HOME > 平成20年度活動状況 > フィールドワーク学生派遣事業 > 海外学生派遣関連事業 研究成果レポート

国内学生派遣関連事業 研究成果レポート

久保田 純美(メディア社会文化)

1.事業実施の目的

2008年度日本建築学会大会(中国)学術講演会にて学会発表を行うため。

2.実施場所

広島大学

3.実施期日

平成20年9月18日(木)から平成20年9月20日(土)

4.成果報告

●事業の概要

日本建築学会大会は、年に一度、日本建築学会の会員が一堂に会し、最新の学術・技術情報を交換することを目的としている。そこでは、会員の研究発表の場である学術講演会と、専門分野ごとの研究協議会・パネルディスカッション、講演会、建築展などが3日間にわたって開催される。

今年度の日本建築学会大会は、広島大学を主会場とし、「地球=大きな家」をメインテーマに開催された。エコロジーの語源はギリシャ語の家(オイコス)にある。地球環境の生態系をよく知り、上手に共生することが求められている今日、人類が初めて身を守るシェルターをつくった太古の時から綿々と続く家づくりの歴史は、今、地球スケールでの技術にまで手を広げなければならない時代となってきている。建築とは単に建物をつくることだけを指すのではなく、身体を包む衣服から住まいのインテリア、そして住宅地から都市、さらには地球環境までを視野におさめた、モノと空間システムの文化のことと言えるだろう。そこで、21世紀が人類の建築史上で何を創造していくべきか、夢とリアリティを語り合うことを目的とした大会であった。

本大会では、会員による学術講演会や研究協議会・研究懇談会・パネルディスカッションなどが行われるのはもちろんのこと、市民の方々にも、安全で安心な建築・まちづくりや建築文化についての理解と認識を深めてもらうため、講演会やシンポジウム・見学会なども開催された。

さらに、学術分野の研究発表に比べ、技術・芸術分野の発表の少ないというかねてからの指摘を受け、今回の大会から「建築デザイン発表会」を新設し、デザイン系の学生・教員に対して発表の門戸を広げた。

私が研究発表を行った「3次元シミュレーション」というセッションでは、3DCGを用いて研究を行っている者が集まり、各研究の発表および意見交換などを行った。その他、複数の関連したセッションに参加し、研究発表を聴講した。

●学会発表について

本大会において、「都市空間認知における視覚と聴覚の共鳴現象と覆被現象について―街の空間構成と環境認知に関する研究 その10」という題目で発表を行った。

1. 発表内容

都市空間とは、建物、緑や水などの自然、空、建築物とそのファサードの雰囲気、色、看板やサイン、電柱や電線、街灯、自動販売機、人、動物、車などの乗り物といった視覚で得られる要素だけでなく、音や匂いなど、視覚以外の感覚で得られる要素のすべてを統合したものである。これらの要素の一つ一つがメディアとなり、人々の街のイメージというものを作り上げているのである。

しかし、各要素を複合的に扱った研究は少なく、十分な知見が得られているとは言えないのが現状である。

そこで、これまで都市空間を対象に、視覚的要素と聴覚的要素の両方に着目し、視覚的要素と聴覚的要素が街のイメージにどのような影響を与えているのか、2つの要素間にはどのような関係があるのかということについて研究を行い、各要素が街のイメージに与えている影響と、この2つの要素における複合的な効果を明らかにした。しかし、聴覚的要素に関しては音の種類による影響について検討できなかったこと、また複合効果についても十分な考察ができなかったことが課題であった。そこで本研究では、特に聴覚的要素が街のイメージに与える影響と2つの要素の複合効果に着目し、その特徴や傾向について明らかにするため、調査・分析を行った。

その結果、街のイメージ形成における聴覚的要素の影響を明らかにすることができ、また、視覚と聴覚の複合効果である共鳴現象と覆被(ふくひ)現象を確認することができた。共鳴現象とは、「画像のみ」と「音のみ」の印象が似ている場合に、その両方を同時に提示することで、その印象が強調される現象のこと、覆被現象とは、「画像のみ」と「音のみ」の印象が異なる場合に、その両方を同時に提示すると、強い方の印象に全体の印象が引っ張られる現象である。共鳴現象は、視覚と聴覚の印象が調和しているか否かが関係して生じ、覆被現象は、視覚優位の場合と聴覚優位の場合があることが分かった。特に、視覚優位の覆被現象は、視覚と聴覚の組み合わせに違和感のない場合に起こり、聴覚優位の覆被現象は、視覚の印象に対してインパクトのある音を流した場合に起こることを明らかにした。

