HOME > 平成20年度活動状況 > フィールドワーク学生派遣事業 > 海外学生派遣関連事業 研究成果レポート

国内学生派遣関連事業 研究成果レポート

石原 朗子(メディア社会文化専攻)

1.事業実施の目的

情報系大学院のインタビュー調査による専門職大学院と大学院修士課程の比較検討

2.実施場所

京都情報大学院大学・情報セキュリティ大学院大学

3.実施期日

平成20年10月3日(金)から平成20年10月25日(土)

4.成果報告

●事業の概要

今回は、フィールドワークとして、情報系大学院の専門職大学院、修士課程の比較調査を行った。そして主に、博士論文の主題である専門職大学院の観点から調査を行った。

調査対象 情報系大学院(専門職大学院・大学院修士課程)各1校の教員
専門職大学院:京都情報大学院大学(2004年開学)
大学院修士課程:情報セキュリティ大学院大学(2004年開学)
*本調査には国内学生派遣事業のほかに、以下も対象として含んでいる。
専門職大学院:産業技術大学院大学(2006年開学)
調査方法 個別教員への半構造化インタビュー
調査時期 2008年10月
調査の特色 ①専門職大学院と修士課程の両者へのインタビューにより、比較検討を行う点
②特に専門職大学院において、実務家教員(企業出身者等)・学術教員(大学院での教育経験がある等)の両者にインタビューを行った点
調査により明らかになったこと

分析の過程で明らかになっていることには、実務家教員、学術教員に志向性に違いがあることである。ただし、実務家教員においても、特にIT系の専門職大学院には、マネジメント系の出身者と、研究系の出身者がいる。そのため実務家教員については、大学院ごとの特色もあったが、実務家の出自による考え方の違いも見られた。

(詳しくは、下記「本事業の実施によって得られた成果」を参照)

調査における課題

今回の調査は、IT系大学院に焦点を絞ったつもりであったが、対象については焦点が絞れており、調べたいこともある程度は見えていたつもりであったが、計画性の不十分さを指摘していただくこともあった。計画性の不十分さとして残った点は、以下の点である。

①専門職大学院教員にとって、修士課程や自身の従事してきた企業での体験は身近なものであるが、修士課程教員にとっては専門職大学院が必ずしも身近ではなく、インタビュー分析から比較を行うのが難しいこと。

②調査設計が専門職大学院中心であったために、質問項目に偏りが起こり、修士課程教員の側で適切な回答が行いにくい様子があったこと。

③質問内容に抽象性が含まれており、また調査協力対象への計画書にも漠然性が残っていたため、協力機関側で意図が把握しにくい面があったこと。

④仮説生成型の研究手法を目指していたが、そうであったとしても一定の自身の確固たる意見・考え・仮説を持ち、それを示さないことには回答者の答えられる内容にも限界が生じること。

謝辞

今回の調査では、外部の大学院大学に調査を依頼し、多くの教員の協力を得た。上記のような計画の不十分さが残っていたにも関わらず、協力をしていただけたことについては大変ありがたく、勉強させていただいた面が多かった。これについては、調査対象機関の代表者の先生、そして調査対象機関の個々の先生方、セッティングのためにご尽力いただいた事務の方々に大変感謝をしております。ありがとうございました。

●本事業の実施によって得られた成果

今回の成果については、2つの側面がある。

第1の成果:論文発表

第1には、今回の調査準備にあたり、経済団体・産業界・スキル標準等で語られる言説の分析を行った。その結果を論文として派遣事業前にまとめ投稿を行った(2008年夏)。その結果、大学教育学会誌第30巻第2号への研究論文としての掲載が決定している。これが、派遣事業に関連した第1の成果であり、同時に博士論文でのケーススタディの章の序論的な位置づけを持つと考えられる。

第2の成果:今回の調査の分析を通じて

第2には、今回の調査の直接の成果である。この調査(ケーススタディ)は2008年8月より順次行っており、今後、2009年度にかけて継続してケースを集め、同時に分析を行っていくものである。今回は、パイロットスタディとして、かつ初めの分析の基礎となる事例として12事例(本事業対象外を含む)のインタビューを行った。この結果をグラウンデッドセオリーアプローチ等の質的調査法により分析を行い、仮説を抽出し、その仮説の精度を高めていくような調査を行うことにより、博士論文での大きな位置づけとなると考えられる。

調査により明らかになったこと

分析の過程で明らかになっていることには、実務家教員、学術教員に志向性に違いがあることである。学術教員は、「明日使える知識」よりも「5年後,10年後に使える知恵」といった汎用性のある方法論などを追求する側面があり、一方、実務家教員には「明日使える知識」も重要であると考える者の方が多い側面がある。ただし、実務家教員においても、特にIT系の専門職大学院には、マネジメント系の出身者と、研究系の出身者がいる。そのため実務家教員については、大学院ごとの特色もあったが、実務家の出自による考え方の違いも見られた。比較の観点で言えば、実務家・学術系の違いを超えて、ビジネス系の教員の方が「広く学ぶ」ことを重視し、研究系の教員の方が「個々が専門性を持つ」ことの重要性を説く声が多かった。

また、全体を通じて、特に専門職大学院ではチームでプロジェクトを行っていく中で身につけていく要素(コンピテンシーなど)を重要視し、プロセスを重視する声が多かった。

ただし、あくまで限られた数の事例の中であり、大学院ごとの特色も無視できない要素であることから、今後、事例数を増やすか、事例数を維持する代わりに深度を深めるなどの工夫をしていきたい。

今回の調査の展望と成果

本データに関しては、来年度の高等教育学会または教育社会学会で発表するとともに、質的調査で一定の説が作られる2009年度中に学会誌に投稿予定である。なお、博士論文においては事例研究を重視することを考えており、その点で、今回の調査は博士論文の本論の一部をなすものとなる予定である。

また、この事例研究の重視の仕方に際しては、今回の調査の中で1事例を多方面から追求するか、複数事例を比較して1つの観点から追求するかも、今後執筆上での課題として浮かび上がった。また、情報系専門職大学院という切り口、ないしは先導的な役割を担う専門職大学院という切り口についても、十分な理論的裏付けの必要性を痛感した。

いずれしても、今回の調査により、主要な専門職大学院の方々のご協力を得られたこと、今後も得られるであろうことが明らかになったことは、今後、事例調査による専門職大学院研究を行う上では大きな成果であったと思う。

●本事業について

今回はフィールドワークとして派遣事業に参加した。フィールドワークはフィールドがあってのことで難しい側面を含んでおり、事業計画を立てることには困難さも伴ったが、派遣事業に「フィールドワーク」があることで、遠方のフィールドワークも可能となり、そうした遠方へのフィールドワークから得られた経験が、博士論文に役に立つのはもちろんのこと、研究者としての計画立案にも続く研究の経験となると考えられる。

よって、フィールドワーク的な側面での派遣事業へ今後も力を入れていただきたいと思っています。