国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





伊藤 潤(日本文学研究専攻)
 
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】
  聖徳太子伝承・信仰関係及び南都における寺社縁起に関する文書類の調査
2.実施場所
   
3.実施期日
  平成18年12月15日(木) から 平成18年12月19日(月)
4.事業の概要
 

・仏教美術資料研究センター(奈良国立博物館内)
・東大寺図書館(華厳宗大本山 東大寺内)

の2機関に所蔵されている、聖徳太子関係典籍類の調査――主として講式類・太子伝暦について、内容・法量・関連典籍の有無等――行った。

 
5.本事業の実施によって得られた成果

■仏教美術資料研究センター
聖徳太子に関する講式類(南都における2寺院が原所蔵)の閲覧を行った。現地で判明したことだが、原所蔵寺院の関係で、閲覧できるのが巻首・巻末(原本は巻子)の写真のみの資料もあったため、内容面に関する完全な調査は出来なかった。しかしながら、講式に関して、現在唯一翻刻資料として存在しているものは、1921年に大屋徳城氏が編纂し私家版で出したもののみである(のち1943年、『聖徳太子全集』第五巻に再収録)。大屋本に収録され、底本として用いられているものとの比較検討が行えた収穫は大きい。

■東大寺図書館
聖徳太子に関する講式類は、現在『国書総目録』に東大寺所蔵と記載されているが、東大寺図に移管されているか否かについて明確ではない上、東大寺図所蔵典籍の全貌も未解明であった。東大寺図書館所蔵の貴重典籍類を網羅した目録は、現在公刊されているものはなく、現地での所蔵カードの検索しか確認の手だてがない状態であったため、『聖徳太子講式』類に関連する聖教・典籍類(法会史料、表白類)の有無に関しても、充分に明らかな状態であるとはいいがたいものであった。
今回の東大寺図調査では、図書館側の都合もあり現物の確認・法量調査が叶わなかったが、聖徳太子に関する講式類の所在確認と、関連典籍・史料(具体的には、南都における各種法会文書、表白類)の確認という、基礎的な調査を主とすることで、次回以降のより細かい調査閲覧の足がかりとすることができた。

■今後の研究に繋がる点として
寺院所蔵典籍の閲覧は、寄託先が何所であるか等も含めて困難が多く伴うものであるが、今後の諸々の手続きを含む、聖徳太子に関する講式類の原本閲覧・調査の基盤となる知見・手がかりを得ることが出来た。仏教美術センター、東大寺図書館共に引き続きの調査が必要であるが、太子に関する講式を取りまく周辺史料を含めた広い形の調査・研究の基盤を調えることができた。
また、今回調査した典籍資料はすでに翻刻され活字化されたものがあるものの、内容・形式面などにおいて、なお補うべき点もある。今回二機関で閲覧したものは、国書総目録に記載されている典籍資料であったが、伝本経路・諸本比較の基礎データとして得る物は大きかった。今回調査した典籍資料は、本奥書・書写奥書など注目すべき点があるため、今後その点について、博士論文を初めとする論文及び口頭発表で論じる予定である。

6.本事業について
   
 
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