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国内学生派遣関連事業 研究成果レポート

友永 雄吾(地域文化学)

1.事業実施の目的

オーストラリア先住民ヨルタ・ヨルタの長老及びメルボルン大学教授ウェイン・アトキンソン博士の北海道にて開催される先住民サミットと北海道大学主催先住民族エコツーリズム研究会での通訳同行並びに映像発表

2.実施場所

①平取中央公民館大ホール、②札幌市アイヌ文化交流センター(札幌ピリカコタン)、③札幌コンベンションセンター特別会議場、④北海道大学人文社会科学総合教育研究棟W棟3階309室

3.実施期日

平成20年6月30日(月)から平成20年7月6日(日)

4.成果報告

●事業の概要

2008年7月1日から4日まで北海道沙流郡平取町と札幌市内を中心に開催された『「先住民族サミット」アイヌモシリ2008』国際会議に参加した。本会議には日本のアイヌ民族をはじめ北米、南米、オーストラリア、台湾、バングラディッシュなど12ヵ国22民族の代表が集まった。北海道平取町や札幌市で開催された先住民族サミットは4日間でのべ1500人の市民らが参加した。参加目的は、本国際会議にオーストラリアより招聘されたメルボルン大学政治学・犯罪学及び社会学部の先住民族研究分野で上級講師およびフェローでありヴィクトリア州アボリジナル集団ヨルタ・ヨルタの長老でもあるウェイン・アトキンソン博士の通訳をすることにあった。

会議終了後2008年7月5日は、北海道大学アイヌ・先住民研究センター主催「先住民族エコツーリズム・プロジェクト」にて「文化ツーリズムとヨルタ・ヨルタ:排除の事例」と題する講演をウェイン・アトキンソン博士と行った。

『「先住民族サミット」アイヌモシリ2008実行委員会』統括代表である萱野志朗氏は、本国際会議の主題を以下の3点にまとめている。

  • ①海外より先住民族の代表を招聘し、知識の共有化を図ること。
  • ②(Uko)caranke(以下、ウコチャランケ:アイヌ語で「話し合い」)を通じて「環境」、「権利回復」、「教育・言語」の3テーマについて議論を交わすこと。
  • ③上記の結果を「先住民族からG8への提言」として取りまとめ、7月8日から9日にかけて洞爺湖で開催された「G8サミット」参加者首脳へ文章で提出すること。

■ 6月30日は北海道沙流郡平取町にある萱野茂資料館にてウェイン・アトキンソン博士と合流した。その後、ホテルへ移動し夕食後アトキンソン博士と翌日から開催される「先住民族サミット」アイヌモシリ2008の一日目に関する打ち合わせ行った。内容は、事前に博士より本サミットへ提出されている決議案、殊に、2007年9月に国連総会で採択された先住民族の権利に関する国連宣言に対するオーストラリア政府の未批准の現状と博士が属するヨルタ・ヨルタ集団の文化や歴史を伝えるために重要な役割を果たすダルニヤ文化センターの閉館を強調することが確認された。

■ 7月1日は、まず国連の「先住民族問題に関する常設フォーラム」議長で、フィリピンのイゴロット族のヴィクトリア・タウリ・コープズ氏による基調講演が行われた。本講演で氏は「先住民族は気候変動問題などを解決できる鍵を握っている」と話し、「先住民族がどのようにして自分たちの共同体を守ってきたか、自然との関係を守ってきたかを(G8諸国が)見るように訴えていくべきだ」とする良き実践モデルを提供し、気候変動緩和対策に対して先住民族の責務が強調された(e/c.19/2008/10)。次いで、海外より招聘された先住民族からのメッセージがそれぞれ5分の限られた時間で伝えられた。ウェイン博士の順番は3番目で、次の内容が強調された。まず「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が2008年6月6日に衆参両議院で可決されたことを讃え、ヨルタ・ヨルタの問題を本会議に集ったアイヌと世界の先住民兄弟姉妹と共有すること。さらに、2007年9月13日に国連総会にて採択された「先住民族の権利宣言」に反対票を投じた4ヵ国の1国であるオーストラリア連邦政府に対し本会議を活用し早期採択を促すこと。最後に、ヨルタ・ヨルタの人々が文化を実践し教え、さらに先祖の大地との特別な関係を保持することができるダルニヤ・センター再建を要求すること。その後、ウェルカム・セレモニーが開催され、会議実行委員会や主催者であるアイヌ民族の人々と海外先住民族の人々との交流会が持たれた。


