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国内学生派遣関連事業 研究成果レポート

李 昌熙(日本歴史研究専攻)

1.事業実施の目的

日本列島出土朝鮮系無文土器及び共伴弥生土器調査、炭素14年代測定用試料採取

2.実施場所

福岡県・佐賀県一帯

3.実施期日

平成20年6月9日(月)から平成20年6月15日(日)

4.成果報告

●事業の概要

弥生時代前期末~中期初頭は韓半島から日本列島への渡来人が非常に多かった時期と考えられている。渡来人の証拠としてもっとも注目されているのが日本列島で出土した朝鮮系無文土器(円形粘土帯土器)である。これらを出土するもっとも代表的な遺跡が福岡県諸岡遺跡と佐賀県土生遺跡である。これらの遺跡については昔から日本の研究者によって研究されてきたが、私はこのように重要な資料を直接観察したことがなく、図面でしかみたことはなかったので、今回の事業を通じてはじめて資料調査することができた。朝鮮系無文土器の研究者として該当遺物を観察し、実測、拓本、撮影を行なった。

佐賀県立博物館と小城市立歴史資料館で土生遺跡から出土した朝鮮系無文土器を調査した。特に小城市立歴史資料館では最近報告された新しい土生遺跡の資料を調査でき、炭素14年代測定用試料として土器に付着している炭化物も2点採取した。

佐賀市教育委員会では鍋島本村遺跡、津留遺跡、増田遺跡から出土した朝鮮系無文土器の調査を行なった。

福岡市埋蔵文化財センターでは諸岡遺跡から出土した朝鮮系無文土器の調査を行なった。さらに、現在調査中の元岡遺跡から出土した韓半島関連の資料も観察した。調査担当者や関連専門者との議論も交換でき、さまざまな意見と情報を得られた。

以上の朝鮮系無文土器が出土した諸遺跡で共伴して出土した弥生土器も観察し、併行関係にある弥生時代前期末の板付Ⅱc式土器と中期初頭の城ノ越式土器についてその特徴や変化様相を把握した。

●本事業の実施によって得られた成果

今回、調査を行なった資料は朝鮮系無文土器が出土した代表的な遺跡である諸岡遺跡と土生遺跡などから出土した資料である。これらの遺跡の報告書が出たのは1970年代なので、今回、土器を観察しながら実測をとったことで博士論文などにも活用することができるようになった。

前回と今回の調査によって九州地域で出土した朝鮮系無文土器の特徴と状況をある程度まとめることができた。なお、共伴した弥生土器についても調査ができ、九州と韓国の土器の併行関係を考えるうえで、大きく寄与することとなった。特に弥生時代中期初頭の城ノ越式土器の形成に朝鮮系無文土器が大きな影響を与えたと考えるようになり、今後の課題である。今回の調査結果を論文として発表することも考えており、博士論文の一節としてとりこめればと考えている。

最近、土生遺跡の新しい資料が数多く報告されたが、あまり知られていなかった。今回の調査でその資料の大部分を調査することができた。これに関してもこれから分析しようと考えている。なお、共伴した弥生土器の調査によって、同じ時期の弥生土器でも佐賀と福岡では差がかなりあることがわかるようになった。佐賀県の弥生土器研究があまり進んでいない感じを受けた。

日本列島で出土した勒島式土器を集成している途中であるが、これまで知らなかった勒島式土器2点を発見、調査することができた。

土生遺跡から採取した土器付着炭化物2点の炭素14年代測定ができれば、その測定結果は実年代を推定する上で重要な役割を果すことと考えられる。