国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





大内瑞恵(日本文学専攻)
    
1.事業実施の目的 【h.海外フィールドワーク派遣事業】
  博士論文執筆のための補足調査(海外にある日本古典籍の調査)
2.実施場所
  ①The University of Virginia Library
②Harvard University/Harvard-Yenching Library
3.実施期日
  平成18年2月12日(日) ~ 平成18年2月20日(月)
4.事業の概要
   ハーバード大学に所蔵されている文献(『伊勢物語』などをはじめとする江戸期写本・版本)を調査する。現在、『近世前期における宮門跡の文事』を研究するにあたり、和本・漢籍・古文書などさまざまな資料を対象とし、国内における文献調査を現在進めているが、同時に海外に所蔵されている文献の調査も進行させる必要がある。今回は、最初にJapanese Text Initiativeで知られるヴァージニア大学図書館へ行くことをも予定している。これによって未調査の写本版本を調べるだけではなく、海外における資料の状況なども研究できると期待している。

5.本事業の実施によって得られた成果
 本事業による調査結果は、確実に論文として発表したいことがらである。
  調査先において、確認できた事柄から江戸時代における写本の様相、転写の流れなどを把握することができた。今回、実際に図書館を訪れ、資料を見ることによって、目録だけではわかりえない、奥書の記述から新たな発見があったといえる。しかしながら、これは海外へ流出した古典籍のほんの一部に過ぎないため、調査をさらに進める必要があるといえよう。江戸時代にさまざまな人物が個人コレクションとして、書物を収集、または写本をつくるという方法により蔵書を増やしてきたが、それらのコレクションはその人物の没後、または家の事情により多くが散逸してしまう。
  その一部が、日本からアメリカに渡り、現在読まれることもなく保管されている状態である。しかし、その書物に押された蔵書印などからその来歴を探るとたいへん興味深いことがわかる。
  近年「美術品の流転」について語られることが増えてきているが、「書物の流転」についても注目されるべきであろう。そういった意味でも今回の調査はたいへん意義深いものであり、よりいっそう研究、調査を深めた上で、あらためて報告したいと考えるものである。
6.本事業について
   一つの時代の文化状況を調べるとき、さまざまな資料を調査しなければならない。今まで、時間的・経済的事情から、なかなか遠方の地域への調査に赴くことができなかった。
  本事業のおかげで一箇所にとどまることなくさまざまな資料を調査することができ、研究のさらなる展望も開けたと思う。
  今後も、本事業の継続によっていっそう進化、または深化した研究ができると思う。
  今回の調査だけでは、すぐ結果がでるというものではないが、近世の堂上と地下の文事の交流を探るために書物の流出、流転の調査は、いずれ正式に論文発表し、広くみなさんのご叱正を仰ぎたいと思う。
  その点においても、本事業はさまざまな可能性をもっているため、多いに期待できると思う。

 
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