写真1
ウコチャランケ「権利回復」の会場
(報告者撮影)

■ 7月2日は、「環境」、「権利回復」、「教育・言語」の3テーマでウコチャランケが開催され、ウェイン博士は「権利回復」に参加した。海外から招聘された先住民族参加者は、ヴィクトリア・タウリ・コープズ氏(フィリピン:イゴロット)、ロサリーナ・トユック氏(グアテマラ:マヤ・カクチケル)、ロス・カニングハム氏(ニカラグア:ミスキート)、ローラ・ハリス氏(アメリカ:コマンチ)、ジャクリーン・ワシレウスキー氏(アメリカ:チェロキー)、ウェイン・アトキンソン氏(オーストラリア:アボリジナル)。アイヌの代表者は島崎直美氏、秋辺日出男氏、木幡弘文氏。本ウコチャランケは秋辺氏を議長、木幡氏を書記として開始された。前半は海外先住民族参加者からそれぞれに直面する土地正義、環境破壊、植民地による権利の剥奪や虐殺の状況さらに開発下における経済的、政治的、社会的な周辺の現状についての報告が20分ずつなされた。後半は、アイヌ主催者と聴衆者を含めた活発な討議が交わされた。とりわけ、国家や企業などによる土地の略奪、バイオ燃料のための生産や水力発電開発、排出権取引などのような環境保護の市場基本構造など気候変動の軽減の名目でとられる措置、食糧危機につながる措置、米州人権裁判所などの地域裁判所や人権機構において先住民族の権利侵害の訴えを支援することやアセアンの人権憲章に国連先住民族権利宣言を盛り込むことなどが議論された。

ウェイン博士は、オーストラリア先住民の土地不正義に関する問題をダルニヤ文化センター閉館の現状と再建の要求に基づき訴えた。さらに先住民族の権利に関する国連宣言を未批准のオーストラリア政府の対応と本宣言第10条、11条、19条、20条、32条を強調し、ヨルタ・ヨルタさらに先住民族の伝統と慣習に従って、共同体または民族に属する権利を認め、それを実践しかつ再活性化する権利を強調した。本分科会と、その他「環境」、「教育・言語」テーマのウコチャランケのまとめが行われた後、夕方からは各グループの代表がそれらまとめに基づく発表がなされ、G8への提言に向けた討論が行われた。


写真2
二風谷ダム・平取ダム予定地の
フィールドワーク
(報告者撮影)

■ 7月3日は、昨日の白熱した議論に代わり、沙流郡平取町を中心とした2つのフィールドワークが実施された。本フィールドワークは、①「環境」に関する「二風谷ダム・平取ダム予定地などの見学」、②「文化・歴史」に関する「沙流川歴史館・平取町立二風谷アイヌ文化博物館・萱野茂二風谷アイヌ資料館見学」である。ウェイン博士と報告者は「環境」に参加し、ダム建設とそれに対するアイヌの人々からの訴訟、二風谷ダム訴訟に関する概要と、本訴訟を受けた先住民権原の承認を認めた裁判結果、今日においても議論が続いている平取ダム建設の現状について学習した。

本フィールドワーク終了後、海外先住民族代表を含む一同は札幌市内へ向かい、午後には札幌市アイヌ文化交流センター(札幌ピリカコタン)にてカムイのミ(神への祈り)に参加した。その後、海外より招聘された先住民族一人一人からの自己紹介がなされた。最後に、アイヌ料理が振る舞われ、歌やダンスも披露された。本交流会の間、アイヌの代表者を中心とする実行委員会は、翌日開催される先住民族サミット全体会に提起される「G8への各民族からの提言」の作成に取りかかった。さらに、海外先住民族代表にも明朝10時までに、それぞれの国で抱えている問題に基づいた要求を提出できる機会も与えられた。これは前日のウコチャランケにおいて、アトキンソン博士を含めた海外先住民族代表からの「アイヌの人々からの意見を尊重し、先住民族の権利に関する国連宣言に基づいた提言の作成を歓迎する。これに加え、海外より招聘された先住民族代表がそれぞれの国において直面する問題も提言できる機会も設けて頂きたい」とする要求を配慮した対応であった。

