国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート



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松尾瑞穂(比較文化学専攻) | ||||
1.事業実施の目的 【h.海外フィールドワーク派遣事業】 | ||||
博士論文執筆のためのフィールドワークおよび文献資料収集 | ||||
2.実施場所 | ||||
プネー大学およびMulshi郡農村 | ||||
3.実施期日 | ||||
平成18年1月21日(土) ~ 平成18年3月18日(土) | ||||
4.事業の概要 | ||||
今回のフィールドワーク派遣事業に参加することで、報告者はインド・マハーラシュトラ州において次にあげる3点を重点的に調査した。なお、報告者は博士論文では、医療人類学的およびジェンダー学の視点から、インドのヒンドゥー社会における人口管理(バースコントロール)と不妊を中心とする生殖実践とその変容について、研究している。
1.プネー大学付属機関であるGokhale Institute of Economics and PoliticsにおよびBharat Ithihas Sanshyodan Mandalにおける文献資料収集。 まず、1の文献資料収集に関しては、これまでの長期調査で得られた知見をもとに足りない補足的なデータを収集することを目的として行った。主にGokhale Instituteでは当該州におけるセンサス(国勢調査)を集め、そこでの10年単位の人口動態を村レベルで把握することを努めた。さらに保健省、家族福祉課の年次レポートを閲覧し、インド政府の保健政策の流れを押させるとともに、アーユルヴェーダやホメオパシー、ユナーニーといった異なる医療システムが、国家の保健省のなかでいかなる地位にありどのように制度化されているのかを把握することを努めた。Bharat Ithihas Sanshyodan mandalでは、調査地域の歴史的経緯を独立以前の一次文献から把握し、当時の地図などを閲覧した。 | ||||
5.本事業の実施によって得られた成果 | ||||
学生フィールドワーク支援事業に参加させていただいたことで、報告者は次のような成果を得ることが出来たと考えている。まず、主目的である博士論文研究にとっては、これまでの長期調査を補足するかたちで、必要な詳細データを入手することが出来た点である。例えば、プネー市内の医療従事者への聞き取りでは、これまでの調査ではあまり接触することがなかったホメオパシー医師からも聞き取りをすることが出来たことに加えて、体外受精などの生殖医療技術を実施している医療機関のうち主要なものへ訪問し、見学することが出来た。これは、ひとくちに「不妊治療」とまとめて呼ばれているものの内実を明らかにするとともに、日本を始めとする先進諸国を対象にしたこれまでの不妊研究では見過ごされてきた、不妊治療の多様性と制度的医療の混交状態を明らかにすることへとつながる大きな成果であった。さらに、この調査結果をもとにして、2006年6月に東京大学で開催される日本文化人類学会において「不妊は病気か?-インドにおける不妊治療をめぐる制度的医療の中の多様性」というタイトルで研究発表をする予定である。 つづく農村調査では、改めてフィールドの人々とのつながりを強めることが出来、ラポールの形成に大きな成果を見出せる。インドに限らず人類学調査で肝心となる、このラポールの形成により、これまで入手することが出来なかった詳細なデータをある施設から預かることが可能となり、これまで個別に聞き取りをしてきた調査結果に、量的な裏づけを与えることになった。これは報告者としては今回のフィールドワーク事業のなかで、もっとも有益であった成果であるとともに、ある地元の関係者からこのデータの入手に関して、「おめでとう。ということは、あなたのこれまでの調査は成功しているということですね。それをくれたということは、彼らがあなたをどれほど信頼しているかを示していますよ」と言ってもらえたことが、個人的には大きな喜びであった。また、一年前の調査対象者を再度今回訪問することで、おおむね良好な反応を得ることが出来、聞き取りで得られる内容も大きく変化した。今回のこうした一連の経験は、報告者にフィールドとの長期的かつ継続的なかかわりの重要さとその面白さ、うれしさを感じさせてくれた。そして、このことは、単に博士論文の研究のために留まらず、人類学を専攻するものとして、大きな財産となっていくだろうことを感じさせ、より大きな成果として上げられる。 また、資料収集および調査に関しては、プネー大学社会学部および女性学センターの教授のアドヴァイスを頂戴するなどして、現地の学術機関とも交流を深めることも出来たことを付け加えたい。 |
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6.本事業について | ||||
新しく、今年度より学生フィールドワーク事業が始まり、文化科学研究科のなかでもおそらくもっともフィールドワークに出かけるであろう、地域文化・比較文化学専攻の私どもにとっては、大変歓迎すべきことだと思っています。知る限りでは、学生にこのような支援を行っている大学は少ないのではないかと思いますが、今回このように再調査に出かけ、博士論文のための研究成果を得る機会を与えてくださった、総研大の諸先生方および関係職員の皆様に感謝いたします。 |
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