国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





今中崇文(地域文化学専攻)
1.事業実施の目的 【h.海外フィールドワーク派遣事業】
  

西安「回民街」についての基礎調査

2.実施場所
  西安市内および陝西師範大学西北環境と経済社会発展研究センター(中国)
3.実施期日
  平成19年2月28日(水)から3月14日(水)
4.事業の概要
   <調査内容>
報告者が研究のフィールドとしている西安「回民街」には多くの清真寺が集中しているとされる。このことはすでに、明治20年(1907年)に西安を訪れた桑原隲蔵の報告などにも見られ、早くから知られていることである。報告者は昨年夏に西安を訪れ、「回民街」において清真寺の所在確認を行ったが、その際に確認できた清真寺は11座であった。しかしながら、帰国後に実施した文献調査において、当該地域にそれ以上の清真寺が存在しているとする記述があること、またこれまでの先行研究において挙げられている清真寺の数・名称・所在が一致していないことが確認された。そのため、再度「回民街」内の清真寺の所在を確認し、今後の研究に向けた基礎データとするために今回の調査を実施した。今回は、まず昨夏に確認した清真寺を再度確認した上で、前回確認できなかった小道や、団地内まで範囲を広げて調査を行った。
調査時には確認した清真寺の位置を地図上に記入していくとともに、門前に掲げられた扁額や街路上に設置してある表示板などによって清真寺名の確認を行った。名称がはっきりしない清真寺については、通行人に対して聞き取りを行い確認した。位置が確認できない清真寺についても通行人に対して聞き取りを実施した。この地域の清真寺は、1座を除いて対外開放されていないため、撮影は門前からの外観のみに止めた。

<受け入れ先との打ち合わせ>
また併せて、来年度から開始を予定している長期フィールドワークに向けた、受け入れ機関との受け入れに関する打ち合わせも行った。
受け入れ先に予定している陜西師範大学西北環境と経済社会発展研究センターを訪問し、現地での指導を依頼している教官に今後の調査計画を提示し、受け入れの可否について確認を行った。受け入れの確定後、同センターの留学生受け入れ担当教員と受け入れ時の身分・条件・待遇などについて確認した。さらには受け入れに際しての事務手続について確認するため、学内の国際漢学院を訪問し、事務手続き担当スタッフと面会した。

<現地研究者との交流>
陜西師範大学西北環境と経済社会発展研究センターの紹介により、同西北民族研究センターにおいて回族を研究している研究者と面会する機会を持つことができた。またそれ以外にも、西安市政府の役人や、現地伝統演劇研究かとも懇談する機会を得ることができた。

 

5.本事業の実施によって得られた成果
 

 <調査により得られた成果>
今回と、それに先立つ昨夏の調査により、この西安「回民街」にある清真寺の数、位置、それぞれの名称を確認することができた。現在この地域には11座の清真寺があり、その外観についてもすべて写真に収めることができた。
また、文献史料において明清時代から民国期には存在が確認されるものの、各種先行研究においては言及されていなかった八家巷清真寺が、現存していないことも確認できた。
 さらには、昨夏の訪問時には見られなかったいくつかの現象が確認された。その1つとして、「回民街」の観光開発が進んでいたことがある。これまで「回民街」は、確かに多くの国内外の観光客が訪れる地域であったものの、地図上にその名称がはっきりと記されることもなく、観光ガイドブックにその名が記されることはなかった。しかしながら、現在では、「『回坊(回民街の現地での名称の1つ)風情街』はみなさまのお越しをお待ちしております」と書かれた看板が掲げられ、「回坊民族特産商城」と名づけられた市場が新たに開かれていた。これなどは「回民街」の観光開発の現れと考えられるが、それがもたらす変化とともに検討していく必要があると考えられる。
またもう1つには、この「回民街」の南に隣接する場所に、土地の守り神を祭る城隍廟が建てられていたことが挙げられる。訪問した日には、ちょうど廟の縁日ともいえる廟会が開催されていたが、そこには回族の姿も見られた。この地に城隍廟が建設されることに対して、周囲に住む回族がどのような意識を持っているかは非常に興味深いものがある。

<受け入れ先との打ち合わせにより得られた成果>
陜西師範大学西北環境と経済社会発展研究センターにおける打ち合わせにより、今秋以降に予定している長期調査の際、同センターの高級訪問学者として受け入れていただけることが確定した。さらにその際の諸条件(費用・手続方法など)の詳細についても確認することができた。

<現地研究者との交流>
陜西師範大学西北環境と経済社会発展研究センターの紹介により面会することのできた同西北民族研究センターの回族研究者は、自身も回族であり、これまで広州の回族コミュニティを調査してきたとのことであった。西安の回族についてはまだ調査・研究は始めていないとのことであったが、中国の回族全般、とくに都市の回族コミュニティにおいて調査をする際に有用な情報を提供していただいた。 また、懇談を行うことができた西安市政府の役人、現地伝統演劇研究者からは、今後「回民街」を調査していく上で必要になる、インフォーマントについての情報を提供していただくことができた。 上記のように、今回の事業を実施することにより、今後西安「回民街」を調査するために必要なデータを集め、整理することができた。またインフォーマントについての情報も多数収拾することができたことから、今後の長期調査につながる、大きな収穫があったといえる。

 

6.本事業について
    今回の事業に参加したことにより、昨夏の基礎調査時に確認できなかったことを再確認することができた。海外でのフィールドワークを実施する際には、移動や宿泊などで費用がかかるため、常にその資金をどう捻出するかに頭を悩ませることとなる。そのことからも、本事業のような支援プログラムの存在はたいへんありがたい。
しかしながら、今年は2月中旬が春節ということもあり、春節中はインフォーマントも帰省などで不在なことが多いことから、現地への渡航時期を2月末にずらさざるを得なかった。これにより、せっかく準備いただいている支援内容を十分に活用することができなかったのが残念だった。フィールドによってはいろいろと事情が異なることもあるため、本事業の実施時期についてはもう少し柔軟な対応をいただければと思う。今後もこのような、多くの学生が参加できる事業を継続していただけることを願っている。
 
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