張培華(日本文学研究専攻)
 
1.事業実施の目的 【d.国内学会等研究成果発表派遣事業】
   平成19年度 中古文学会 秋季大会 研究論文発表
2.実施場所
  山形大学
3.実施期日
  平成19年10月6日(土)~10月7日(日)
4.事業の概要
 

 平成19年度 中古文学会(http://wwwsoc.nii.ac.jp/chu-ko/)秋季大会は、先月(2007年10月6日、7日)の二日間で、山形大学で行われた。中古文学会については上に申しあげたホームページを御覧頂きたい。ここでは研究発表の概要をご報告したいと思う。
 今回の山形大学の小白川キャンパス、教養教育二号館で行われた中古文学会の秋季大会は、全国の各大学、研究機関からの先生、研究員及び大学院生など、合わせて200名くらいが参加された。6日(土)の午後1:00開会の辞、会場校代表菊地仁先生に挨拶をした。研究発表は午後1:10から、4:50までに行われた。午後の発表テーマは、以下に書いて置く。(発表順)1総合研究大学院大学大学院の張培華(筆者)の「源氏物語「空蝉」出典論」、2東洋大学大学院の古田正幸氏の「大弐乳母一族と源氏一族 ―『源氏物語』と乳母・乳母子―」、(休憩)3國學院大學大学院の笹川勲氏の「「明石」巻末の冷泉帝 ―「御才もこよなくまさらせたまひて」を始発として―」。4増田舞子氏の「『源氏物語』麗景殿女御の入内 ―朱雀帝入内後宮における右大臣家后妃―」、5國學院大學大学院(研)の岩原真代氏の「「蓬生」巻の末摘花と常陸宮邸の住環境 ―〈劣位の宮家〉の宿業を担って―」である。午後の発表は五編である。懇親会は夜17:30~19:30山形オーヌマホテルで行われた。懇親会に間に、日曜日の発表者と当日の発表者の自己紹介が行われた。日曜日、10月7日の研究発表は以下のように行われた。発表者及び発表テーマを示す。(発表順)午前の研究発表(9:30-12:20)1法政大学(非)の山崎和子氏の「輝く日の宮の〈落日〉 ―哀傷歌の象徴性―」、2岡山大学大学院の牧野裕子氏の「『源氏物語』朝顔巻の回想場面 ―場面取りによる『長恨歌』の内在―」、(休憩)3日本大学大学院の笹生美貴子氏の「明石物語の達成 ―三つの視座から―」、4早稲田大学大学院の有馬義貴氏の「『源氏物語』の薫と〈はらから〉 ―〈母〉の問題との連関をめぐって―」である。日曜日の午前の研究発表は以上4編である。休憩・昼食(12:20-13:30)をはさみ、午後の研究発表は以下のように行われた。発表者名及び研究発表テーマを示す。(発表順)午後の研究発表(13:30-15:30)1明治大学(非)の 湯浅幸代氏の「『うつほ物語』国譲巻に見る氏族と「孝」の論理 ―『九条右丞相遺誡』を媒介として―」、2武庫川女子大学大学院(研)の足立祐子氏の「孝標女の帰京したときの家」、3都留文科大学(非)の伊東祐子氏の「藤原俊成と紫式部歌をめぐる試論 ―『千載集』入集の紫式部歌を手がかりに―」である。午後の研究発表は三編である。体表委員(代行)福家俊幸氏は閉会の辞をした。
  二日間の研究発表は、土曜日の午後5編、日曜日の午前4編、午後3編、合わせて12編である。その中の10編が『源氏物語』に関わる発表である。『源氏物語』は来年(2008)年、ちょうど千年が経つ事と関係があるかもしれない。平成20年中古文学会の京都で行われる春季大会はもっと増えることであろう。

