参加した学会等のタイトル:
北京日本学研究センター成立20周年記念国際シンポジウム

開催場所:
北京外国語大学北京日本学研究センター

開催期日:
平成17年10月13日(水)から10月16日(日)

参加した学会等の概要:
北京日本学研究センター成立20周年記念国際シンポジウムは10月13日から16日まで4日間にわたって行われた。今回のシンポジウムでは「日本的」の現在というテーマから、日本文化を総合的に検討がなされた。歴史を正しく把握するために、日本文化を外からの視点で考え、「いま」の日本を理解するという趣旨で企画されたものである。

14日の午前は開会式と記念講演があり、午後は「ジブリアニメの力」というテーマで日本、アメリカ、中国の学者を招いてパネルディスカッションが行われた。現代日本の映像文化を代表する「スタジオジブリ」をパネルディスカッションのテーマとして取り上げたのも、それが「日本的」なるものを象徴的に集約していると考えたからであろう。ポスター研究発表がその後に行われた。15日は「日本語学・日本語教育学分科会」、「日本文化・文学分科会」、「日本社会・経済分科会」という三つの大きなジャンルに分け、10教室で同時進行に各発表が行われた。ポスターセッションの発表者を含め、160人にも達した中国の日本研究史上で発表人数の一番多いシンポジウムになった。15日の夜は同窓会第一回総会を催し、歴代の主任先生とOB代表が涙を流しながらセンターの20周年の歴史を語ってくれた。最終日の16日は日本国対中国学術・教育協力プログラムの説明会を行ってから閉幕した。豊富な情報量で充実したシンポジウムであった。

主に参加した分科会のセッションは「日本文化分科会」であった。「靖国問題と歴史認識」という特別講演の後、十人が研究発表を行った。テーマはさまざまであった。歴史に属するテーマには、平安時代の皇統意識から、中世の禅僧の研究、中日庭園の文化交流、日清戦争前後の中日経済関係、ポスト冷戦期の日本のナショナリズムなどこれまで研究が積み重ねられた「日本式」の側面が論じられた。それらは現在の日本文化にまだ影響しつづける生命力でもあり、その根源はどこにあるのかを探り、また今日の日本社会にはそれらをどのように理解すべきなのかを論じられた。多くのテーマが古くから中日両国の相互関係と文化的交流に着目していた。研究のアプローチとしては国家レベルの交流史だけではなく、民衆の間での多方面の交流およびその意義を大きく取り上げた。現代の問題に属するテーマには、特別講演を含め、憲法改正問題や、日本のマスメディアの問題、ジェンダー、教育など多方面にわたり現代日本社会の関心点が論じられた。とくに最近話題になった靖国神社参拝の問題、憲法改正の問題、またそれを取巻く日本と中国のマスメディアの反応などは議論の中心になった。それらの問題は単に時事論の次元で論ずるのではなく、政治、歴史、日本人の宗教意識、アジア隣国の歴史認識も含めて議論すべきだと考えている。歴史問題の解決は一国の立場だけでは感情的になりかねないゆえ、お互いに違う視点、違う立場に立って考察する必要があると思われた。

学会参加以外の日程について:
シンポジウムに参加するほか、主に資料の収集とフィルドーワークを行った。北京の庭園と青島の公園を見学することができた。両都市は2008年のオリンピックの開催都市として、今は大変な建設ラッシュに追われ、経済的な活力がみなぎっており、道路の修繕や高層ビルの増加などめまぐるしい変化を遂げている。また、以前長年にわたり修繕せずに放置されていた公園なども新しく開発され、緑地面積も多くなった。文化、歴史的観光スポットが整備しつつあることに、今回は最大の感銘を受けた。特に北京では歴史的庭園と貴族の宅園の研究と整備が速いスピードで行われ、皇帝の宮廷園林だけではなく、今まで封じられてきた貴族の宅園もいくつか市民に開放されていた。また市民の憩いの場としての公園も増やし、経済発展とともに、文化力の向上も図っている。同じ現象は青島でも見られた。市内にある見晴らしのいい山は全部公園として開発され、開放された。公園中にある歴史的要素に関しても多いに研究され、整備されていた。人々は自分の住環境に対し内部の設備だけではなく、周辺の緑地やレクリエーションの場所の有無に大きな関心を払っている。今後の都市計画を考えるとき、こういった傾向を充分に考えにいれなければならない時代がやってきたと思う。

学会に参加して得たこと:
今回のシンポジウムは「日本的」の現在というテーマから、日本文化を多方面から総合的に検討したものであった。歴史を正しく把握するために、日本文化を外からの視点で考え、「いま」の日本を理解するという趣旨であった。私の今の研究テーマは日本伝統文化の代表の一つである「庭園」を取り扱っている。「庭園」が「いま」の時代でどのように理解されるのかを考える必要があると思っている。博士論文では、江戸時代の庭園における景観構成の歴史的変遷と現代的意義を取り扱っている。江戸時代における庭園景観の内部構成は、日本伝統の名所旧跡景観の見立てが重用されつつも、江戸の風土、武家の趣味教養と社会情勢に応じ、中国や西洋庭園の景観と手法を進んで取り入れ、後代造園に多大の影響を及ぼしてきた。当時の造園をめぐる諸相を、それを支えた社会のまなざしの上に再評価することを試み、さらに現代のランドスケープと都市計画研究における意義を検討したい。

今回はその中でも代表的な中国の西湖景観を取りあげ、日本庭園における西湖景観の受容とその背景に潜む文化交流の面を中心として考察し、発表した。それを踏まえて、日本庭園の西湖表現の歴史的変遷を明らかにしたうえで、中国の視点から日本庭園にある中国式の景観をどのように理解すべきなのかを考え、現在の日中両国の庭園の景観構成における意義を検討していきたい。

発表に対する質問および後に先生方と懇談したときに議論を重ねた結果、中国の立場から日本庭園にある中国式表現と発祥地の中国の景観との違いおよびその伝播のルートを大変興味深く聞くことができた。中国との文化交流の中で日本庭園を捉えるべきであると考える。なぜなら、庭園文化を検討する際、日本の内部だけで消化する場合、結局全面的な認識は得られないからである。言い換えれば、庭園の本当の姿が分からなくなることもある。この意味で、外からの視線は庭園研究に極めて重要な示唆を与えてくれると考えている。今まで日本に限って庭園の要素を考えてきたが、今回は全然気づいてない部分を考えさせられたことが最大の収穫だと思う。庭園を研究するとき、原風景になる方と受け入れる方の両方の立場の検討が必要になる。この意味で、今の庭園研究は各国との文化交流の観点に立つべきであろう。現代の観光立国、景観法、郷土風景、文化的風景などといった数々のキーワードとの関連から眺めると、庭園には外的な刺激に触発された部分が多く、庭園研究と都市計画の関係を考え直すきっかけにもなった。こうした視点から江戸時代の庭園の景観構成を、周辺のアジアの視線ないし世界的な規模の交流と変動の中で考えてゆきたい。

講演と発表を聞いているうちに、日本に対し今現在の中国では何に関心を持っているのか、また日本研究の仕方と現状を知り、日本研究の更なる発展の方向性を把握することにたいへん有益な示唆をたくさん得た。また今回は私の出身校である北京日本学研究センターの成立記念でもあり、各界の先生たちとの交流を深めた。自分も中日文化交流の一員として責任を感じ、頑張りたいと考えている。



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