■ 7月4日、札幌コンベンションセンター特別会議場にて開催された全体会議で、実行委員会統括代表である萱野志朗氏の開会の言葉が述べられた。続いて、(社)北海道ウタリ協会理事長の加藤忠氏と来賓ゲストからメッセージが伝えられ、国連の「先住民族問題に関する常設フォーラム」議長ヴィクトリア・タウリ・コープズ氏より『先住民族の権利に関する国際連合宣言を実現するための課題』と題する基調講演がなされた。内容は7月1日の講演とほぼ変わりないものであった。その後、当日に選抜された9 海外先住民族からの発表を実施した(注②)。最後に、「二風谷宣言」「日本政府への提言」をジョアン・カーリング氏(カナカナイ:フィリピン)が読み上げ、これら宣言と提言が 採択された。

全体会終了後に記者会見が行われ、サミット全行程が終了した。サミット終了後、特別会議場は、本サミットのアイヌ民族主催者やその家族、親族、同胞、海外先住民族代表、通訳者、学生ボランティア、知識人さらには市民により埋め尽くされ、先住民族ミュージックフェスティバルinアイヌモシリ2008の開催により盛大な盛り上がりを見せた。

■ 7月5日は、北海道大学主催のツーリズム・プロジェクトの主催で、北海道大学キャンパス・アイヌ・エコツアーに参加した。行程は、クラーク像前で集合し、アイヌ納骨堂と古代アイヌ竪穴住居跡地をめぐった。その後、「文化ツーリズムとヨルタ・ヨルタ:排除の事例」と題する講演をウェイン博士と報告者で実施した。参加者は約30名(内訳:14名海外先住民族代表。4名国内学者。3名アイヌ代表、その他は学生、通訳者、一般参加)。時間の制限状、報告者と博士を中心に作成した映像上映はできなかった。しかし、ヨルタ・ヨルタ集団の歴史、現状に関する報告をアイヌの代表と海外先住民族の代表さらには日本の有識者と共有できた。その概要は、以下の通りである。


写真3
ウェイン博士と報告者の報告の様子
(キャサリン・ギネス撮影)

オーストラリア連邦ヴィクトリア州政府の管理義務放棄による建物老朽化のため2007年5月ヨルタ・ヨルタの本来の領域に設置されているダルニヤ・センターが閉館に追い込まれ、ヨルタ・ヨルタは近年、その他多くの植民地遺産が(持つ権利)と同じ文化を実践し享受する権利を剥奪された。2008年から2009年のヴィクトリア州政府地域ツアーリズム予算3500万ドルの内、如何なる予算もダルニヤ・センターに支払われていないことは、ヴィクトリア州政府に加え、州の土地とツアーリズムを運営するエージェンシーの側に基づく、ヨルタ・ヨルタに対する制度上の人種差別主義と排除という事実を示している。

報告終了後、アメリカのハワイ先住民族代表フワナニ氏より、国立公園化は、ヨルタ・ヨルタに良い影響を与えるのみでなく悪い影響も与えるのではないかという懸念が示された。次いで、アメリカのチェロキー代表ジャクリン氏より、閉館状態にあるダルニヤ・センター再建を求める著名を呼びかける提案があった。最後に、アイヌ民族代表の竜吉氏よりオーストラリア政府の先住民族の権利に関する国連宣言への反対に対する現在の動向とオーストラリア先住民族の代表機関の有無に関する質問が出された。

