専攻専門科目履修等派遣事業 研究成果レポート





奥本素子(メディア社会文化専攻)
 
1.事業実施の目的 【a.他専攻活用事業】
   国際日本文化研究センターにおける共同研究会参加において、国際日本研究専攻では、研究科を横断した教育研究活動の場を継続的に提供することを目的とし、教員及び各専門分野の研究者との実践的な研究活動を通して研究科全体の学術交流を活性させ、高度で専門的知識・能力の修得を目指す。
2.実施場所
  国際日本文化研究センター
3.実施期日
  平成18年11月22日(水)
4.事業の概要
 

今回は、日本文化研究の二つの授業を聴講した。
まず池内恵先生の「井筒俊彦の神秘主義・イスラム思想論に現れる『日本思想』」においては、文化の紹介の過程と、その紹介過程における紹介者の役割に関して学んだ。井筒俊彦は日本にイスラム思想を紹介した第一人者ということだが、彼の紹介した内容には彼独自の解釈や選別がなされているため、井筒流のイスラム思想論と、現実のイスラム思想論は区別しなければならないとのことだった。しかしながら一時期の日本思想界の井筒への傾倒がこの区別を曖昧にしてきてしまった、というご指摘であった。文化流入の初期段階では、紹介者の視点の比較が出来ないため、つい紹介者の視点がそのままある文化を映した鏡のように受け止められがちなのかもしれない。博物館・美術館もある意味、文化の紹介者である。文化を紹介する際、どこまで中立の立場を守って紹介できるのか、もしくは誤解のないように紹介するのかは博物館学が考えるべき今後の課題である。今回の事例によって、受けて側にも情報を客観的に判断するリテラシーが必要であるし、また一つの視点がスタンダードになってしまう危険性も実感できた。
  その後、山田奨治先生の「情報のまとめ方について」の講義を受ける。山田先生自体、理系出身の研究者と言うこともあり、文系と理系の考え方の違いを分かりやすく教えてくださった。私は社会科学のメソッドで現在研究を進めているため、どちらの立場も折衷で使用している。その点では理系の研究の進め方も文系の研究の進め方も両方学ばなければならないので、二つの立場を明確に理解することは大変参考になった。また統計を鵜呑みにしてはいけないことも勉強になった。
 その後、山田先生には日文研のデジタルアーカイブについて、お話を伺って、直接博論につながる調査が出来た。先生がデジタルデータ化された文学資料から、コンピューターで客観的に抽出されたデータから、意味づけして研究なさっていると言う事実も、デジタルアーカイブの新たな利用法の一つと参考になった。今後はそのような研究手法の確立が望まれる。
  日文研の授業では、私が研究している博物館学のヒントになるようなアイディアがたくさん学べた。やはり、文化を紹介したり、文化を情報として取り扱ったりする際には、それぞれの立場と意図を明確にしていかなければ、混乱と誤解を招くと考えた。

5.本事業の実施によって得られた成果
   博士論文研究において、私は博物館のものの解説の方法を研究している。今回の池内先生の授業では、紹介内容は紹介者の視点や意図を含むものであり、現実を正確に反映しているとは言いがたい、事実を痛感した。
 前時代的博物館での民族展示は、現在見世物展示と非難されている。様々な文化の違いだけを強調し、博物館のものめずらしい、と言う後期の視点のみで展示が構成され、文化が紹介されてきた。しかし、それは文化解釈の一側面に過ぎず、本当は多くの民族で近代化が進んでいたり、紹介されている文化とは違った側面を持つ。博物館では、最近は民族側の視点を持つ展示や、多角的な視点からの展示などの工夫がなされている。それは鑑賞者に展示側の意図がそのまま文化の事実として伝わらないような工夫である。
 今回、池内先生のお話を聞いて、もう一度博物館リテラシーについて考えてみるべきだと思った。それはどこまでがある人の視点で、どこまでが実際にあることなのか、あったことなのかを明確に区別しなければならないと言うお琴になる。そしてそれは受け手がリテラシー能力を高めることも必要だが、同時に発信者側にも思想と現実の明確な区別と提示が必要だと感じた。
  次の授業は山田先生の授業で、情報の見方を勉強した。理系には雑誌のレベルが決まっていて、研究者の質なども数値的に測れるという事実は驚きだった。社会学系ではそのような傾向はあるものの、理系ほどは明確ではないような気がする。ただ、研究者である以上、評価の重要性というものも認識せざる得ないので、今回の理系研究のお話は自分の今後の研究人生を考えていく上でも参考になった。ただ、統計に関してはもう少し突っ込んだお話が聞きたいと思った。
  その後、先生と日文研のデジタルアーカイブについてお話した。日文研のデジタルアーカイブはオンライン公開を主眼において、それを実践している先駆的なアーカイブである。デジタルアーカイブのオンライン公開は、著作権などの関係で多くの博物館・美術館、また文書間の課題になっているが、日文研の場合、著作権問題をクリアできるかどうかも、設計計画段階の大きなポイントになるとのことで、設計段階でのオンライン公開を見越している事実は大変参考になった。実際にデジタルアーカイブを作成しても、それが館内公開のためだけに利用されている場合が多い現状の中、計画層でのオンライン公開への意識の重要性というものを改めて感じた。また、国立歴史民俗博物館や国立西洋美術館でのアーカイブズ作りに携わった経験などもお聞きして、博物館、美術館でのユーザビリティ研究の実践は今後の自分の研究の評価手法として参考にさせていただきたいと感じた。

6.本事業について
   
 
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