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海外学生派遣関連事業 研究成果レポート

大倉 孝昭(メディア社会文化専攻)

1.事業実施の目的

WBE2009における論文発表,ソフトウェア・コンペティション・プレゼンテーション

2.実施場所

タイ王国 プーケット ノボテル・リゾート・ホテル

3.実施期日

平成21年3月15日(日)から3月20日(金)

4.成果報告

●事業の概要

【16日】

Innovative Software Systems and Courseware for WBE  セッションへの参加 本コンペティションでは、オンライン仮想3次元博物館,携帯電話のGPS機能を活かした動物園ナビゲーションシステム,携帯電話を用いて文脈知識に基づく観光施設巡り学習をさせるシステム,SNSを用いたeラーニングシステム など11本の発表がおこなわれた。携帯電話のブラウジング機能を利用し、移動学習端末として活用しようとするシステム・発表等が多くなっている。本学会のテーマがWeb Based Education なので当然ではあるが、Webサーバーとクライアントのブラウザがインタラクションをしながら、Webページの遷移を制御するだけではなく、GPS機能を併用したり、学習者に問題の解答をさせながらより細かい学習制御を目指す研究が増えている。

【17日】

The 2009 International Competition of Non-Commercial Software Systems, Tools and Products for Web-Based Educationでは、21人の多国籍審査員によって、9本のソフトウェア・プロダクツの紹介(解説・デモンストレーション)に対する投票方式の審査会が開催された。 発表は以下である(我々は3番目)

(1) ソフトウェア名:Web-based Applications of 3D and Virtual Reality in Science Teacher Education

[解説]3次元・バーチャルリアリティの教材を用いた理科の教師教育用ソフト (中国・香港)

(2) ソフトウェア名:ePainting

[解説]引っ掻き効果を取り入れた筆を用いて、描画・デザイン用ソフト(水墨画のような絵・アニメーションが簡単に作成できる(台湾)

(3) ソフトウェア名:DVD Movie-based Web-CALL System

[解説]市販の映画DVDを用いたWeb上のCALLシステム (日本)

(4) ソフトウェア名:The Picture Mail Database System with Comment Cards

[解説]携帯電話の写真機能で手書きの論理図を送信・データベース化して学習者間のコラボレーションを実現するシステム(日本)

(5) ソフトウェア名:KNOWTE

[解説]仮想マネーで知的生産物(講義ノートやプログラムなど)を売買させ学習の動機づけを高めるシステム(日本)

(6) ソフトウェア名:Castible

[解説]授業をキャプチャしてeラーニング用コンテンツとして公開するシステム(ドイツ)

(7) ソフトウェア名:Web-based training on automotive electronic systems

[解説]車の電子装置に関する知識を学ぶWebトレーニング・システム(タイ)

(8) ソフトウェア名:Web Eden

[解説]サーバとクライアントがモデルを解釈しながら、負荷分散によって対話的なモデルを構築する、技術に増強された学習(TEL)のためのWebシステム(イギリス)

(9) ソフトウェア名:MASLE

[解説]英語学習者のための発話力評価オンライン・システム(日本)

夕刻から論文賞とともに表彰式が行われた。

【18日】

Quality, Testing and Assessment Issues in WBE セッションへの参加

教室内での学習者の関心、学習者が問題を作成して相互評価する仕組み、携帯電話を用いたオープン・ユニバーシティへのアクセス・インターフェースの評価 など発表があった。

●学会発表について(発表を行った方のみ記入)

小生は、A DVD Movie-based CALL System to Enhance Learner Motivation and Promote EFL Learning という題目で、英語教育実践研究分担者である小山氏、野口氏とともに連名で論文(full paper)を投稿した。“市販のDVD映画を学習素材として学習者自らが字幕を書き入れる,音声を聞き取って字幕文の空所補充をする,あるいは字幕文を音声に合わせて提示するタイミングを映画から取得するといったタスクにより、学習者の動機づけが促進された。”ことを述べた。これをベースにWeb上でそれらのタスクが実現できるシステムを開発・提案し、非商用ソフトウェア・システム・コンペティションに進んだ。

コンペでは、“新規性、ユニーク性、実用性”などが高く評価され、2009 Best Software System Award を受賞した。

<発表概要>

1.目的

映画を楽しむうちにいつの間にか語学が学べるCALL

2.研究の位置づけ(先行研究の調査)

• 映画と字幕の効用

• CC付き番組は学習者の学びの動機づけを促進する(Goldman and Goldman, 1988)

• CC付き映画の中で用いられた口語コーパスを開発(佐藤,1996)

• サブタイトル付き映画DVDによって目標言語の文化知識を同時に学ぶことができる

( Kusumarasdyati, 2007)

