国内外研究成果発表会等派遣事業 研究成果レポート





大野順子(日本文学研究)
 
1.事業実施の目的 【d.国内学会等研究成果発表派遣事業】
  全国大学国語国文学会での研究発表
2.実施場所
  群馬県立女子大学
3.実施期日
  平成18年12月2日(土)~12月3日(日)
4.事業の概要
  全国大学国語国文学会は、一九五六年に全国の大学における国語国文学専攻の機関に向けて学会設立を呼びかけることによって発足したものである。このたび、私が参加したのはその五十周年記念大会であったが、会場校となった群馬県立女子大学で定期的に行われている「群馬学連続シンポジウム」との共催ともなっていた。
このため、第一日目は「地域から見る日本のことばと文学」ということで、群馬と関係した公演と実演とが行われた。公演は、「地域生活語の地平―群馬のことばを中心に―」、「菅江真澄の表現―地誌と〈歴史〉の再構築―」、「近世・近代の語り物芸能としての祭文―上州祭文を中心に―」、「歌謡圏における地域という歌題―上州の歌謡を軸として―」、そして草津温泉正調民謡保存会による民謡の実演が行われた。「群馬学連続シンポジウム」は研究者のみならず、群馬に関わる幅広い方々の参加が不可欠とされているため、今回も学会参加者の他に多くの群馬県民の方々が参加していた。そのため公演の内容は、専門外の方々にも興味の持ちやすい方向で行われていたが、現在、歌謡を研究している私にとっては、テキスト分析の方法など興味深い点も多かった。
二日目は研究発表が行われたが、これはA会場とB会場の二つに分かれて行われた。私が参加したA会場では、「『伊勢物語』の短小段と「二条后物語」―五一段から五七段の考察を通して―」、「藤原顕季の和歌と今様」、「「白峰」に見る「和」―「隔生即忘」を強いる西行―」、「「須磨」巻の上巳の祓をめぐる一考察―「三月十三日」の日付と韓国神話との関わりから―」、「浮舟の〈幼さ〉〈若さ〉―女の幼児性としぐさから―」、「サホビメ物語の形成―記紀の原資料と中国史書―」、以上六つの発表が行われた。

5.学会発表について
  今回、「藤原顕季の和歌と今様」というテーマで発表を行った。概要は以下の通りである。
藤原顕季(一○五五~一一二三)は、和歌の家である六条藤家の祖であることや、人麿影供を創始した人物であることで著名である。また、『郁芳門院根合』や『堀河百首』などに出詠し、永久年間以降はいくつもの歌合で判者をつとめたことなどからも、この期の歌壇の重鎮であったことがわかる。このように歌人として重きをなす位置にあった一方で、母親の親子が白河院の乳母であった関係から、顕季は院の近臣としての一面も持つ。
その当時、院北面ではさまざまな芸能が盛んに行われており、そのひとつが今様であった。記録の上で、顕季自身が今様を歌ったかどうかまでは確認できないが、『梁塵秘抄口伝集』の今様談義の場にその名が見えることなどから、少なくともパトロン的な立場で遊女や今様と関わっていたと推測できる。井上宗雄氏に、顕季は和歌以外の「諸芸に興味を有して或る域にまで達し、随時子孫に伝えることに関心があったらしい」との指摘がすでにある。そうであれば、院北面において盛りあがりを見せていた今様についても、子孫に伝えるために一定以上の知識を持ちあわせていた、と考えるのが自然であろう。
このことを前提として、従来あまり語られてこなかった今様と顕季の和歌との影響関係に着目して和歌の分析を行ったすると、これまでは万葉の古語を取り入れることが盛んであるといった、万葉との繋がりを強調するような指摘が多かった顕季であったが、一方で、今様のように流行の最先端とも云うべきものを取り入れてもいたことが判明した。本発表では顕季と今様の関連を指摘するのみとなってしまいましたが、今後は顕季の周辺歌人と今様の関わりを調べ、さらには今様が同時代以降の歌壇に与えたものを探っていきたいと考えている。

6.本事業の実施によって得られた成果
    本事業を実施することによって、これまでの研究成果の一部を学会で発表することができた。それによって、異なる分野の方々から様々なアドバイスを得ることができたのは最も大きな成果であったと考えている。出来る限り広範囲に目配りをと考えても、個人で出来ることには限界がある。学会で発表しそれに対する意見を意見を頂くことで、それが全てではないにしろ解消できたことは、今後の博士論文研究にとって大きなプラスであった。特に、歌謡を専門とする方からご意見を頂けたことは、博士論文との関わりで歌謡という新たな分野に取り組み始めたばかりの私にとっては非常に有意義なことであった。これを足がかりとして、今後の研究を更に押しすすめていきたい。

  ただし、反省する点もいくつかある。学会発表に不慣れであったため、準備段階からかなり手間取るなど、至らぬ部分が多々あった。研究発表を聴講する機会はこれまで何度もあったが、内容の理解に目が行くことが多く、発表者としての視点で他者の発表を見ることなどはほとんどなかった。しかし今回の事業の実施を通して、プレゼンテーションのスキル向上を目指す必要性を感じた。たとえば、発表内容に革新的なものがあったとしても、それが容易に他者に理解されるものでなければ、有効な意見交換なども行われない。研究内容そのものの向上がまず第一であるが、それとともに発表の工夫も必要であると痛感した。

7.本事業について
 

学生にとって、遠隔地での調査や学会参加は非常に負担が大きく、ともすれば消極的になりがちです。しかし本事業によってそういった負担が解消されるのは有り難いことです。今後も継続して頂けることを願っております。