国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





伊藤 潤(日本文学研究専攻)
 
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】
  中世~近世における縁起・儀軌・講式類に関する聖教・典籍類の調査
2.実施場所
  仏教美術資料研究センター及び東大寺図書館
3.実施期日
  平成18年2月1日(水) から 平成18年2月6日(月)
4.成果報告
  ・小野随心院
・叡山文庫
の2機関に所蔵されている、聖徳太子に関係する講式類および事相(修法関連)・教相(教義関連)典籍の調査――内容・法量・紙質に関する――を行った。

5.本事業の実施によって得られた成果

■小野随心院
真言密教(「東密」と称されることもある)における一流派であり、三宝院流の流れを汲んで多くの典籍を所蔵している。この中で、聖徳太子に関連する講式・表白・願文といった、中世文芸に多く資する資料として(現時点に於いて)めぼしいものは、如意輪観音に関する講式や、法会に用いる表白類である。他の寺院にも同様に所蔵されている典籍もあるが、『国書総目録』において随心院の所在が記載されていないものもあるため、聖徳太子に関連する講式類の伝播状況を知る上で、欠くことのできない収穫となった。直接的に聖徳太子と関連する典籍でないものもあったが、これらは太子自身および太子にまつわる説話・伝承から派生し、中世に於いて流布した言説を基底として成立したものであるため、この調査によって(とくに内容面における)太子信仰の展開について成果を得ることができた。

■叡山文庫
比叡山延暦寺における本山・末寺が所蔵する多くの典籍を所蔵する叡山文庫においても、聖徳太子に関係する講式の調査を中心に行った。太子に関する講式類の伝本経路について知見を得ることで、ひいては叡山の講式類の伝播・伝法状況の一端を見いだすことが出来た。
また、叡山における太子信仰と関連するとおぼしき、教相書を数点確認することができた。当初、叡山文庫に所蔵されているであろうそれらの典籍に関しては、渋谷亮泰 編纂『昭和現存天台綜合書籍目録』において、ある程度の目星をつけていたのだが、今回の調査で、その書名に関する部分から、一纏まりに括ることもあるいは可能な典籍であるという可能性が強くなった。しかし、叡山文庫における所蔵典籍の全貌は膨大であり、未だ調査途上であるといってよい。そのため、今後も引き続き、この叡山における太子信仰に関わる典籍を調査する必要性があり、次回以降の課題としつつも、まずは未開テーマの発見として収穫となった。

■今後の研究に繋がる点として
まず、大枠的な成果としては、真言密教(小野随心院)、天台密教(叡山文庫)という、二大宗派の典籍を閲覧・調査によって、法会文芸が生成される過程に関して構想を得たことである。太子に関する講式それ自体の性質・史料的価値を考えると同時に、他の講式にも目配りすることで、「講式」全体という枠組みから、太子に関する講式を眺めること――とくに、一宗派・一寺院内の中での状況――が、今後の研究・博士論文作成に必要であり、それに対する足がかりを得ることが出来た。
また、叡山文庫で発見した、太子信仰に関わる可能性のある資料群の調査についても見落とせない。今回の調査で、太子に関する講式の展開とともに、太子の言説を奉持する堂舎に伝わる典籍群があり、その全体像を今後明らかにしてゆく必要があるということが分かった。両テーマに関して、今後も引き続き調査を行う。

6.本字業について
   

 
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