3. 課題

• 映画の著作権問題

• CALLシステムは教室に設置されているので自宅学習には使えない

• 教師による学習条件の制御を可能化

4. 実験授業

• タスクによる学習者のリスニング力改善を目指した

• Caption Masterを利用するタスクにより英語学習への動機づけが高まる ことを検証

5. 実験授業アンケートの結果

学習者は、授業・授業外を問わずかなりの量の課題を課したにもかかわらず、「他の映画もこの方法法で学びたい」と希望

6. システムの特徴とユニーク性

• 著作権問題の解決

• 教室での授業と自律学習の連続的接続

• 教師によるオーディオ,サブタイトル,チャプター単位再生 などの制御

• Webページ上の教材とPCにセットされたDVDが同期再生される

7.革新性

• 教師も学生もそれぞれがDVDを所持

• 映画を用いた対話型言語学習は自己学習を促進する

• 教室ではその場の学習者の学習状態を制御できる

• DVD映画を用いた学習がいつでも、どこでも可能

8. まとめと今後の課題

• DVD映画を用いたWeb上で利用するCALLシステムを開発

• DVDを各人がそれぞれ所持することで著作権問題を解決した

• 音声情報をWeb上で扱える(ロールプレイなど)仕組みを実現

●本事業の実施によって得られた成果

<2009 Best Software System Award を受賞>

受賞したソフトウェア・システム

名称:DVD Movie-based Web-CALL System

内容:市販の映画DVDを用いて、Web上で語学学習を行うシステム。

特徴:

(1)教師・学習者を問わず、利用中のPCにセットされたDVDを個別利用するため、映画をコピーするといった著作権法違反が起こらない。

(2)Web上の課題(書き取り,セリフのタイミング取得など)と各自のPCにセットしたDVDが同期再生される。

(3)授業・自習で連続的に利用できる。授業中には教師からの信号で、学習者側の音や字幕を制御することが可能。家庭学習などでは機能をすべて利用できる。

(4)学習者の学習記録がエクセルのシート形式で取得される。

筆頭者としての受賞である。共同受賞者は小山敏子(大阪大谷大学),・野口ジュディー(武庫川女子大学)の両氏である。

<発表に対する評価の概要>

欧米を中心に28カ国から189本の論文が投稿され、そのうち9作品が最終審査に進み、各自15分の持ち時間で競争した。プレゼンとインターネット接続状態での実演を通じ、21人の審査員がユニーク性・実用性・革新性・完成度・ユーザーの評価・将来の発展性などの観点から100点満点で採点・投票するという厳しい審査であった。「市販の映画DVDでこんなことができるなんて信じられない!」「すばらしいソフトウェアだった。」「とても解り易かった。」など審査員を含め多数の参加者から称賛を得た。

<博士論文研究に資する意義>

今回の発表は、博士論文課題「発話情報の文字列化(字幕)を用いた学習支援環境の研究」における、“字幕の応用(情報保障としての利用以外)”という位置づけである。市販の映画DVDには、通常、発売国の母語でサブタイトル(字幕)が入っている。しかし、それは、健聴者の娯楽を支援する目的で作成されており、利用者の意図によって(語学学習,聾者への情報保障など)編集・修正することは不可能である。もちろん、著作物として販売されているわけだから、その著作権や著作隣接権に関して解決しなければならない課題は残っている。ただ、これまで映画は健聴者や晴眼者を対象にしてきたという経緯がある。そのため、視覚・聴覚に障害を有する者については特段の配慮をしてこなかった(聴覚障害者のことを念頭に置いた字幕を入れたDVDの例は聞いた事がない。)。つまり、映画の字幕は、登場人物の発話言語を母語としない健聴者を対象としていたのである。今回の開発・発表は、“映画DVDをオリジナル字幕と事後作成目的別字幕の同期再生(選択・併置)を可能にした”点で、映画の活用場面を大きく広げることに貢献した。博士論文課題において韻律情報の効果を検証する予定であるが、聴覚障害者グループと健聴者グループでの比較実験を行う場面で効果的なツールとなる。

さらに、参加したセッションにおける他の発表から、・モバイル機器を用いたWBEに注目が集まっていること ・ページ遷移やアニメーションを含んだ教材提供だけでなく、双方向型・協調学習機能の充実に関心が移ってきていること などの知見が得られた。

●本事業について

・大学院生に、海外の学会への参加を促す助成制度があることはとてもありがたい。他の組織では、指導教官の科研費において、院生を“連携研究者”や“研究協力者”にして国際学会に参加させるといった苦肉の策をとっているところも多いと聞く。博士課程の院生として応募できる科研費の種目もあるが、採択件数は限られており、院生の研究を広く支援できているとは言い難い。今後もこの制度をぜひ継続してほしい。

・国際学会に参加するだけではなく、論文を投稿・発表する場合には、カンファレンスの登録費用も支援してもらえるとありがたい。今回参加した学会は経費が高く($570)、円高メリットはあったものの院生にとっては大きな額であった。