石橋嘉一(メディア社会文化専攻)
 
1.事業実施の目的 【e国際会議等研究成果発表事業】
  Language, Education and Diversity Conference 2007における研究発表
2.実施場所
  University of Waikato, Hamilton,New Zealand
3.実施期日
  平成19年11月21日(水)~11月24日(土)
4.事業の概要
 

 本事業においては、Language, Education and Diversity Conference 2007という国際会議で研究発表を行ってきた。事業概要の報告に関し、1. 国際会議の特徴、2. 大会会場と開催期日、3. 大会プログラムの特徴、4. 大会と自分の研究の位置づけ、について主に報告する。
1.国際会議の特徴
 Language, Education and Diversity Conferenceは、4年に一度開催される言語教育のための国際学術会議である。2007年度の大会で扱われた研究テーマは、(1)English language education, (2) Literacy education (including school-, adult- and multi-illiteracies), (3) Language education planning and policy, (4)Bilingual/immersion educationと、以上の4領域であった。本大会では、30分間の英語での研究発表ができる機会が提供されている。
2.大会会場と開催期日
 大会会場は、ニュージーランド(New Zealand)のワイカト大学(University of Waikato)であった。ワイカト大学は、ニュージーランドの最大の都市、オークランドからバスで南下し約3時間のハミルトン市(Hamilton)に位置する。大会会場と大学の詳細については、ワイカト大学のホームページを参照していただきたい(http://www.waikato.ac.nz/)。開催期日は、2007年11月21日から11月24日で、大会は4日間にかけて行われた。
3.大会プログラムの特徴
 言語学、文化人類学、社会学、多くの分野の研究者が、それぞれの見地から言教育についての研究発表がなされるダイナミズムが、本大会の大きな特徴となっている。基調講演においては、言語教育、言語政策の大家が揃い、それらはSuresh Canagarajah氏は(Pennsylvania State University)、Jim Cummins氏(University of Toronto)、Ofelia Garsia氏(Columbia University’s Teachers College)、Eva Lam氏(Northwestern University)、Teresa L. McCarty氏 (Arizona State University)、Bernard Spolsky氏(Victoria University)であった。グローバル化する世界の中での英語帝国主義批判、少数民族、マイノリティーへの言語政策・教育、アイデンティティの問題など、教育の効果に焦点が当てられがちな日本国内の研究発表とは違い、大変有意義な研究発表が多かった。
4.大会と自分の研究の位置づけ
  私は本大会での「言語教育計画と言語政策(Language education planning and policy)」の発表カテゴリーの中で、博士論文中期研究報告を行った。言語政策においては、グローバリゼーションの渦中、人・物・金が行き来する中、外国語でコミュニケーションがなされる機会が増えるに当たって、外国語運用能力、異文化理解等を養う教育政策の重要性が叫ばれるようになっている。そのような状況の中、私の博士論文は、よりよい外国語教育(とりわけ英語教育)を模索するためのものであり、今後の日本における外国語教育政策のあり方に関わるものである。博士論文のテーマとしては、21世紀のグローバル社会の中で、世界の人たちと共存、繁栄していくための一つのツールとして、ヨーロッパで開発された「Common European Framework of References of Languages(CEFR)」を日本に援用するためのe-learningの開発を進めている。

5.学会発表について

 本発表は、Commen European Framework of References for Languages:Leaning,Teaching,Assessment(CEF)というCouncil of Europe(ヨーロッパ評議会)により制作された言語教育のための参照枠組みをどのようにe-learningに応用し、英語学習者のサポートができるかという研究計画の報告を行った。
 まず、日本における英語教育の歴史と変遷に触れ、西洋から学問を取り入れるにあたって、訳読と文法を理解する言語教育が歴史的に重要視され、そのような教育実践が行われてきた経緯を説明した。
その後、受験のための英語教育を背景に抱える日本において、どのような学習内容と教授法において、英語が教授されてきたか、その歴史と特徴について述べた。
 時代は平成に移り、文科省が掲げた「英語が使える日本人」育成のための行動計画について触れ、目標と現状についての乖離について、その背景と原因、今後の展望について発表した。
  その後、ヨーロッパで開発された「Common European Framework of References of Languages (CEFR)」について触れ、(1)コミュニケーション能力がどのように定義され、(2)どのような指標のもとに評価されているか、を考察した。CEFRはEU圏内における言語教育のシラバスや教授法、評価の共通基盤を構築する試みであり、外国語の運用能力を高め、国を越えてのコミュニケーションを可能にし、人や経済の動きを活発化させようとするプロジェクトである。現在CEFRは多くの言語に翻訳され、各国の言語教育の指標となりシラバス、カリキュラム、評価等に渡り幅広くに導入され始めている。近年日本においても英語教育関係者を中心とするプロジェクトが次々と立ち上がり、CEFRを基軸とした言語教育のグランド・デザインが開発されている。しかしながら、ヨーロッパから輸入された枠組みをそのまま日本の教育に導入できるのであろうか。多言語、他民族であるヨーロッパとのコンテクストの違いに触れ、今後の日本におけるCEFRを応用した教育の可能性について議論した。質疑応答では、聴衆から多くの示唆に富む質問とコメントをもらうことができ、今後の博士論文執筆に参考になる貴重な機会であった。

6.本事業の実施によって得られた成果
 

 本事業において得られた知見は以下のとおりである。
1.会議全体から自分の研究領域に対する示唆
 グローバリゼーションが急速に進む中、どの言語を習得するかにおいて、経済格差が顕著に現れ始めている。特に、英語を習得することの経済的有利性は、確固のものとなってきた。言語教育に携わっている者であるならば、英語帝国主義に対して批判的な視点を持たなければならない。英語を話すことで、また習得せざるを得ないことで、失われる民族的なアイデンティティ、それらに対して苦しめられている人々がいる現状を我々言語教育に携わる者は、把握しておかなければならない。英語以外の言語の存在性、教育のあり方、グローバリゼーションの中での位置づけ、それらに対して考慮しておくことは重要である。
2.博士論文への示唆
  CEFRは、外国語教育のグランド・デザインとしての資質を備える一方、ヨーロッパから輸入した指標をそのまま日本の教育に導入できるのであろうか、という問題が挙げられるであろう。特にCEFの日本への応用の議論は、未だ十分な理論的考察や実証研究が行われていない研究段階なので、注意深く検討していく必要性があることが窺えた。

7.本事業について
 

 本事業は、学生の国内での研究発表を支援、促進するものであり、今後博士論文をまとめていくに過程においてこのような機会を活用し研究の進捗状況を発表できるという点は、とても意義があるものと思われます。

 
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