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海外学生派遣関連事業 研究成果レポート

石橋 嘉一(メディア社会文化)

1.事業実施の目的

ED-MEDIA 2008における研究発表

2.実施場所

The Vienna University of Technology, Austria

3.実施期日

平成20年6月30日(月)から平成20年7月4日(金)

4.成果報告

●事業の概要

本事業では、ED-MEDIA 2008において研究発表を行った。事業概要の報告に関し、

  • 1. ED-MEDIA2008の大会会場と開催期日、
  • 2. ED-MEDIAの特徴、
  • 3. 大会プログラムの特徴、
  • 4. 大会と自分の研究の位置づけ、

について主に報告する。

1. 大会会場と開催期日

ED-MEDIA2008(情報技術を教育に活用する研究の国際学術会議)は、オーストリア(Austria)の首都、ウィーン(Vienna: Wien)にあるウィーン工科大学(The Vienna University of Technology)で行われた。ウィーン工科大学は、オーストリアの工学系の名門大学で、高度な研究機関としてドイツ語圏内の高等教育機関として評価の高い大学である。ED-MEDIA2008の開催期間は、2008年6月30日から7月4日にかけての5日間行われた。大会のすべてのプログラムは、全体会及び各研究発表ともに、ウィーン工科大学にて行われた。

2. ED-MEDIAの特徴

ED-MEDIAの主催となっているAACE(Association of the Advancement of Computing in Education)は、1981年に設立された国際的な非営利組織で、教育の分野における情報技術の促進を目的としている。AACEの研究分野においては、E-learningに関するリサーチ、情報技術の教育利用に関する開発、情報技術の教育実践を対象としている。AACEでは、そのような研究活動の一環として、毎年ED-MEDIAという国際学術会議を開催し、世界各国の研究者と連携、協力することで国際社会に貢献している。

3. 大会プログラムの特徴

ED-MEDIA2008では、メディア機器を教育に活用する研究発表を中心に行われてきたと理解している。大会プログラムでの各セッションは、大まかに以下ように分類されている。

  • 1. Infrastructure
  • 2. Tools & Content-Oriented Applications
  • 3. New Roles of the Instructor & Learner
  • 4. Human-Computer Interaction (HCI/CHI)
  • 5. Cases & Projects
  • 6. Universal Web Accessibility
  • 7. Indigenous Peoples & Technology

上記のように、教育の分野においての情報技術を活用した実践や開発に関するリサーチや今後の発展について議論された。大会の実施は、朝に基調講演、午前と午後でFull Paper及びShort Paperの研究発表と構成されていた。

4. 大会と自分の研究の位置づけ

当派遣の報告者は、“Case Studies”の分類において、学習者が外国語学習の過程と異文化体験を記録していく可能性について博士論文執筆計画と中期報告の研究発表を行った。発表タイトルは、“Can the European Language Portfolio be utilized in the Japanese Context ? ”で、ヨーロッパで活用されている「ELP: European Language Passport(ヨーロッパ言語学習記録帳)」を日本で活用する提案について発表を行った。

●学会発表について

1. 発表日時

2008年 7月2日(水)、現地時間13:30~14:00

2. 発表場所

ED-MEDIA会場 ウィーン工科大学 3F FH 101A教室

3. 発表概要

本発表では、博士論文前半部分の研究結果の発表を行った。発表の概要は、先行研究、理論的枠組み、予備調査結果、今後の実験計画、であった。順を追って説明する、まず、

a. 博士論文全体の構想を説明した。日本の大学生が英語学習を行う際に、ポートフォリオという学習過程を記録し、自立的な学習態度と異文化感受性を育成するという計画を話した。

b. 次に、ポートフォリオを用いた先行研究を紹介した。主に、外国語教育に用いられた先行研究と異文化対応能力の育成に用いられた事例と2つに分け説明を行った。

c. bの先行研究から理論的枠組みの説明を行った。特に、ポートフォリオの機能的な面と教育的な意義・効果の面を扱った。その他には、「自立的な学習」、「生涯学習」、「自己制御学習」等、多分野からの理論的なアプローチを試みた。

d. 外国語教育に特化したポートフォリオについて説明を加えた。ELPと呼ばれるEuropean Language Passport(ヨーロッパ言語学習記録帳)というCouncil of Europe (ヨーロッパ評議会)で制作された言語教育のための記録帳を扱った。中でも、ELPには3種類のドキュメントから成り立っているが、それらがどのような機能と特徴があり、どのようにEUを中心に言語教育の実践の場で使われているかの説明を行った。

e. ELPの効果検証がどのように行われ、どのようにCouncilから報告されているのかを紹介した。その際の評価指標についても加えて言及した。

f. 日本の大学生に、どのようにELPを活用できる見込みがあるか、その知見を事前に行った予備調査から提案を行った。その際に、日本特有の社会的状況と英語教育(外国語教育)の現状の説明を兼ねて行った。

g. ポートフォリオをWeb上に構築することで、どのような利点があるか、今後の研究計画の報告を行った。

質疑応答では、聴衆から示唆に富む質問とコメントをもらうことができ、今後の博士論文執筆に参考になる機会となった。

●本事業の実施によって得られた成果

ED-MEDIA2008への研究発表派遣事業において得られた成果は、以下のとおりである。

1. 今回、研究発表を行うことにより、筆者自身の博士論文前半部分にあたる、理論的背景、先行研究の動向、今後の実験計画について、今までの研究成果をまとめることができた。

2. 筆者の博士論文は、言語教育を扱っている。博士論文の理論的背景の一部では、ヨーロッパの「複言語主義」という、2、3の外国語を完璧でなくとも操れるような言語能力を育成する考え方を採用している。そのような理由で、大会会場のウィーンにはEUからの参加者が多かったため、ヨーロッパ特有の言語教育の価値感等について話し合う機会を得られたことは成果として大きい。

3. ED-MEDIAは、パソコンやインターネット、またその他のテクノロジー、メディア機器を教育に応用する研究を主に扱っている。筆者の研究においては、Web上に言語学習の学習記録帳を開発し実際の授業で活用する計画があるため、今回大会に参加し、既存のメディア機器を用いて行った数々の研究事例を知ることができたので、有意義であった。

4. ED-MEDIAでは、Outstanding Paperと言い、事前の審査で優れた研究発表にはプログラム上に印をつけている。その印を頼りに、優れた研究発表をセレクトして聴講することが可能な配慮がなされている。そのような配慮のおかげで、世界的に教育工学の分野で優れた研究を聴いて周ることができたので、実験デザイン、システムの開発、実践事例等、優秀な研究に多く触れることができ、参考になった。

5. 筆者は、今夏からe-portfolioというWebを活用した電子学習記録帳の試験運用を始める。本大会では、19ものe-portfolioに関連する研究があったので、先行研究、理論的枠組み、ツール開発、実践例、効果検証、既存の問題点等、包括的に自分の今後の研究に有用な情報を得られることができた。

6. 本大会から得られた知見を、今後の博士研究に活かし、広く社会に発表していくことで、本派遣事業のさらなる成果と意義の拡充に貢献できるものと考える。

●本事業について

近年、研究者の養成において、海外での学会、所謂国際的な場面においての英語プレゼンテーション能力の育成は重要であると考えられます。本事業は、そのような実践の場での訓練を学生に与えるという機能を果たしているので、他大学の大学院には存在しない、総研大特有のとても意義のある事業であると思われます。