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国内学生派遣事業 研究成果レポート

伊達 元成(日本歴史研究専攻)

1.事業実施の目的

第62回日本人類学会大会での口頭発表

2.実施場所

愛知学院大学

3.実施期日

平成20年10月31日(金)から11月2日(日)

4.成果報告

●事業の概要

■日本人類学会について

日本人類学会は、自然人類学に関連する諸分野の研究者を中心とした学術団体で、設立は明治17年(1884)にさかのぼり、日本で最も古い学会の一つである。 本学会は、人類学上の事項を研究し、これに関する知識の交流をはかることを目的としている。このために、学術集会の開催 、機関誌の刊行 、内外諸学会との交流、公開シンポジウムの開催などの活動を行っている。会員は、機関誌Anthropological ScienceとAnthropological Science(Japanese Series)の配布を受ける、本会出版物の実費購入、本会主催の大会および各種集会への出席と研究発表、総会への出席およびその他本会の運営への参加の 権利をもつ。

学術集会は、研究成果を発表し、人類学の研究および教育の向上のためにたがいにその知見を交換し、会員相互の親睦をはかるために、年に1度通常10月頃に開催される。 機関誌は、現在、英文誌のAnthropological Scienceが年に3号、和文誌の Anthropological Science(Japanese Series)が年に2号、発行されている。 内容は、会員、非会員からの投稿による原著論文、短報、総説、資料、が中心である。2004年からJ-STAGEに電子版が掲載されている

(http://www.jstage.jst.go.jp)。

公開シンポジウムは不定期に開催されている。これまで、1998年(日本人の顔―過去・現在・未来)、1999年(どこまで伸びる日本人の身長:身体の形 の変化―過去・現在・未来)、2000年(豊かな老後:歩くこと、動くことから)、2001年(日本列島の人口潮流―ヒトはいかに生まれ死んできたのか ―)と、 2003年(古代人の病気と健康)の5回の公開シンポジウムを行った。  日本人類学会は会長および8名の理事で構成される理事会によって運営されている。 学術集会と同時に評議員会、総会が開催され、学会の運営にかかわる様々な議事が討議されている。学会の会計年度は10月1日から次の年の9月末までとなっている。

■大会の内容

○公開シンポジウム

「人類と病気のかかわり ―ダーウィン医学的発想―」

平成20年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)

「研究成果公開発表(B)」交付内定

日時:平成20年11月1日(土) 13:00~17:00

場所:愛知学院大学楠元学舎110周年記念講堂

オーガナイザー

花村 肇(愛知学院大学歯学部教授)

馬場悠男(国立科学博物館人類研究部長)

シンポジストと演題

関野吉晴(武蔵野美術大学教授)

     「地球を這って見たこと、考えたこと」

中垣晴男(愛知学院大学歯学部教授)

     「自分の歯を20歯以上保有すること(8020運動)と健康科学」

井上 誠(愛知学院大学薬学部教授)

     「歴史の中の薬:薬と食」

鈴木隆雄(東京都老人総合研究所副所長)

     「ビタミンDと人類のかかわり -高齢社会での意義-」

馬場悠男(国立科学博物館人類研究部長)

     「人類進化とダーウィン医学」

○分科会シンポジウム

・ヘルスサイエンス分科会シンポジウム 「福祉工学における基礎と臨床」

・骨考古学分科会シンポジウム      「子供の生と死をめぐって」

・進化人類学分科会21回シンポジウム  「現生アフリカ類人猿と人類の起源をめぐって」

○一般講演

・霊長類ゲノム・ヒトゲノム・DNA、手法・行動、進化・肉眼解剖・頭蓋、形態・歯列、顎骨形態、霊長類、進化・下肢形態・歩行、走行・運動解析・形態、性・行動、性・先史・同位体解析・動物考古、年代・古人骨・港川人・古人骨、歯

○ポスター発表

■参加したシンポジウム

「子供の生と死をめぐって」

同位体分析から授乳期の変化、また離乳ストレスがエナメル質形成に影響するか、といった内容で報告されていた。離乳期の推定には個体差やサンプル数の不足などから精度に不足を感じるが、時代によって離乳期が異なっている点があり、今後の発展に興味があった。授乳による栄養的な影響は、乳幼児の骨格形成に直接的に作用すると思われるため、安定同位体を用いた食性解析に年齢による大まかな補正要素を与えられると考えられる。