5.学会発表について
 

 私の発表したテーマは「『源氏物語』「空蝉」出典論」である。一般的に、本文における言葉などで、どこから直接引用したかを指摘するのが出典といわれますが、本発表では直接引用ではなく、空蝉という女性の人物造型は、何を参照なされたのか、という疑問を中心としたテーマである。結論を先に言えば、空蝉の登場人物の造型は、当時の唐代の類書『藝文類聚』の第九七巻には「鱗介部」の項目「 蟲豸部」の「蝉」の特性と合致していると思われるので、それらの「」の特性と「空」の性格が似ていることを報告したものである。したがって、具体的に蝉の特性と空蝉の性格は、どのように関わるのか、次のようなA、B、C、D、Eの五つに分けて説明したものである。
 Aは蝉と木――空蝉と帚木である。この節では、木から蝉が出て来るイメージを指摘したものである。空蝉は帚木巻の後半から登場し、帚木という木は遠くから見え近くから見る時には消えてゆく伝説がある。興味深いのは、なぜ空蝉は帚木から出てくるのか。こういう疑問に対して、『藝文類聚』に書かれた蝉と比べて見ると、わかり易いと思われる。(庭前有奇樹 上有悲鳴蝉)Bは蝉の季節――空蝉の登場である。蝉に関わる季節が、空蝉登場の場面生成と似ているところを説明したものである。Cは「蝉の声――空蝉の「声」を聞く源氏である。これは『藝文類聚』の原文「忖聲如易得 尋忽却難知」)と合致していることを指摘するものである。Dは「蝉」を捕る児童――小君である(有翩翩之狡童 運徽黏而我纏)。小君の造型は、恐らく児童が蝉を捕る姿から発想されているのではないか指摘したものである。Eは蝉の特性――空蝉の外像と性格である。空蝉の顔は、目が少し腫れて、鼻はあまり良くない。これらの外像は蝉とそっくりである。更に、蝉は、 「夫頭上有 則其文也 含氣飲露 則其清也 黍稷不享 則其廉也 處不巣居 則其儉也 應候守常 則其信也」 である。つまり「紋、清、廉、倹、信」の五徳と言われる。空蝉の根本の性格と同じと思われる。既に人の妻として身分を守らないといけないので、光源氏を拒否した根本原因と思われる。
本発表では、『源氏物語』「空蝉」という女性の人物造型が、『藝文類聚』に書かれた蝉の「蝉性」、あるいは、蝉の特性を用いてなされたことを指摘したものである。源氏物語の作者の知識教養として、『藝文類聚』をとりいれていたことを明らかに出来たと思われる。
質問は会場から、関西大学山本登朗氏は:なぜ『藝文類聚』なのか、日本の漢詩文はどう関わるのかなど質問があがった。

6.本事業の実施によって得られた成果
 

 本事業の実施によって得られた成果はたくさんあると思われる。主に二つを分けて説明して行きたいと思う。
 一つは各方面から意見を貰って、研究を深めなければならないと感じた。専門家から聞かれた質問は、これからの研究において極めて高い参考価値があると思われる。自分の研究視野が広くなり、注意すべき関連研究ポイントを把握できると思う。自分の欠点、不足が明らかにされるので、その方面を充実することの意識が高まることができると思う。研究分野に関連する先行研究については曖昧ではなく、しっかり十分把握することが先ず大切な一歩であると思われる。もしこれを「縦」路線と言うなら、「横」路線を踏まえることも必要である。例えば、私は『源氏物語』は『藝文類聚』との繋がることを指摘したものであるが、従来研究では指摘されていなかった部分を提唱したものである。無論これは参考価値があると思われるが、しかしながら、藝文類聚には漢詩文について、日本の漢詩文研究ではどのように研究しているのか、把握しなければならないと思われる。発表する前に、心配した部分は必ず解決して十分把握することが重要であると思われる。「縦」は深い、「横」は広く全体的に研究分野に関連することをしっかりすることは大事である。言うは易し、行うは難し。努力して行きたいと思う。
 もう一つは、以上の欠点を直すことで、本発表の論文は私の博士論文の一章になると思われる。博士論文は、「平安時代における中国文学の研究」とするので、平安時代文学における、代表的な作品は『源氏物語』と言えよう。これらの膨大な作品には、明記された中国の古典については言うまでもなく、明記された部分だけではなく、作者の「隠れた」部分を発見したい。小島憲之氏の膨大な著作『上代日本文学と中国文学』、『国風暗黒時代の文学』、川口久雄氏『平安朝日本漢文学史の研究』などの大著、及び最新研究成果を踏まえて、日本平安時代文学における中国文学について考察して行きたいと思う。特に、和文に書かれた『枕草子』と『源氏物語』を中心とする。『源氏物語』は日本名著だけではなく、世界名著と言えるであろう。清少納言も『枕草子』を日本文学史上で最初に「随筆」として創作されている。これらの作品には明記していない「漢籍」はどのような部分であろうか。こういう問題を究明して行きたい。正しく平安文学を理解するために、日本文学の真髄を理解したいと思う。

7.本事業について
   文化科学研究科国内学生派遣関連事業に参加して、大変勉強になったと思う。学生にとっては収入がないので、交通費や宿泊費が助かることは言うまでもなく、いつもの勉強場所と違った所に行って新鮮感があるので、自分の分野に関する知識が何処までできるかという程度を測れる気がする。また他の研究会にも参加して行きたいと思う。これらの事業について、私は大賛成である。