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国内学生派遣関連事業 研究成果レポート

早川 誠二(メディア社会文化専攻)

1.事業実施の目的

魅力的ユーザビリティを持つ商品の開発プロセスにおいて、従来の人間中心設計プロセスとの相違や促進(阻害)要因を明らかにすることにより、企業の商品開発の中でどのようにすれば魅力的なユーザビリティを高められるのかを把握するための調査

2.実施場所

①A社(株)本社事業場
②B社(株)NK製作所

3.実施期日

平成21年10月29日(木) ①午前 ②午後

4.成果報告

●事業の概要

①A社 「ノートPC」
1.
日時:平成21年10月29日(木)午前10時~11時30分
2.
場所:A社本社事業所
3.
面会者(所属):S氏(ITプロダクツ事業部)・T氏(デザインカンパニー)・G氏(市場開発グループ)
4.
インタビュワー:総合研究大学院大学 早川誠二
5.
調査内容:事業の目的を果たすために、人間中心設計プロセス(ISO13407)を意識し、以下の内容に沿って半構造化インタビューを実施した。

【インタビューシナリオ】

1.
着想、戦略に関して
1)そもそもこの製品の開発のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
(いつ頃、誰が、どのような形でアイデアを提起されたのか、当時の課題は何だったのか)
2)開発当初に掲げられた目標などがございましたら、教えていただけますか。
(従来にない、新たな開発プロセスを取り入れようとしたのか)
2.
ユーザー像に関して
1)ノートPCのターゲットとなるお客様像をどのように設定されましたか(描かれましたか)
2)ターゲットとなるお客様の要望をどのように把握されたのですか。
3.
企画プロセスに関して
1)御社のノートPCは、堅牢や長時間使用可能のような特長を持っており、多くのお客様に受け入れられていると伺っていますが、島田さまから見たときに、ノートPCの特長や使い勝手、便利な機能はどのようなものだとお考えですか
2)商品企画のステップで掲げられた、ノートPCのコンセプトとはどのようなものでしたか。
3)商品企画のステップでは、使い勝手(ユーザビリティ)や便利な機能についてどのような方法で企画されたのですか。最終的に、決裁されたのは、どちらの部門の方ですか。
4)(先行商品がある場合)他社にも同じような製品がありましたが、どのような点で差別化を考えられていましたか。
5)開発にあたっては、さまざまな部門の方々が携わったと思いますが、核となった部門の方はどなたですか。ユーザビリティ専門家は参加されましたか。
(特別なチームを組むような取り組みをしたのか、チームのリーダーシップはどちらの部門の方がとったのか、誰によって提起されたアイデアが支援され拡張されたのか
4.
設計・評価のプロセスに関して
1)設計を進めて行く中で、プロトタイプや試作機を作成され、ターゲットとなるお客様などに実際の使い勝手などを評価していただくことはされましたか。
(繰り返し設計・評価のプロセスはあったのか)
2)開発のプロセスの中で、活用されたガイドラインなどはありますか。
3)開発のプロセスの中で、ユーザビリティ専門家の果たした役割は、どのようなものでしたか。
5.
販売・サービスプロセス
1)実際の販売にあたり、お客様にノートPCの持つ利便性を伝えるために、何か工夫されたことはありますか。
(カタログ、セールスマニュアル、販促策など)
2)販売後のお客様のノートPCに対する満足度やご要望は、どのような方法で把握されましたか。
実際のお客様の反応はどのようなものでしたか。
(顧客満足度調査の実施方法、長期のモニタリングの実施なども含める)
6.
阻害要因、促進要因に関して
1)ノートPCの開発全体を通して、一番の阻害要因は何でしたか。それはどのように克服されましたか。
2)(逆に)ノートPCの開発にあたっての、何か特別な促進要因はありましたか。その結果はどのようなものでしたか。
7.
売り上げ、シェア
1)最後に、差し支えない範囲でけっこうですが、ノートPCの売り上げ規模、この製品分野におけるシェアを教えていただけますか。
2)(従来商品がある場合)ノートPCは、御社の従来商品に比べて、売り上げ規模やシェアにどのような変化がありましたか。
(今後の計画に関しても、差し支えなければ伺う)
以上

②B社 「温風ドライヤー」
1.
日時:平成21年10月29日(木)午後3時~5時
2.
場所:B社(株)NK製作所
3.
面会者(所属):H氏(製造管理部)・N氏(業務用換気送風機製造部)
4.
インタビュワー:総合研究大学院大学 早川誠二
5.
調査内容:事業の目的を果たすために、人間中心設計プロセス(ISO13407)を意識し、以下の内容に沿って半構造化インタビューを実施した。