パネルディスカッション「近未来の初等中等教育における人類学教育」 人類学で取り上げられる「骨」は、「死」を連想しやすく、教育現場では扱いにくいものとされている。しかし、人類学の視点から我々の歴史や進化を解明するために必要な情報源であり、そういった学問であることを伝えるためには教育現場での「骨」をもちいた教育が必要である。 それぞれ3つの事例紹介が行われ、学習要領や教師の知識、学校との連携、標本の扱い、などについてディスカッションが行われた。

その中で「デス エデュケーション」という言葉があった。教育現場で「死」をどう伝えるかという取り組みが必要であるという現場の声があり、人類学に携わる研究者の今後の対応に注目したい。

●学会発表について(発表を行った方のみ記入してください)

2C-16

14Cからみた有珠4 遺跡人骨の海洋資源利用の評価

○伊達元成(総合研究大学院大学・日本歴史研究専攻),西本豊弘(総合研究大学院大学,国立歴史民俗博物館),青野友哉(伊達市噴火湾文化研究所),大島直行(伊達市噴火湾文化研究所),三谷智広(洞爺湖町教育委員会)

Evaluation of marine resources in human bone excavated from Usu4 site by 14C

Motoshige DATE , Toyohiro NISHIMOTO , Tomoya AONO , Naoyuki OHSHIMA,

Tomohiro MITANI

有珠4遺跡は、北海道南部、噴火湾の北東岸、伊達市有珠町に所在する。遺跡の基本層位には有珠山や駒ヶ岳の火山灰が年代を決定する鍵層として堆積している。発掘調査では近世アイヌ墓が検出され、鍵層から墓の形成年代が決定された。しかし人骨の放射性炭素年代測定を試みたところ、海洋リザーバー効果の影響により墓の形成年代より古い年代値を得た。この年代のずれは食糧資源の炭素由来による影響であると思われる。そこで墓の形成年代と人骨の年代はほぼ同じものであると仮定し、較正年代が墓の形成年代に近づくよう陸上・海洋起源の炭素混合比を任意に与えて年代較正を行い、有珠4 遺跡における海洋資源の利用について評価を試みた。

発表の内容は上記の要旨の通りである。 発表したセッションには3件の発表しか無かった。 5分の討論時間には「有珠4では貝塚は無かったのか?」という質問があったが、無いと回答した。計算に用いた補正要素としてΔR値があるが、オットセイを海洋側のエンドメンバーとして求めた値であったため、近海の漁骨を用いて再計算を再度試みてみては?とコメントを頂いた。 想定される変化として、より海洋起源の食物の影響が出ると思われる。 現在、早速追加実験を行っている。

●本事業の実施によって得られた成果

安定同位体を用いた食性解析については、モデル計算による推定値の幅が大きく、高精度の年代測定にはまだ幾つかの問題がある。本報告は、海洋リザーバー効果によって骨の年代に表れる見かけの誤差から食性分析を試みるものであり、この手法による先行研究はなく、考古学的、人類学的にもその成果の応用範囲は広いものと考えている。 発表で指摘されたΔR値の設定は引用文献の値を参考にした。現在追加実験中であり、調査遺跡オリジナルのΔR値を求めているところである。この値を用いて再計算した結果は、より海洋起源の食料を摂取していたとなることが想定される。 本研究は、自然科学的、考古学的、火山学的情報を組み合わせたものであり、多角的な視点からアプローチをしている点からみてもその結果は有意である。 近世アイヌの農耕については、畠の発掘事例や種子同定の結果から農耕が発達していたという報告から、アイヌ民族は高度な農耕社会であったという発表が幾つか出ている。 アイヌ農耕論とは乖離する結果となるが、博士論文ではこれらの点を整理した上でまとめたいと考えている。

以上、学会発表できたことは今後の博士論文執筆に有意義なものとなった。

●本事業について

理系研究室では、指導教官の研究費から学生の学会旅費や、研究をアシストするという形でフィールドワークの旅費などが支給されているところがいくつかある。 文系の場合、そういうしくみがないので本事業が学生の研究をサポートしていると考えている。 しかし、中には連続して学会があった場合、「何度も支給できない」という理由で採用されなかったという声を聞いた。予算の残額調整が大きな理由と考えられるが、本事業が予算の残額によってその都度採用の基準が変動しているのは使いにくいのではないか。

今後、総研大の中で本事業がどのように引き継がれていくかわからないが、研究者を目指している後輩達にとって、本事業が「やりたいことをできる環境」を提供する制度となるよう、期待している。