●本事業の実施によって得られた成果

本事業を通じて得られた成果は大きく次の2点に集約できる。一つはウェイン・アトキンソン博士が獲得した成果。もう一つは報告者が得た成果である。

アトキンソン博士の個人的なインタビューに基づけば、博士が得た成果には以下の3点が上げられる。

1.オーストラリアにおける先住民が今日直面している状況を日本のアイヌ民族をはじめその他海外の先住民族代表と共有できたこと。殊に、2007年9月に国連総会で採択された国連先住民族の権利宣言に対するオーストラリア政府の未批准の現状とアトキンソン博士が属するヨルタ・ヨルタ集団の文化や歴史を伝えるため重要なダルニヤ文化センターの閉館の現状と、その再建のための運動について共有することができた。

2.「二風谷宣言」「日本政府への提言」が採択され、これら宣言と提言は、先住民族の土地に関する正義を強調し、伝承されてきた文化の実践と権利が確認された。さらに、政府やその他集団が先住民族の問題を扱う際、政府や団体に先住民が抑圧されることなく自由、優先事項、さらに十分な合意に基づく権利に基づいて扱われることを支持した。宣言の詳細な内容は、反テロリズム法などによる合法的な抗議活動などの違法化、国家や企業などによる土地の略奪、バイオ燃料のための生産や水力発電開発、排出権取引などのような環境保護の市場基本構造など気候変動の軽減の名目でとられる措置、食糧危機につながる措置などに対する懸念が表明され、国連先住民族権利宣言を主軸とする枠組みを政府開発援助、投資や政策に活用することや気候変動枠組条約や取り組みに先住民族の参加を確保することなどのほか、環境、開発を含むさまざまな分野での先住民族の権利の保護に向けたG8に対する提言が含まれた。また、米州人権裁判所などの地域裁判所や人権機構において先住民族の権利侵害の訴えを支援することやアセアンの人権憲章に国連先住民族権利宣言を盛り込むことなども提言している。そのほかに、先住民族に対して、イタリアでの2009年G8サミット開催にあわせて「先住民族サミット」開催を働きかけることや国連先住民族権利宣言実施に向けて取り組むことなども宣言された。提言では、日本政府に対し、アイヌ民族を日本の先住民族とした国会での決議を高く評価しながらも、政府の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」のメンバー8人のうちアイヌ民族のメンバーが1人しかいないことを批判し、半数以上がアイヌ民族から選ばれるべきとするほか、自己決定権、言語権、自然資源利用権の回復、アイヌ民族の言語の公用語化、アイヌ民族の視点からの歴史教科書作成などを強調した(注①)。アトキンソン博士はこの「二風谷宣言」を受けて、自分たちの文化を教え、実践し、享受するための州や地域行政区において先住民族が所有し運営できる文化センターや国立公園化の仕組みを構築し、土地の正義や森林つまり本来の領域を先住民族が運営できる点を強調していることを歓迎した。さらに博士は、現在の労働党連邦政府が、2007年に採択された国連先住民族の権利に関する宣言を批准するよう本線源が要求している点も歓迎した。

3.博士は、日本のアイヌ民族問題をめぐる研究者の介入に注目し、アトキンソン博士は、未だ、アイヌ民族の問題を語り、教えることのできる知識人がアイヌ民族の中から出ていないことを危惧し、非アイヌ研究者が未だアイヌ問題におけるイニシアティブを取っていると批判した。この一方で、博士は本先住民族サミット実行委員に、多くのアイヌの若者が積極的に参画し、その何人かが大学や大学院などで研究をしていることに好意を示し、今後、メルボルン大学においてアイヌの若い大学院生を招聘しオーストラリアと日本の先住民族問題に関する国際交流を促進する考えを示した。

報告者にとっての研究成果としては以下の点が上げられる。

1. アトキンソン博士がヨルタ・ヨルタ・ネイション法人の代表として招聘され、ヨルタ・ヨルタが先住民族としての権利を要求する際、国内の市民やNGOのみとの連帯を構築するだけでなく、国際法や国連の先住民常設フォーラム、さらにアイヌ民族や北米、南米、ヨーロッパ、アジアと全世界に存在する先住民族との連帯を図りながら運動を進めていることが見受けられ、そこに大きな意義がある。

