渡部鮎美(日本歴史研究専攻)
   
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】
   集中講義B(2007年度)の履修
2.実施場所
  新潟県奥山荘歴史館・紫雲寺 公民館・村山市郷土資料館新発田市紫雲寺公民館、村上市郷土資料館
3.実施期日
  平成19年8月29日(水)~8月31日(金)
4.事業の概要
 

 報告者は本事業で集中講義B(2007年度)地域研究の方法を履修した。講義は8月29日より3日間、新潟県内でおこなわれた。1日目には新潟市歴史博物館にて講義と見学がおこなわれた。講義ではまず、新潟県では考古学や歴史学、民俗学がそれぞれの手法の長所を生かし、「協業」によって地域研究がなされてきたことを示された。さらに、紫雲寺干拓を中心事例に干拓による地域の変化について講義がおこなわれた。その後、新潟市歴史博物館の学芸員の長谷川氏による同館の見学がおこなわれた。見学では展示の工夫や館の方針についての説明を受けた。来館者を楽しませる試みと博物館のもつ研究蓄積が実際の展示から感じられ、新潟市歴史博物館の魅力を体感することができた。
 2日目午前には前日の講義で事例としてとりあげられた福島潟干拓地、紫雲寺干拓地を見学した。見学では干拓以前の姿をうかがわせる潟の地形と耕地整備がおこなわれる現在の姿を見ることができた。さらに、前日に見た干拓前の絵図と現在の景観を比較し、様々な議論がなされた。また、紫雲寺干拓地内の白山神社では土地の方にお話をうかがい、紫雲寺周辺の集落の様子についても知ることができた。くわえて、新発田市紫雲寺町支所からの同地の見学では、支所長から現在の地域の農業についてうかがうことができた。
 午後からは奥山荘歴史館に移動し、同館の水沢幸一氏から荘園・城館遺跡についての講義を受けた。その後、平林城跡にて小野先生より中世の城郭の特質と城郭内でおこなわれた儀礼についての講義があった。両講義ともに城郭や荘園遺跡の中でおこなわれ、文字資料だけでは分からない中世生活について理解を深めることができた。
 3日目は村上地方の雲上公伝説を題材に伝説の史料性についての講義があった。民俗・歴史の両分野での研究成果を比較、検討し、伝説の「リアリティ」を問うという手法には学ぶところが多かった。講義終了後、村上市サーモンパークに移動し、展示を見学した。同館では村上の歴史と民俗について鮭漁を中心にした展示をしており、鮭漁の技術や暮らしの変遷を学ぶができた。さらに、村上市サーモンパーク見学後、大洋酒造にて酒蔵見学をした。大洋酒造は戦後、14の酒造会社を統合してできた会社で地域の観光化にも積極的に取り組んでいる会社である。ここでは、酒造の工程や酒造労働、日本酒の評価体系について説明を受けた。報告者の調査地である秋田県南秋田郡の酒蔵会社との違いも分かり、たいへん興味深かった。
  このように3日間に渡る集中講義では、講義自体はもちろんのこと、学生同士や先生方との議論、交流の機会がもて、大変有意義であったと思う。さらに、新潟県の歴史と民俗や考古学・歴史学の研究法といった普段、学ぶことのできない事柄についても学ぶことができ、今後の研究の糧になるものが得られた。

5.本事業の実施によって得られた成果
 

 現在、報告者は近代の干拓地である秋田県南秋田郡大潟村で博士論文に関わる調査をおこなっている。そのため、本事業の講義で扱われた中世の干拓である紫雲寺干拓の研究成果には様々な刺激を受けた。また、講義や現地での調査・見学では中世と近代における干拓の相違を知り、自身の研究を見直すことができた。とくに現在、報告者が注目している干拓地と周辺農村とのコンフリクトや営農形態の差異については近世の研究にも学ぶところが多くあると感じた。
 講義後には地域の営農形態や営農資金の流れについては近世の史料からも多くのことが分かるという示唆も受けた。報告者の調査地にも近世の史料が数点あり、そうしたものを今後、活用していこうと考えている。また、干拓による地域変容ついては中近世と近代の事例をもとに議論ができ、今後の研究につながる刺激を受けた。
 さらに、資料館・博物館等の見学は自身の研究に直結するような知識も得られた。新潟市歴史博物館では、市(マーケット)の機能と実態についての展示があった。市場については自身で調査をしてきたばかりだったので、こうした展示は参考になった。また、紫雲寺干拓の史料と合わせて市の展示をみると、市と潟の関係について考えることができた。さらに、報告者は以前、酒蔵の調査をおこなっていたので、酒蔵見学では自身の調査地の酒造工程との違いや雇用形態の違いがわかった。
 博士論文には歴史学や考古学といった他の分野の知識も必要である。しかしながら、自身の研究と異なる分野の研究成果を知る機会は少ない。その上、自身の専攻以外の分野の研究者とは議論をする場もあまりない。そのうえ、研究の幅を広げるような自身の調査地以外の地域に関する知識や調査対象以外の物事に関する総合的な知識を得ることもなかなか難しい。
 ところが、今回の集中講義では上記のような博士論文研究の過程でおこってくる研究視野のせばまりや議論の行き詰まりを解消してくれるような機会が得られた。また、教授陣や現地で講義をしていただいた方々のご尽力により、3日間で多くのことを学び、さまざまな体験をさせていただいた。まだまた及ばない報告者に対して真摯に議論をしていただいたこともありがたかった。今後、本集中講義で学んだことを生かし、博士論文作成に努力したいと思う。そして、本事業で得られた学生同士や新潟の方々との人脈をこれからの研究活動にいかしていければと考えている。

6.本事業について
   本事業がより広く多くの人に活用されるよう、手続きなどがより簡潔になることを望みます。