描かれた便所




我々国際日本研究専攻の院生は、今回与えられた課題「洛中洛外図」より、そこに描かれた共同便所に焦点をあてようと考えた。我々の専攻の特色を生かしながら、屏風に便所が描かれているということは如何なる意味を持つのかを考察する。さらにそこから、描写の対象である室町時代の社会について、どの程度の情報が得られるのかということに関しても何らかの成果を期待した。

六箇所に出てくる共同便所を検討した結果、便所は雲に隠されている場合を除いて、常設の店棚に囲まれた中庭に描かれていることがわかった。また、寺社や武家屋敷を描いた場面には便所が見出せないことも明らかになった。これは便所が、都市社会に成立した商人共同体の生業や生活に欠かせない「公共」施設であったからであろう。つまり、屏風の制作者にとって便所とは、都市社会に展開した商人たちを描くために必要なものであったとも言える。

こうして便所像を検討することにより、日本中世都市文化に考える上での様々な視点、たとえば市町の成立と交通、便所の内在化と便所神信仰、市における衛生管理といったものにも触れることができた。共同便所は、日本の衛生文化史のみならず、社会史を理解するために重要な手がかりになり得ると考えられる。それを積極的に考察する意義は小さくないであろう。

 

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