2. 報告者が作成したヨルタ・ヨルタの火付けによる森林管理と余暇のフィッシングに関するビデオをアトキンソン博士と鑑賞し、博士より森と川資源の利用や管理方法をめぐる変容の過程を老若男女に焦点を当て、上手く描き出しているとの評価をえた。

3. アトキンソン博士が指摘しているように、今回のサミットは、年配のアイヌ民族のリーダーのみでなく、女性と青年達が切磋琢磨しながらも、年配の先人達から多くを学び、しかも確実に自分たちの考え方を積極的に打ち出す姿であった。Ainu Rebelsというバンドのメンバーで、本サミットの実行委員でもあり、現在東京を中心に活躍する兄妹は、アイヌであることに「誇り」を持つことでアイヌであることを取り戻した。さらに、立教大学大学院で学ぶアイヌ女性は、知識人を中心とする非アイヌやメディアからのアイヌの表象の仕方を疑問視し、外部の物差しを疑うことなく受け入れながらアイヌを演じる、つまり内面化することに警戒を鳴らす。現在、オーストラリア人のパートナーとメルボルンで暮らし、大学院にて知的財産に関する研究を続ける女性。この若い世代の姿は、同年代である報告者にとって心の奥底で、強く共鳴する。被差別部落民としての出自を有する報告者にとって、かれらの存在は、一つのエンパワメントのためのプロセスを示してくれている。全体会終了後、報告者はアイヌ民族の青年達と今後連帯し、人間として自らがアイヌ民族として被差別部落民として「誇り」をもって暮らせる世界を達成することを確認しあった。

要約すると、本事業を通し得られた成果は、先ず、ヨルタ・ヨルタの代表、オーストラリア先住民の代表でもあるウェイン・アトキンソン博士の、先住民族サミットを活用した、ヨルタ・ヨルタ問題の国際的な共有化の実践を明らかにできた。次いで、一地域の一集団の問題が、世界レベルの先住民族の問題として取り上げられる過程の事例を提示できた。さらに、ウェイン・アトキンソン博士と日本社会との非対称的な関係を意識し、博士の異文化の眼差しに映る日本文化の一事例を示すことにもなった。さらに、報告者のエンパワメントのためのプロセスにもなった。

この成果を踏まえ現在、オーストラリアと日本にて開催されるそれぞれの学会においてウェイン・アトキンソン博士との協働発表として報告することが可能であるかの議論を博士と進めている。

●本事業について

これまで国外・国内学生派遣事業を活用し、博士論文完成のための研究推進に対する支援を頂いた。そのいずれの事業においても、報告者は博士論文完成のため不可欠な成果を生み出すことができたと自負し、またそのような機会を与えてくださった本事業に感謝したい。

今回の国内学生派遣事業は報告者の論文完成に必要となる成果を生み出したのみでなく、これまでお世話になってきたオーストラリア先住民ヨルタ・ヨルタ集団や本集団の出自を持つウェイン・アトキンソン博士にとっても成果をもたらした点で、その意義は大きい。つまり、アトキンソン博士と博士を代表として承認し、日本へ送り出したヨルタ・ヨルタ・ネイション法人は、私をかれらのメッセンジャー(通訳)として媒介として活用し、かれらの要求を「先住民族サミット」という極めて政治的な場を活用し成し遂げたのである。その際、アトキンソン博士が必要にまで使用した言葉は「基本的人権」と「先住民族の権利に関する国連宣言」であった。これら普遍的な表現をツールとして用いることで、自分たちが直面する問題をアイヌ民族や海外先住民族代表、サミットに集った市民さらにはG8の首脳に問いかけたのである。このような事例を考慮すれば、本事業は学生のみだけに多大な成果を生み出すのではなく、学生の研究に支持を示す国内外の個人や集団にも多大な成果をもたらすことになる。よって、これから本事業を活用する学生は、自らの研究を発展させると同時に、その研究を取り巻く個人や集団と協働し、学際的な研究も念頭に入れ本事業を活用することも可能となる。このことは報告者の今回の事例が明らかにしている。

このような貴重な機会を与えてくれた本事業に対して、感謝申し上げます。