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海外学生派遣関連事業 研究成果レポート

SAUCEDO SEGAMI Daniel Dante(比較文化学)
  

1.事業実施の目的

情報科学の手法を考古学へ応用するための方法論を、国際学会で発表する。

2.実施場所

Sociedad Española de Arqueología Virtual セビリア、スペイン

3.実施期日

平成21年6月15日(月)から6月23日(火)

4、成果報告

●事業の概要

 2009年6月17日から20日までスペインのセビリア市にて開催された第一考古学と図形情報科学国際学会に参加した。本学会では様々なセッションに分かれて考古学と図形情報学のプロジェクトの成果について発表が行われた。
 近年、世界中において考古学は研究方法として図形情報学を使用している。図形情報学は考古学者が研究成果を広げるために重要になっている。また実際、文化資源管理と博物館学の分野においては文化資源の保存が困難である場合、特にヨーロッパにおいて、デジタル・データ化して保存している。この作業に伴い、研究者は基準となる方法論と倫理の必要性を認識した。その方法論と倫理を議論するために開催されたのが第一考古学と図形情報科学国際学会である。
 この学会では考古資料のデジタル復元、考古学に適用される仮想現実(VR)と拡張現実(AR)、考古資料の3Dデジタル化、考古学とキャド(CAD)、バーチャル考古学の理論、バーチャルの考古学と博物館などがテーマとなった。大きく分けると倫理、方法論、活用の三つの大きなテーマである考えられる。
 倫理に関して、「バーチャル考古学の理論」のテーマでロンドン設立許可書についての議論が行われた。この設立許可書とは考古資料に関する図形情報学活用の規範である。その中で、過去の社会や建物などのデジタル復元にするとき、技術者はどこまで実際のデータから離れることができるという点が議論された。そのため、発表者は実際的な事例で様々な状態を提示した。
 方法論と活用については、博物館及び遺跡で仮想現実(VR)と拡張現実(AR)の活用というテーマがあった。VRの場合は博物館で客が遺跡の元の状態を経験できる。また他の地域の史跡についても客がそこに存在するように経験できる。ARの場合は現在の遺跡の状態と元の状態を比較するため、客は両方の状態を経験できる。事例として、ポンペイの元活動とスペインの洞くつに描かれた壁画が提示された。
 このほか、考古資料のデジタル保存の重要性についての議論も行われた。とくに、現代の遺跡と史跡などの文化財を保存するため、デジタル方法はその文化財を全く変更しないので、実際の復元よりも良いと考えられる。
 参加したセッションは「Didactics of Cultural Heritage in 21th Century: New Teaching Approaches」である。このセッションでは研究者だけではなく、中学校の教師などの一般の人々の意見を聞くことが出来た。ヨーロッパ、特にスペインでは、教師は学生に出身地の歴史と伝統を教えるため、考古学資料を使用している。しかし、見学のための旅行は費用がかさむため、「バーチャル見学」を行っている。インターネットを使用し学生に授業の情報を伝えたり、現地で博物館や遺跡の写真を撮って、3Dのソフトを使いながら学生にバーチャル見学をさせるのである。
 本学会にて考古学と情報科学に関する新たな方法を学ぶことができた。これにより自身の研究にも大いに役立つと考える。

●学会発表について

 私は「Didactics of Cultural Heritage in 21th Century: New Teaching Approaches」のセッションにて、私自身がその運営に携わっている「アルケオス」考古学電子マガジンのプロジェクトについて発表を行い、考古学の情報を広げるための電子メディアの重要性を提示した。
 本発表のテーマは二つある。第一に、プロジェクトの企画段階から実際の運営にいたるまでの経緯に焦点を当てた。電子マガジンを立ち上げた理由は単純な発想からである。紙製の雑誌や書籍は非常に高額であるため、ペルーのような発展途上国では購入して読める人は少ない。ところが、近年ではペルーでもインターネット・カフェが普及し、誰でも容易にインターネットへのアクセスが可能である。この状態を有効に利用するため、カトリカ大学考古学専攻の在学生と卒業生が共同して、2006年に「アルケオス」電子マガジンプロジェクトを立ち上げた。この電子マガジンはインターネットを利用することで、世界中から無料で購読することが可能となる。「アルケオス」の評判は良好で、毎月約4000人のアクセス件数がある。また、本サイトはカトリカ大学の技術者が管理しているため、経済的に低コストで維持できている。つまり、本プロジェクトは考古学者が情報収集を行い、技術者と連携してインターネット上で情報を公開するという新しい方法を発達させた学際的なプロジェクトといえる。
 第二に、研究者同士のみならず一般の人々との交流を深めるための電子メディアの利点と可能性に焦点を当てた。電子メディアを活用することで、インターネット上で新たな考古学的発見、最新の学会情報、文化遺産保存の情報などが即座に公開できるのである。言うまでも無くアクセスするためにはインターネットに接続したパソコンが必要ではあるが、基本的には誰でもどこでも最新情報を獲得できるのである。もう一つの利点は、他分野の研究者や一般の人々との交流ネットワークが構築できる点である。また、電子マガジンに論文を発表した研究者との直接的な交流を通して、一般の人々も議論に参加することが可能となる。
 4年間で「アルケオス」は一般の人々にも広く普及しているが、まだ学問的な世界においてはこのマガジンの成果が明らかになっていない。とくに年配の研究者は電子マガジンが刊行物よりも価値が少ないと考えている。近年、若手研究者は電子マガジンの高い利用価値を認めているが、しばらくこの状態は変わらないと考えられる。

●本事業の実施によって得られた成果

この学会において得られた成果は「アルケオス」の経験を共有できたことである。これにより他の研究者たちの経験を知ることができた。他の研究者は一般の人々に考古学の情報を伝えるために、さまざまな方法を利用している。インターネットの活用はその一つであるが、一般の人々の関心を惹くためには考古学者が、よりインタラクティブな方法を利用することが必要である。読むだけではなく、ビデオやVRなどを使用しながら、考古学者は一般の人々に過去を示すべきである。本学会では、その方法を学ぶことができたため、今後の「アルケオス」プロジェクトにも活用することができる。
 さらに、他国の研究者と交流をすることにより、ネットワークを広げることができた。このネットワークを使用し、各国の考古学者と経験を共有することができる。ペルーでは考古学界における情報科学の活用はまだ発展していないので、このネットワークは非常に重要であると考えられる。ペルーの研究者は新たなソフトや機械、そして事例などを見ながら、各考古資料に活用できると考えられる。その結果は再度ネットワークに共有できるので、ペルー国内外の研究者はその経験をうまく利用できると考えられる。

●本事業について

 私費留学生として、経済的な困難があるので、簡単には国際学会に参加できないため、本事業はとても助かった。しかし、一年で一回だけこの助成金を利用できる点は少し不便である。一年に数回受けることが出来れば有り難い。