国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





一戸 渉(日本文学研究専攻)
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】
  博士論文作成のための文献資料調査
2.実施場所
  大阪府立中之島図書館、天理大学附属天理図書館、津市図書館、本居宣長記念館、神宮文庫、西尾市岩瀬文庫
3.実施期日
  平成18年2月13日(月) ~ 平成18年2月18日(土)
4.事業の概要
  ○平成18年2月13日月曜日から平成18年2月18日土曜日の計6日間に渡って、総合研究大学院大学文化科学研究科「魅力ある大学院教育」イニシアティブにおける国内外フィールドワーク等派遣事業(c.国内フィールドワーク派遣事業)として、申請者の博士論文「上田秋成を中心とする近世中後期上方和学研究」の作成へと向けての基礎的な作業となる文献資料調査を各地の収蔵機関において行った。以下に、今回の実施事業内容の概要について報告をおこなう。

○平成18年2月13日月曜日、大阪府立中之島図書館(大阪市北区中之島1-2-10)において、上田秋成・小山伯鳳・入江昌喜などといった近世期における上方文人関係文献資料の調査及び収集を行った。閲覧し、調査を行った資料は計14点である。

○平成18年2月14日火曜日、天理大学附属天理図書館(奈良県天理市杣之内町1050)において、栗田土満ら近世期和学者及び、市中庵梅従、公卿今城家などの上方俳諧関係文献資料の調査及び収集を行った。閲覧し調査を行った資料は計5点である。また、そのうち一点については複写申請のための手続きを同機関において行った。

○平成18年2月15日水曜日、津市図書館(三重県津市西丸之内23番1号)において、近世期上方学芸史関係資料(主として皆川淇園、賀茂真淵関係)の調査・撮影を行った。閲覧し調査を行った資料は計2点であり、その場でその2点について自己で撮影を行なった。

○平成18年2月16日木曜日、本居宣長記念館(三重県松阪市殿町1536-7)において、本居宣長及び本居大平など近世期和学関係資料の調査を行った。閲覧し調査を行った資料は計3点である。また、本居宣長旧宅などの史跡調査についても同時に行なった。

○ 平成18年2月17日金曜日、神宮文庫(三重県伊勢市神田久志本町1711)において、上田秋成及び荷田家関係資料など近世期和学文献・絵画資料、及び御巫家旧蔵資料などの伊勢神宮祀官関係文献資料の調査を行った。閲覧し、調査を行った資料は計9点である。

○平成18年2月18日土曜日、西尾市岩瀬文庫(愛知県西尾市亀沢町480)において、上田秋成、龍草廬、契沖、荷田春満などの近世期上方和学、上方文人関係文献資料、及び清水浜臣などの近世期江戸和学関係文献資料の調査を行った。閲覧し調査を行った資料は計8点である。このうちの2点については複写申請のための手続きを同機関において行った。

5.本事業の実施によって得られた成果
 本調査を実施したことで期待される学術上の成果について、以下に報告をおこなう。

  本調査は、報告者の博士論文「上田秋成を中心とする近世中後期上方和学研究」に関する基礎的作業としての文献資料調査を目的としたものであり、今回の調査において披見した文献資料は全てその目的に資するところきわめて大である。文献資料調査を目的とする本事業によって得られる事が期待される成果として、まず一つには、上田秋成及びその周辺の和学者の学芸活動についての具体化が挙げられる。上田秋成周辺の和学者たちによる著作のみならず、彼らによる筆写本についても、今回、数点の文献資料の調査を行うことを得たが、これらを詳細に検討することで、当時における彼らの和学に関する学習のあり方や、具体的な学芸上の人的・物的・知的な交流の様相について、より一層の明確化が図られることが期待される。これらの成果に関しては、博士論文の第三章「上方和学者研究」として整理することを目指すと共に、その一部について、研究論文として発表を行なう予定である。

 第二に、和学関係書物の近世期における流通と受容史についての知見の提示、が挙げられる。主として写本の形式において流通し受容された近世期の和学関係書に関して、その諸伝本についての悉皆調査を行うことは、その書物の受容・流通状況の全体像を把握することを可能とすると考えられる。そのためにも今回の事業において調査を行った資料は、その目的に資するところ、きわめて大であると判断される。これらの成果に関しては、平成十七年度日本近世文学会秋季大会(会場:奈良女子大学)において口頭発表を行った「上田秋成の土佐日記注釈と「海賊」」の内容を補強するものであり、今後、研究論文として纏める予定である。

 第三に、上方文人一般の学芸活動についての一層の明瞭化が挙げられる。特に今回調査を行った、龍草廬、契沖、荷田春満をはじめとする上方文人関係文献資料に関しては、上田秋成の上方における和学活動に先駆する学芸史上の営為を把握するためにもきわめて重要なものであり、博士論文第一章として予定している「近世中後期上方の県居門」の内の一節分に相当する内容を持つ。とりわけ荷田家関係資料に関しては来年度中に、研究論文の形で公表する予定である。
  以上の様に、本事業によって行なわれた文献資料調査によって、申請者の博士論文「上田秋成を中心とする近世中後期上方和学研究」はより一層の進行が期待されると考える。

6.本事業について
   この文化科学研究科国内学生派遣関連事業によって、これまで経済的に困難であった各地の文献資料調査を円滑に行うことができ、有意義な研究活動を行なうことができたことについては、非常に有り難いことと感じている。今後もまた、このような形で学生の研究活動に対する支援を願いたい。ただし、今後は事務的な連絡などは、より早い段階で行って頂きたく思う。

 
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