国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





山田香織(地域文化学専攻)
 
1.事業実施の目的 【h.海外フィールドワーク派遣事業】
  博士論文執筆に必要な文献の収集
2.実施場所
  ドイツ連邦共和国バイエルン州ミュンヘン市内 (州立図書館、州立統計局、州立測量局、ルートヴィッヒ・マクシミリアン大学民俗学・ヨーロッパ民族学部図書館)
3.実施期日
  平成18年2月19日(日) ~ 平成18年2月27日(月)
4.事業の概要
 

 このたび、わたくし山田香織は、総研大文化科学研究科海外フィールドワーク派遣事業の支援をうけて、ドイツ連邦共和国の南部に位置するバイエルン州の州都ミュンヘンに1週間滞在し、博士論文の執筆に必要な資料ならびに文献の収集をおこなった。これまで基盤機関である国立民族学博物館の図書館を通じて、論文執筆に関わる国内外の書籍や論文を入手してきたが、博士論文で取り上げている調査地に関する資料や、ドイツ語文献のなかには、日本国内では入手不可能なものもあった。そこで今回は、当該事業を利用し、こうした日本では入手困難な資料の閲覧・複写をおこなった。

ミュンヘン滞在中は、以下4つの機関で資料収集を実施した。
・ バイエルン州立統計局(Bayerisches Statistisches Landesamt)
・ バイエルン州立図書館(Bayerische Staatsbibliothek)
・ ルートヴィッヒ・マクシミリアン大学民俗学・ヨーロッパ民族学部図書館 ( Ludwig-Maximilians-Universitat,
Institut fur Volkskunde und Europaische Ethnologie)
・ ミュンヘン測量局(Landesvermessungsamt Munchen)

各機関での調査内容について詳しく述べると、まず、統計局では、1900年代から1930年代までの膨大な統計資料ののなかから、調査地に関する統計資料ならびに調査地が位置するバイエルン州オーバーバイエルン地方の統計資料の閲覧・複写をおこなった。つぎに、バイエルン州立図書館では、渡航前に閲覧申請を出しておいた約20冊の文献を借り出し、以前から入手を希望していた論文と著書の一部を複写した。そして、LMU大学民俗学・ヨーロッパ民族学部図書館では、州立図書館同様、博士論文に関連する書籍や雑誌を閲覧し、そのなかの一部はコピーした。また、学部図書館ではこのほかに、博士論文とは別に、近年のドイツにおけるドイツ文化研究の動向を探るべく、雑誌掲載論文のテーマの傾向と、学会および各種研究会の開催状況の把握にも努めた。さいごに測量局では、近年あらたに発行された、デジタル化された調査地の地図を入手した。
  ドイツ滞在は、平成18年2月19日(日)から2月26日(日)までの7泊8日だったが、訪問した機関の開館時間の関係上、わたしが実際にこれら各機関を訪れることができたのは、2月20日(月)から2月25日(金)までの計5日だった。統計局には2月20,21,22日の3日間(いずれも午前)、州立図書館には2月20,21,24日の3日間(いずれも午後)、大学学部図書館には2月22,23日(いずれも午後)の2日間、測量局には2月23,24日(いずれも午前)の2日間かよった。 

5.本事業の実施によって得られた成果

今回、総研大・海外フィールドワーク事業にご支援いただいて実施した短期調査によって得られた成果は、大きく3つに分けて挙げることができる。

1. 博士論文の執筆に関して
  わたしが博士論文で扱っているテーマは、ドイツ社会における人びとの絆のありようである。論文では、ドイツ語で「フェライン」と称される市民団体について、約2年にわたるミュンヘン近郊の自治体でのフィールドワークで収集した一次資料と文献資料をおもに用いながら、フェラインという組織の形態を提示するとともに、人びとのフェラインへのかかわりかたを記述、分析することで、社会学的研究ではこれまで自明視され、意外にも見落とされがちであった、ドイツの地域社会における人びとのつながりや社交のありようを描きだすことを試みている。
 すでに長期フィールドワーク期間中や、その後の補足調査で再び調査地を訪れた際に、博士論文に関連する文献資料の収集はおこなっていたが、博士論文の執筆が最終段階を迎えた最近、これ以外にも執筆に必須と思われる文献が新たに出てきていた。しかも、論文執筆に不可欠な追加文献の多くは、日本国内では入手困難なものであった。ゆえに、これら文献を直接手に取り、その内容をじかに確認し、必要な論文を入手することができた今回のドイツ訪問は、わたしの博士論文により深みを加える、貴重な資料収集の機会として意義あるものであったといえる。

2. 今後の研究に関連して
  今回訪れた各機関には、以前にも足を運んだことがあったので、諸機関の利用方法に関してはある程度承知していた。しかしそうはいっても、博士論文執筆後も引き続き、ドイツ文化研究をすすめていきたいと考えている私にとって、1年数ヶ月ぶりにこれら機関を訪れ、各担当者と顔を合わせることができたことは大変有益であった。
 また、今回、大学図書館において、日本国内ではなかなか目にすることができない学術雑誌を手にすることができたことも、私にとっては非常に価値あることであった。今回、わたしは大学図書館で、数冊の学術雑誌に目を通し、そのなかのさらに数冊については、2000年以降の目次をすべてコピーしてきた。これらは、ドイツ国内におけるドイツ文化研究の動向把握に利用できると考えている。そして、博士論文執筆後にはこの分析を、新たに取り組むテーマの選択のための資料として活用したい。

3. そのほか
今回は、ミュンヘン市内に宿泊場所を確保したことに加えて、滞在期間が1週間と短期間だったこともあり、これまで調査をおこなってきた自治体の状況をゆっくり観察することはできなかった。しかし、ミュンヘン市内中心部のストリート、そして同市内の日本料理レストラン事情については、新たにデータを得ることができた。なかでもミュンヘンの日本料理レストランに関するデータは早速、総研大イニシアティヴ事業の一環として現在、地域文化学専攻・比較文化学専攻で企画をすすめている食文化に関するプロジェクトのなかで、ドイツの日本料理の紹介文に活用した。

6.本事業について
   先にも述べたとおり、今回のドイツ滞在でわたしは、日本では入手困難な資料を閲覧・複写することができ、有意義な時間を過ごすことができた。この訪問は、文化科学研究科海外学生派遣関連事業の支援がなければ実現できなかったので非常に感謝しています。
また、今回は、申請から支援許可をいただくまでに要した時間は非常に短く、スムーズに渡航にこぎつけることができた。博士論文の提出時期が間近に迫っているわたしにとっては、時間を有効活用することができました。

 
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