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辻本香子(比較文化学専攻) | |||
1.事業実施の目的 【e.国際会議等研究成果発表派遣事業】 | |||
日本の中国人学校における芸能のあり方を発表するため | |||
2.実施場所 | |||
中国武漢音楽学院音楽学部 | |||
3.実施期日 | |||
平成19年9月7日(金)~平成19年9月19日(水) | |||
4.事業の概要 | |||
私が今回、海外学生派遣関連事業から支援を受けて参加した「中日音楽比較国際シンポジウム」は、日中両国の音楽研究における学術交流を目的に、隔年で開催されている研究大会である。今回は第七回目の開催にあたり、「中、日伝統音楽の歴史と現状及び両国の交流」、「中、日音楽教育の歴史と現状及び両国の比較」というテーマで発表論文の募集をおこなった。 |
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5.学会発表について | |||
本シンポジウムにおける私の研究発表のタイトルは、「横浜中華街の共同体の変容における音と聴覚の役割」(![]() われわれは意識的にも無意識的にも何らかの音を聞いて生活しており、その中に、「音楽」と呼ばれるものが含まれている。しかし、「音楽」と呼ばれない音もまた意味をもっている。私はこれまで一貫してこの問題に取り組んできた。現在、「音の環境、及び聴取と音楽観との関係」をテーマとして博士課程における研究を進めているが、このテーマのきっかけとなった、2003年におこなった横浜中華街における短期的フィールドワークの結果を軸にし、今回の発表をまとめた。 「音」と「音楽」の境界を取り去る試みとして第一に挙げられるサウンドスケープ論では、聴く人に主体を置いて音の環境を考えるため、音楽もサウンドスケープに含まれる。また、近年高まりつつある「感覚の文化」に対する関心は、聴覚を切り口にして歴史や現代の文化を考えることを可能にした。ここではこれらを下敷きに、横浜中華街という場所において鳴り響く音が、そこに暮らす人々に対して果たしている役割を論じることを目的とした。 本発表における研究フィールドである横浜中華街は、日本でもっとも大規模なチャイナタウンであり、数多くの飲食店をはじめとした商店がにぎわっている。ここでは特に中国伝統芸能の実践を取り扱った。横浜中華街では、華僑を主な対象とした中国人学校のOB会において、中国伝統芸能が伝承されており、先行研究において、主に華僑のアイデンティティの表出として論じられてきた。 しかし、私は芸能団体と地域の共同体の結びつきに特に着目した。横浜中華街には複雑な歴史と、さまざまな政治・経済的問題があり、街を構成するいくつかの共同体が互いに交流することがほとんどなかったのである。しかし近年、観光に力を入れ始めるに従って、その対立が乗り越えられつつある。その顕著な事例として取り上げたのが、観光と経済が連携して、二派が歩み寄る過程で生まれた、中国人学校出身者でも華僑でもない人々によって構成される、「舞龍」専門の芸能団体の登場であった。そして本研究は、この団体を作った人物が、中華街のなかで、野外で行われる芸能の音を聴いて育った、という点から、これらの共同体をつなぐもうひとつの要素として、街で共有される音の環境を取り上げた。横浜中華街という場所には、立場、主張などの異なるいくつもの共同体が存在するが、「音」を共有していることで、それらを超えた結びつきの可能性があるのではないかという意見を提示するに至った。 発表論文、及び口頭発表に対しては、いくつかの意見が寄せられた。台湾と中国の政情に触れざるを得ない内容だったため、慎重を期した口頭発表であったが、野外の芸能を調査している人から関心を持ったというコメントを受けたり、香港出身の研究者から、自分たちはずっと聞いてきた音であるというコメントを受けたりしたことはとても刺激になった。 しかし、先に述べたように、中国における「音楽に関する研究」の幅は、おそらく日本のそれと比べてかなり限定されているように感じられる。日本に留学経験のある中国人の音楽学者によれば、「中国ではまだ伝統音楽の研究が中心で、都市の音楽にも関心が向いていない。サウンドスケープという概念は新しすぎ、あまり知られていない」ということであった。私の発表が「 ![]() |
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6.本事業の実施によって得られた成果 | |||
前々欄で述べたシンポジウムの討論において、日本における中国音楽研究とともに大きな論争となったもうひとつの議題が、「民族音楽学」という語の日中における差異についてであった。現在、日本の学術領域において用いられている「民族音楽学(音楽民族学)という語は、英語のethnomusicologyの訳語であり、内容もほぼ対応している。日本においては、「民族音楽」という語は、どちらかといえばレコード会社によって作られた商業的な分類として機能している。 |
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7.本事業について | |||
海外で研究発表をすることで、多くの収穫を得ることができ、また、発表の準備自体もとても勉強になるものであった。しかし、文系の大学院生にとって、海外発表は費用の面からなかなか参加が難しいものとなっている。私が総研大に入学した動機のひとつに、本事業のような研究環境の充実という利点があった。今後もこういった助成を継続していただければ、より安心して研究に打ち込めるだろうと思う。先生方、事務の方にも大変お手数をおかけし、ひとかたならぬお世話になった。ここにお礼を申し上げたいと思う。 | |||
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