノマトペ電子辞典は,インターネットや遠隔学習のツールを通しても学習が可能であるかどうかの意見,またそうだとしたら,なぜインターネットで行うのかということの意見.

などが今回の発表を通して得られた意見です.

6.本事業の実施によって得られた成果
 ED-media 2006において,オーラルプレゼンテーションを行なったFull paperセッションの「Development of a “Japanese Sports Onomatopoe” Computerized Dictionary for Understanding of Subtle Movement」は,博士論文の第2章から第3章,すなわちスポーツオノマトペ電子辞典の開発プロセスにおける構成要素(スポーツオノマトペ音声とそれと対応する動画)を形成的に評価する初期段階に該当する.
 特に,小生の従事しているスポーツオノマトペ音声の研究は,人間が情報伝達する際に使用する音の意味的な普遍性の解釈を問う内容であるため,国外の場において,諸外国の研究者から意見を得ることは,研究内容の了解性や信憑性を確認する上で究めて貴重な場となった.これにより,スポーツ運動場面で使用されるオノマトペ音声が国内だけでなく,国外においても理解されるかどうかを確認することができた.具体的には,「スポーツオノマトペ音声の基本周波数を基準に用いた運動教示は,言葉では表現し難い運動の強勢を,運動学習者に対して共通的に理解させることができる」という問題意識を世界中の研究者に問いかけ,様々な意見を得ることができた.また,海外の研究者に意見をもらえたことは,これまでに気がつかなかった観点や,新しい問題点など様々な研究の可能性を知り得る有益な場となった.
 特に,印象的だったことは,プレゼンテーションした内容を見てくださった視聴者が微笑んでくれたこと,興味をもって聴講してくれたことである.当初,小生の研究内容と学会の趣旨とが,乖離していたため視聴者に共感していただけるかどうか,大変心配であったが,「微笑み」を拝見して気持ちが軽くなった.このことから,スポーツオノマトペという音声の研究を多くの国外研究者に知っていただき,宣伝できたことが最大の成果であったと思う.従って,ここで発表を行ったことは,諸外国の研究者および専門の技術者からの客観的な意見を頂けたと共に,小生の博士論文の次章の展開を開拓する手がかりになった.
  また,初日に開催された学会シンポジウム,その翌日から行なわれたチュートリアルセッションや口頭分科会での傾聴は,各分野からの最先端の研究,多様な観点からの研究メソッドが把握でき,学問の最前線の現状が確認することができた.この最先端の研究と多様な研究手法を聴講した事によって,今後の博士論文の実験計画の支援,論文執筆に新たな活気をもたらすことが期待される.
以上,今回の事業で得た意見,知見を始め,海外で研究発表することができた経験を糧に,博士論文執筆に取り組みたい.

7.本事業について
   この事業を通じて,国際会議に参加できたことに心から感謝申し上げます.本事業を通して感じたことを,学生の観点から述べたいと思います.この支援事業は,経済的に厳しい環境にある博士課程の学生にとって,非常に有益な援助の場であると同時に,研究意欲を促進する事業であると思いました.私的な意見で恐縮ですが,これまでは国際会議という舞台で自己の研究成果を発表し,様々な意見をいただきたいという大きな目標はあっても,経済的な理由や大学側から配当される支援額の上限などの問題等で,国内の学会で発表を終えるというのが実情でした.例えば,私が今回参加させていただいた国際会議は,アメリカ合衆国のオーランドフロリダで開催されましたが,航空費と宿泊費を合計すると本学の年間授業料に相当します.このような,多額の参加費用を学生自身が負担することは,極めて困難です.しかし,本事業の援助により,従来参加が困難であった国際会議の参加が可能になりました.こうした寛大な援助があれば,今後はより多くの学生が国際会議を目標に自己の研究を研鑽するかと存じます.

また今回,本事業を活用させていただき,得られたメリットが五つありました.

1. 「研究に対する意欲が高まった」こと
2. 「国際会議に参加するという目標が生まれた」こと
3. 「外国語への学習意欲が生まれた」こと
4. 「国際会議で様々な意見やアドバイスをもらえた」こと
5. 「国際会議の発表後において,事業の責務を成し遂げたことに対する達成感と充実感を得られた」こと等です.

 上記の理由から,この有益な事業があることで,新入生を始め在学生一同,上述したようなメリットが得られると思います.

 
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