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国内学生派遣事業 研究成果レポート

豊増 佳子(メディア社会文化専攻)

1.事業実施の目的

研究結果を発表し、他研究者から研究についての意見を得て、そこから得た知見を今後の博士論文に活用していくことである。また、本博士研究は、看護に関する教育を検討する研究であり、看護学会での発表は本博士研究において、看護の視点からの意見を得る非常に重要な機会とする。そして、本大会で得たアドバイスによって、博士論文の質の向上を目指す。

2.実施場所

福岡国際会議場、福岡サンパレス(福岡市博多区石城町)

3.実施期日

平成20年12月13日(土)から平成20年12月14日(日)

4.成果報告

●事業の概要

1.派遣先機関・学会:第28回 日本看護科学学会 学術集会

2.目的:研究成果発表のため

3.発表テーマ:看護における注射準備業務中の割り込み状況とその処理方法のビデオデータ分析

4.学術集会開催概要:日本看護科学学会は、1981年に看護学の発展を図り、広く知識の交流に努め、人々の健康と福祉に貢献することを目的に発足致した。会員数は、2008年2月現在では正会員5,398名の日本の看護系の学会で最大である。その学会の、今回の学術集会のメインテーマは「ケアリング・サイクルと看護科学」だった。看護職が行うケアリングは、患者やその家族に対してだけでなく、看護学生、同僚である看護師に対してまで幅広く適用される概念であり、看護職が働く職場がケアリング・マインドであふれ、ケアリング・サイクルとして循環することが看護の質向上につながる、との学会長の趣旨のもとに、ケアリングに焦点を当てた、看護科学の視点で参加者が共に考える企画で構成された。

プログラムは、会長講演、基調講演、特別講演、教育講演、シンポジウム、交流集会、口演発表・示説発表、ラウンドテーブルも企画され、発表演題は、口演281、示説486で計767演題の巨大学術集会だった。多くの発表演題には、看護の各専門性に分かれて発表が行われ、看護教育のテーマでも発表が行われ、各演題会場は、聴衆であふれていた。

基調講演で、ケアリングの理論家では著名な、Jean Watson(University of Colorado Denver)の「Caring Science as ethical and scientific model for nursing education and practice.」の講演が行われ、多くの聴講者が参加した。

ランチョンセミナーでは、「一事例の質的研究でも科学的か?」というテーマでの高木廣文(東邦大学)の講演は、会場からあふれるほどの聴講者でいっぱいだった。看護系でも、研究方法の妥当性や信頼性、哲学的背景はよく討議される。統計学の専門家である講師が、構造主義的視点を含めた講演は大変興味深く考えさせられた。自分の学位論文でも研究方法に関することでは課題にすることが多い中で、多くの示唆を得た。

●学会発表について

【背景】看護師は、複数の患者を対象に、同時多発的な多重の業務について、優先順位を判断しながら、時間内に正確に看護行為することが求められている。その看護業務をサポートする教育内容や方法を探究するため、その基盤研究を行った。

【目的】看護における注射準備業務中の割り込み状況とその処理方法の実際を、録画データから明らかにする。

【方法】1. 調査時期:2007年2月下旬-3月末 2. 調査方法:関東にある約700床の病院の某病棟。スタッフステーション内で患者の映りこみを防止できる撮影可能な場所として、注射準備台付近にビデオカメラを設置し、看護師の業務内容を日勤帯9時から16時までの約7時間撮影・録画した。3. 分析方法:動画分析ソフト(Mpg2Cut2)で再生し、研究者の視点で業務の割り込みが生じている場面をトリミングした。その各場面状況のキーワードで簡単なファイル名に表現して保存し、割り込み業務発生時の状況とその対処方法を列挙して整理した。

【倫理的配慮】1. 研究の対象となる看護師に対しては、倫理的配慮を遵守するなどの説明文書を用いて説明して同意を得た。2.施設、研究対象以外の他医療スタッフに対して、倫理的配慮のもと説明し了承を得た。3.担当者や部署の責任者には随時相談しながら倫理的配慮に準拠した。調査者の存在の影響が最小限になるよう最善の工夫も行った。

【結果】データ収集の場所柄、割り込まれる主タスクのほとんどが注射の確認や準備だった。新しい業務が割り込まれたとき、(1)明らかな長時間の中断(2)明らかな短時間の中断 (3)一瞬の中断+並行作業 (4)一瞬割り込みは入るがほとんど中断はしない+並行作業など、何らかの形で業務を一時中断する場面は計41場面だった。また、(5)前の作業が終了した時点で新業務発生 (6)意図的に中断をしない (7)割り込みを待たせるなど、業務を一時中断しない場面は計7場面だった。割り込みの要因としては、ほとんどの業務の割り込みが、人と人との対応場面において人によって生じており、質問、報告、依頼、通常会話、ぶつかり合う、他職種(薬剤師)からの報告・相談などだった。割り込みが生じた場合、ビデオデータ内の対応は即興的であったことから、道具的対応(メモを使うなど)までは見えなかった。

【考察】多くの看護師が時間集中して点滴確認や準備作業を行うため、他業務が割り込んだのか、単なる物理的な環境の狭さによって業務が「邪魔」されたのかを判別する必要があった。また、一課題の開始から終了までの遂行工程の見極めも必要だった。状況を映し込むビデオ撮影画面範囲の制限や、録音状態の限界などから研究の限界もあった。以上の課題を残しながらも、看護における注射準備業務中の割り込みが生じた場合、多くの場面で看護師は業務の中断をしていたため、今回得られた割り込み後の対処方法とその分類を、教育目的の焦点化や教育内容・方法の検討時に活かしていきたい。

【質疑応答】この成果を、今後の研究にどのように活用するのか?という質問がされた。回答としては、看護における注射準備業務中の割り込み状況とその処理方法を分析することで、このような場面で対処する能力の養成を支援する教育方法を開発・評価するための基礎情報や教育開発の一示唆とすることについて答えた。

●本事業の実施によって得られた成果

本事業において得られた知見は以下のとおりである。

1.会議全体から自分の研究領域に対する示唆

看護の基本理念であるケアリングの概念について振り返り、自分の研究テーマと照らし合わせて考えることができた。特に、割り込み業務等の対処やマネジメント方法については、一見業務の効率的な視点や解決策に偏る可能性もあるが、看護の基本であるケアリングの基本理念を忘れない中での教育効果をも考慮しておくことは重要であると考える機会となった。

2.博士論文への示唆

本博士研究は、看護に関する教育を検討する研究であり、看護学会での発表は本博士研究において、看護の視点からの意見を得る非常に重要な機会となった。また、現在の看護関連の研究動向も知ることができた。本大会で得た情報からも、論文構成、内容の再検討を加えて、質向上を図る予定である。

●本事業について

学生にとって、今後もこのような支援を得られることは大きな場となると考える。このような機会与えられたことに大変感謝している。