国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





菅野美佐子(比較文化学専攻)
 
1.事業実施の目的 【h.海外フィールドワーク派遣事業】
  博士課程における研究テーマに関する資料文献収集および現地でのフィールドワークによる第一次資料の収集
2.実施場所
  インド共和国(デリー・ワーラーナスィー)
3.実施期日
  平成18年 2月 8(水) ~ 平成18年 3月25日(土)
4.事業の概要
  研究テーマ:「北インド農村社会におけるリプロダクティブ・ヘルスプログラムを通した女性の自己形成と主体構築」

* 関連研究機関における資料収集
デリーの発展途上社会研究所(The Center of Studies for Developing Societies)に訪問し、以下の資料収集を行った。

・ 研究対象地域(ウッタル・プラデーシュ州)に関する政治、地理、社会、文化的状況に関する資料(新聞・雑誌・研究論文などを含む)。
・ インド政府および国際機関が取り組むインドの農村開発に関する文献資料。
また、同じくデリーに所在する開発と女性研究所(The Center of Studies for Women and Development)において、以下の資料の収集を行った。
・ インドの主に農村の女性をめぐる社会、文化的特性や現状をあつかった研究資料。
・ インドで展開されている女性の自助組織の活動や女性運動組織に関する文献資料。
・ 主に農村の貧困女性の現状改善に対する政府の政策や国際機関の取り組みに関する資料。

* 研究対象地域におけるフィールドワーク
研究対象地域である北インド、ワーラーナスィー近郊の農村に滞在し、政府の資金援助で展開されている貧困女性のための自助組織とその組織に参加し活動を行う女性に焦点を当てて調査を行った。 
調査の目的は第一次資料の収集であり、調査方法は主に以下の通りである。

・ 組織が月2回展開する村落でのミーティングおよび地区ミーティングにおける参与観察。
・ 同組織が主催する保健プログラムの活動(近郊村落の住民の健康状況に関するフィールド調査、および村落住民に対する主な病状への対策の仕方についての情報提供。組織の地区事務所での草薬作りと村落住民への草薬の安価での提供)における参与観察。
・ 会員女性および組織職員の日常生活や家族との関係性に関する参与観察。
・ 組織職員や組織の活動に参加する女性たち、およびその家族や隣人に対する聞き取り調査。
・ ビデオ撮影(活動の様子、日常生活の様子、会員女性および組織職員へのインタビュー)。

以上の参与観察および聞き取り調査を通じて、(1)組織の活動が村落社会の人々にどのように捉えられているのか、(2)活動を行うことによって、職員女性や活動に参加する女性と、その家族や隣人との関係性にどのような変化がみられるのか、(3)活動に女性たちが参加することで、彼女たちの自己の認識や表出のあり方にいかなる変化がみられるのかという観点からの検証を行った。

5.本事業の実施によって得られた成果
  デリーの研究機関やワーラーナスィーの組織の事務所への滞在などによって、日本では入手しにくい論文や新聞、雑誌あるいは組織による出版物などといった文献資料を入手することができた。 また、現地フィールドワークに関しては、主に前回(2003年1月より19ヶ月間)行ったフィールドワークの捕捉調査を遂行し、博士論文の研究に関しては以下の点で成果を得ることができたと考えている。

・組織事業の新たな展開についての把握
前回のフィールドワークから1年半が経過していたため、本組織ではプログラムの内容や規模の拡大、およびプログラムの対象となる村落数や職員数の増加が図られており、その人数や規模に関する調査を行うことで、本組織の活動の動向および当該社会に与える影響について把握することが可能となった。
・聞き取り調査(インタヴュー)
前回のフィールドワークでも聞き取り調査を行ったが、その際に見落としていた点や、聞くことのできなかった質問、あるいは新たなインフォーマントへの聞き取りを行うことで、前回得られた情報をより深めることができ、今後の分析に役立つ情報を入手することができた。また、前回の調査に比べて、組織のプログラムの規模が拡大したことや、前回の調査から1年半が経過していたことなどにより、参加者や職員、さらには活動が行われている当該社会の人々の認識にも変化がみられ、前回の調査で得られた情報との比較を行う上でも有用な情報を得ることができた。

・参与観察
前回の調査では組織の活動そのものに主に焦点を当てて調査を行ったが、今回は組織が活動を行う村落社会の人々の生活の様子や人間関係などに関して重点的に参与観察を行った。これにより、組織の活動を通じて女性の日常生活や、家族、隣人との関係性にいかなる変化がもたらされているのか、また、組織の活動に対する村落住民の対応のあり方などについてより詳しい情報を入手することができた。
さらに研究発表に関しても以下の2点について成果を得ることができた。
・ 現在投稿中の論文(「How ‘Disparity’ constructs ‘Solidarity’: A Case Study of an Organization for Women’s Participatory Development Program in Rural Uttar Pradesh」)に関する補足的な情報の入手(論文の内容は博士論文の第3章にあたる)。
・ 6月上旬に「文化人類学会」にて発表を行う予定である研究(「揺れる自己―北インド農村社会で暮らす女性の活動実践をめぐって―」)に関する補足的情報の入手(発表の内容は博士論文の第4章にあたる)。

6.本事業について
   
 
 戻る