2. 発表において聞かれた意見

本発表に関して、対象地区が少ないのではないかという意見をいただいた。特に本研究は、街のイメージにおける環境音の影響に着目しているため、色々な街の音について検討することは必要なことである。今回は、作業量の制約や実験時の被験者への負担などを考慮し、その中で環境音の影響をより的確に捉えることができるようにと検討した結果、十分な地区数において実験を行うことはできなかった。今後は、他の地区を対象に実験を行い、多くの事例によって分析を行うことで、その結果を深めていきたい。また、同じ地区であっても時間帯や季節などによっても、その音は大きく変化するため、地区差以外の条件での検討も行っていきたい。

●本事業の実施によって得られた成果

本大会にて研究発表を行ったことで、学会発表の実績を積むとともに、同じような研究を行う学生や研究者の方々と意見や情報の交換を行うことができ、自分の研究に関する新たな視点の発見につながった。

特に、本発表においてご意見を下さった他大学の先生とは、街の印象に対する環境音の影響をどう捉えるかについて議論を行うことができた。環境音は、そこに含まれる音の種類も様々であり、地区によってどの音が含まれているのかが異なる。また同じ地区でも、場所や時間帯、季節、その日の天気など、あらゆる条件によっても違ってくる。そのため、街のイメージに対する環境音の影響をきちんと捉えるためには、様々な条件下での実験を行うことが必要になってくる。しかし、今回発表した研究においては、実験に使用した個別音の種類も少なく、音の影響を十分に捉えることができたとは言いがたい。今後は、このような音をどう捉えていくかが課題となってくるだろう。

本発表において、環境音の影響を捉えるということと同じく重きを置いていた、“街のイメージ形成における視覚と聴覚の複合効果”については、未だその傾向を捉えるにとどまっている。そのため、今後の研究においてぜひ明確に捉えていって欲しいとのコメントをいただいた。この複合効果については、十分な議論を行うことはできなかったが、興味を持っていただけたことは今後の研究の励みになった。

さらに、他の研究者の方とは、現在、博士論文の研究を進める上で検討を重ねている個人差について議論を行うことができた。それにより、自分の研究の意義を再認識することができた。もともと街には子供から大人まで様々な属性の人々が活動している上に、印象については個人差が存在する。そこで、年齢、性別、国籍、職業、街への訪問回数や知識など、実験参加者の持つ属性による評価の違いを明らかにするため、引き続き、実験参加者の属性による評価の違いの検証を考えていくべきであろう。

また、他の発表や講演を聴講することで、関連研究の動向把握を行うことができ、今後の研究の進むべき方向性を考える上で有益な情報を得ることができた。

これらの活動により、関連研究の中での自分の研究の位置づけを再確認することができ、博士論文の研究を進めていく上で、大いに役立った。

●本事業について

この度、本プログラムのお陰で本事業に参加し、学会発表を行うことができた。発表を行うことで、同じ目標を持つ学生や先生方からたくさんの意見をもらうことができ、今後の研究においても大変有意義なものとなった。

本大会での研究発表は、関連した研究を行うもの同士が集まり、情報や意見の交換を行うものであったが、今後は、産官学連携や文理融合型研究のように、自分の研究分野だけに留まらず、他分野の研究者や企業、ときには市民と協力して研究を行っていくことが求められる。そのため、これからの研究において、目的も内容も手法も異なるもの同士が専攻を超えて研究交流を行うことは、特に、学生の研究が多岐にわたる文化科学研究科においては重要なことであると考えられる。

今後も、本プログラムによって各学生の研究が発展し、他専攻の学生や先生方との研究交流が促進されることを願うと同時に、私たち学生としても、専攻を超えた学際的な交流を深めるべく努めていきたい。