研究科選定国際会議等派遣事業 研究成果レポート





HAYEK MATTHIAS(国際日本研究専攻)
 
 

1.事業実施の目的 【f.研究科選定国際会議 ・ h.海外フィールドワーク】
   f.第七回フランス日本研究学会シンポジウム参加(報告)
h.図書館調査
2.実施場所
  f.フランス国立科学研究所本部(シンポジウム)
h.フランス国立図書館
3.実施期日
  平成18年12月19日(火) ~ 平成19年1月2日(火)
4.事業の概要
    ①シンポジウムに関しては、
 第七回フランス日本研究学会シンポジウムは、東京大学の末木文美士教授による、「日本近代と仏教」を題名にした基調講演をもって、平成18年12月20日に開催されました。その後の21日~22日の間、パネルセッションという形で報告会が行われました。およそ50人の報告者による計13セッションで、今回のシンポジウムは学会史上最大となります。しかも、今までと違って、今回のセッションはパネル形式が採用されました。つまり、今まで多少欠けていた一つのセッションにおける諸報告の一貫性や関連性がこの形式によって引き出され、より良い議論が可能となりました。
私が報告者として参加したパネルは「明治維新におけるイデオロギーの矛盾」と題して、明治期における「新しい思想」の形成や、明治以前からあった視点や思想が姿を変えて引き継がれたというような現象を中心に報告が進められました。具体的に、キリスト教的な要素を自分の神道論に取り入れた渡邊石重丸についての報告の次に、近代民族史や考古学における近世の「古学」の面影を話題にした二つの発表があり、そして私は高島嘉右衛門を中心に占いの近代化に関する考察を報告しました。他に参加した三つのセッションはそれぞれ、柔道、沖縄の舞踏と武道、北野武の作品などにおける身体観、また、女子労働者の社会史、洋風家具の創作や普及などを中心とした20世紀初期の社会的変化、そして、子ベルナル・フランク氏が残した「お札」のコレクションを素材にした民俗学・宗教学研究などに関する報告がありました。

②図書館調査に関しては
 シンポジウムが終わってから、フランス国立図書館が所蔵している二種類の資料を調査しました。
一つは、近世フランスの日用類書、すなわち民間暦、占い書や預言書などの類のものでした。このような書物は合理的に整理され、すでにオンラインデータベース(OPALE)に反映されており、比較的見つかりやすかった。おかげで、数日間でも17世紀~19世紀の間に出版された幾つかの活字本や版本を閲覧で着ました。
もう一つは、東洋写本文庫に含まれている近世日本の日用類書でした。それらは、フランスのと違って、データベースで検索が不可能で、地道に探さなければなりませんでした。その数が結局多くなかったが、中には節用集や、『仏神霊像図彙』などのような江戸時代の珍しい版本があり、それを中心に調査しました。

5.学会発表について
   今回のシンポジウムにて私は「高島嘉右衛門と占いの近代化」について報告をさせていただきました。 その概要は以下の通り。

1905年12月1日の「La Revue de Paris」という週刊誌には、亜細亜で任命中の「哈徳門」(Hatamen)と名乗っているフランス人が、たまたま東京の大きな書店で見つけた『高島易断』の英訳を紹介しています。この記事とその著者も完全に忘れられましたが、「高島」という名前は、日本の書店に足を運んだことのある人にとっては、なんとなく聞き覚えのある名前です。なぜなら、年末から発売されている多くの運勢暦などの発行所は、ほとんどの場合では「高島易断」という語が会社名の一部となっているからです。
さて、現在の日本の占いの市場の背景にあるこの高島というのは、一体どのような人物でしょうか。
 彼は、簡単に言えば、近現代の占いの元祖、もしくは占いの近代化を始めさせた人だと考えられる。自分自身の観点から、『高島易断』という占い本を著し、その中に様々な占いの具体例や実験を詳しく紹介することによって、高島は占術的能力と占師の個人能力とを直接に結びつきました。
このような占いに関する新しい観点は、迷信を排除しようと政策を進めていた明治政府に圧迫されなかった上、奇妙な事に政治家たちの間では高島の占いは非常に好評であったようです。
では、なぜ明治5年に「人智を妨げるもの」として、千年以上の歴史を持っていた陰陽寮を廃棄した明治期のエリートは、それほど高島の占いが気に入っていたのでしょうか。
このような疑問に答えながら、近代の占いの特徴や、近代の占いは当時の社会変化とどのように関係していたかを解明して見たいと思います。

発表後に頂いた質問は、時間の制限もあって、極めて少なかったが、全体的に参加者たちは、ほとんど話題にされていない「占い」と「近代合理化」の問題に興味を示してくださいました。
特に、もともとエリート社会の文化資産であった「占い」がどのように民間に広まり、どのようにエリート層に戻っていくといった過程とイデオロギーとの関係をさらに探検すべきと指摘されました。
このような意見を踏まえて、これからの研究を進めたいと思います。

5.本事業の実施によって得られた成果

 

 今回のフランス日本研究学会第七シンポジウムに参加し、またフランス国立図書館所蔵の日用類書を調査して博士論文のみならず今後の自分の研究活動にとっても重要な成果を得たと思います。

 まず、フランスは母国であるとはいえ、日本に在学している自分にとって、フランスにおける日本研究活動に関わる機会が極めて少ないということは否定できません。そこで、今回のシンポジウムに参加することは、フランスで進められている日本研究の現況を改めて把握することが出来るという意味で、自分にとって非常に意義がありました。しかも、今回の報告会はパネル形式が採用され、個人個人に応募するのではなく、他の研究者と相談し、一貫性のある計画を立ててから、グループで応募することになっていました。シンポジウムに参加したかった私は、他の知り合いで参加希望者と予定を組んで、「明治維新におけるイデオロギーの矛盾」パネルを企画し、応募などを背負いました。すなわち、自分の報告をするだけでなく、より一貫性と関連性の高いパネルを作り上げるために、他専門・他分野の研究者と協力しあうことになりました。このような経験は、今後の研究活動には欠かせないものだと思います。

 また、自分の報告に関して伺った意見や質問を通して、現在フランスにおける日本研究者に対する期待を再確認でき、現在、日本で活用している私の、自分の研究への観点を相対化するための重要な刺激となりました。これも、国際的な研究に不可欠なことだと思います。
他方、フランス国立図書館所蔵の日・仏近世日用類書を調査し、博士論文に比較研究的な要素を取り入れるための貴重なデータを獲得できました。

 今まで、日本や中国の日用類書、暦、占い書のみを扱ってきましたが、今回近世フランスの同類な典籍を検討することができました。それによって、それらが持っている類似点と相違点をある程度まで把握し、このような要素を博士論文で活かすことによって、より国際的な観点で論文を構成することができると思います。

 しかも、フランスの近世日用類書を検討するのに際して、自分が日本文化を素材にして作り上げたモデルを、外国の同様な現象を考察するのに当たって、どこまで応用できるかという将来の研究活動の一つの課題となりうる点に気づき、非常に勉強になりました。

6.本事業について
    海外の、特にフランスのような遠方な国での学会に参加することや調査を行うことは、経済的な側面などでは、学生にとって非常に厳しいことです。そこで、総研大の文化科学研究科海外学生派遣関連事業、私の知っている限りでは他の大学にない支援を与えてくださったことに、心から感謝しております。
 今後も、このような、総研大の大学院生の研究活動にとって、とても貴重な体験を可能とする事業を是非継続して欲しいと思います。

 
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