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海外学生派遣関連事業 研究成果レポート

堀田 あゆみ(地域文化学専攻)

1.事業実施の目的

モノと人との関係に関する調査・映像資料の収集

2.実施場所

モンゴル国:ウランバートル市およびガチョールト区

3.実施期日

平成20年8月1日(金)から平成20年8月29日(金)

4.成果報告

●事業の概要

本調査は、モンゴル国における「ゴミ」に関する文化人類学的研究の予備調査である。人口の4割が集中する首都ウランバートル市のゲル地区における住民の多様なゴミ認識や廃棄行動を調査していく前段階として、草原の遊牧民世帯におけるゴミ認識や廃棄行動の調査を行うことが目的であった。

ゴミは初めからゴミとして存在するわけではなく、モノとして人々の生活の中に入り何らかの過程を経てゴミへと変わっていく。「何をどの瞬間にゴミと見なし、どの様に生活から切り離すか」ということは極めて文化的な行動である。このような文化行動に焦点をあて、今回の調査では「モノと人との関係」、遊牧を営む人々がモノとどの様な関わりをもって生活しているのかを中心に調査した。首都から50kmのところにある中央県ガチョールトの遊牧民世帯二世帯において8月6日~8月21日までのおよそ2週間、参与観察およびインタビュー調査を行いその内容を映像に記録した。

8月2日に調査世帯へ赴き、今回の調査の趣旨やインタビュー、映像撮影の内容について説明し許可を得た後、8月6日に再び現地に入り調査を開始した。老夫婦世帯と若夫婦世帯の間を自由に行き来し、生活のサイクルや日々の仕事を観察し記録にとどめた。また、生活空間に置かれている「モノ」に対する聞き取りを行い、いつ・どこで・どのように・だれから・いくらで手に入れたのかなど、モノにまつわる話を収集した。さらに、各世帯から出されるゴミの種類や量、廃棄される場所や処分の方法などについての情報収集を行った。ガチョールトでは現状の記録と貴重な資料として出来るだけ撮影を試み、20時間におよぶ映像資料を収集した。

一方、首都のウランバートルにおいては、8月22日~8月28日にかけて、市役所の都市整備課、廃棄物管理局、廃棄物サービス基金、JICA事務所などを訪問し、担当者から市の廃棄物管理の現状や課題についての情報を収集した。また、閉鎖が確定しているモンゴル国最大の廃棄物最終処分場ウランチョロート処分場と目下建設が進められているナランギン・エンゲル新処分場を見学した。多くのウエスト・ピッカーが働いているウランチョロート処分場においては、有価物をゴミの中から探し出す作業の様子を映像に収めた。さらに、処分場の安全な閉鎖と新たな処分場の建設プロジェクトを担っているJICAの日本人技術者と、ウエスト・ピッカー代表者たちとの間でもたれる会議の模様を撮影し、代表者の1人にインタビューを行なった。

●本事業の実施によって得られた成果

1)遊牧民世帯での調査では以下のような成果が得られた。

調査対象地域であったガチョールトは、首都のウランバートルから50kmという比較的近距離に位置しているため、首都からのモノの流入や住民の首都へのアクセスがそれほど困難ではない。森林ステップが広がっており、緑や水が豊かで景観も美しいため、都市に暮らす裕福層の別荘地ともなっている。一方で、地方からの移住者も多く、家族や親戚、同郷の知人などが近くにそれぞれの木造家屋を建てて固定居住区を形成している。

調査を行った世帯は、90年代後半に地方から移住してきた遊牧民である。冬季用として電気の通っている木造固定家屋も持っているが、もっぱら草原で家畜の世話をしながらゲルと呼ばれる移動式住居に暮らしている。末娘と3人で暮らす老夫婦世帯が一つのゲルに、その老夫婦の息子夫婦と幼い子ども2人が2、3km離れたもう一つのゲルに住んでいる。息子夫婦は家畜から得た乳や乳製品を週に1度はウランバートルの市場へ売りに行き、得た収入で生活用品などを購入している。ゴミとして排出されるモノには、紙おむつやお菓子の包み、プラスチック容器などが多く見られた。老夫婦世帯は息子夫婦に比べ首都に行く機会が少なく、ゲルの清掃時に排出されるモノは少量の飴の包み紙のほか土や木片や草がほとんどである。今後ゴミの調査を進めていく上で、世帯の経済状況および年齢・家族構成や都市へのアクセス状況を十分考慮しなければならないことがわかった。

2) ウランバートル市での調査では以下のような成果を得た。

2007年の調査時に比べ、中心部の路上に設置されたゴミ箱の数が大幅に増加していた。近年ゴミのポイ捨てが問題になっていたが、マスコミを介して住民の間では、盗難や管理不行き届きによるゴミ箱数の減少がポイ捨てを誘発しているとの議論が高まっていた。そこで市が金を出して中心部や目抜き通りに重点的にゴミ箱を設置した。中心部ではポイ捨てが減少し成果を上げているという。しかし、まだまだポイ捨て習慣が健在であることを受け、今後は幼い頃からの環境教育に取り組むという議論が進められている。

路地裏や中心部から離れた地域では家庭ゴミの不法投棄が問題となっている。ゴミ収集システムや料金徴収体系に関してはここ2年間で改善に向けた取り組みがなされてきたが、まだまだ改善の余地がある。さらに、建設ラッシュに沸くウランバートルでは建築現場から出される大量廃棄物の処分や不法投棄という新たな問題が浮上している。家庭廃棄物の収集料金が一律に引き上げられたものの苦しい財政状況が続いており、そこへガソリン価格の高騰が追い打ちを掛け担当者に頭を抱えさせている。

その他、JICAの協力で進められている新たな廃棄物処分場の建設と既存の処分場の閉鎖に関する情報や、従業員の置かれた状況、有価物の流通に関する情報を収集することができた。

本調査で収集した映像資料を編集し、フィールド調査の結果をまとめたものとともに研究会等において発表する予定である。 

●本事業について

 学生派遣事業の支援を得、現地までの渡航費用および現地での移動交通費が支給されたことで今回の1ヶ月におよぶ調査が実現できた。また、調査地までの車の調達や調査地での宿泊場所が順調かつ安全に確保できたのも、学生派遣事業による資金的な支援を受けているという事実が単身で入り込む調査者に対する現地の人々の信頼を得やすくしたためであると言える。様々な形で協力してくださる現地の方々に正当な報酬がお支払できた事で、調査者も必要以上に恐縮することなくのびのびと調査に没頭する事ができた。 <

本事業は調査者の資金面だけでなく、現地の人々との接触に始まる調査活動自体を支えるのに大きな役割を果たしている事を認識した。フィールドワークに向かわれる調査者の皆様にこの事業が活用される事を期待している。