【インタビューシナリオ】
上記、A社(株)と同様なので省略する

●本事業の実施によって得られた成果

①A社「ノートPC」 以下に示す内容を把握することができた
1.
着想、戦略に関して
・初代ノートPCは1996年
・事業部トップのリーダーシップのもとで、発想を大きく変えた ターゲットユーザーをモバイルに絞り込み、ユーザーの要求のトップ3の要求にこだわった 7番目、8番目の要求は無視
・①長時間 ②軽量 ③頑丈さ
・A社のPCの見た目のアイデンティティ追求 「ノートPCのBMW」
2.
ユーザー像に関して
・ノートPCをいつでもどこでも使うモバイルユーザー
・自分たちがユーザーの立場を検証
・頑丈さ 当時満員電車で液晶が割れてしまうというユーザーの声があった
3.
企画プロセスに関して
・軽量、長時間駆動、堅牢
・丸形のホイールパッド 四角形は使いにくい、実際には真ん中しか使っていない、スクロールが無限にできる A社のPCの見た目のアイデンティティ追求
・担当デザイナーが初めてPCをデザインするので先入観がなかった
・事業戦略の3要素は、ターゲットユーザーを明確にする(モバイラー)、ユーザーのこだわり上位3項目にこだわる、ユーザーとの徹底したミーティング、ヒヤリング
・A社が持つ現場、現物、現人主義の徹底
・取っ手のついているシリーズでは、人体寸法も参考にしたが、必ずサンプルを作り評価した
・プロジェクトの全員が商品企画でアイデアを出す
・年に1,2回ユーザーとの対話を狙いにしたカンファレンス開催 関連部門だけでなく経理も人事もゆく ユーザーの声を徹底的に聞く場
・ユーザーに接している時間は他社に負けない
・医療現場用のPCは、アルコールで30分も拭く →徹底して凹凸のない形状にした、アルコールに強い外装材料も開発した
・ユーザビリティ専門家部隊にはユーザビリティ調査などデザインから依頼したが、プロジェクトには直接参加していない
・キーボードの入力の使いやすさはデザイナー自身が責任を持っている
・核となったのは技術部門、設計部隊 技術からのいろいろなアイデアをプロジェクトメンバーで練り上げた 決裁者はプロジェクトリーダー
4.
設計・評価のプロセスに関して
・ユーザー訪問は毎月1000社
・年10回以上ユーザーに集まってもらってユーザーカンファレンス開催
・グループインタビューでプロトタイプの評価を行った(医療用ノートPC)
・CSパトロールといって、品質保証、サービス部門が年数回ユーザー訪問
・月1回の関連部門によるレビュー会議開催
5.
販売・サービスプロセス
・960グラムという軽さをユーザーのどのように伝えるか 持ってもらった時の感触 →各店頭に同じ重さを実現したモックを置いてもらって、ユーザーに持ってもらった
・長時間駆動は、カタログ訴求のみ
・ユーザーの要望は常に収集
・ユーザーとの対話は上記参照
6.
阻害要因、促進要因に関して
・軽量化が一番の課題
・表面積を小さくする、厚味を薄くする、素材を軽くする
・バッテリーは自社開発していたので、体積(重量)あたりの容量が最高で、最先端の効率のよいものを使えた
・メンバーの信念、自信 ユーザーを誰よりもよく知っているという
・流行を追っていない ユーザーの声を確実に形にしている
7.
売り上げ、シェア
・モバイルPCでのシェアトップ28%
・ぱっとみてノートPCとわかるデザイン ボンネット構造

②B社「温風ドライヤー」以下に示す内容を把握することができた。
1.
着想、戦略に関して
・第1号機は93年1月発売
・そもそもNK製作所はDCブラシレスモーターを使ったデバイス開発をしていた FDDなど
・モーターと空気(羽)の技術を組み合わせて高圧ブロアーを作った 何とか商品に応用できないかとハンドドライヤーなどいろいろと設計陣が考えた
・当時温風ドライヤーはあったが使いにくい 乾くのに数十秒かかる
・開発リーダー:設計者として、世の中にない(使い方すらわからない)商品を出すのは面白かった
・短時間乾燥を基本コンセプトにしたハンドドライヤー開発に取り組む 目標乾燥時間5秒以内
・設置者と利用者の両方のニーズを満足させる製品開発が目標
・送風機は開発していたが、温風ドライヤーは初めての経験
2.
ユーザー像に関して
・設置者と利用者
・お客様に快適で、設置者にコストダウン(紙、ハンドタオル、従来温風ドライヤーに比べ)
・営業が調査
・新しい形態の受容性が当初わからなかった
・プロトタイプを持ち込んで利用者に社内外でグループインタビューを実施した
3.
企画プロセスに関して
・スピード乾燥、非接触乾燥→衛生的
・専門の企画部門はない
・営業と設計が事業として企画する仕組み
・設計の案に対し、最終的に決済をしたのは製作所長
・他社も96年ころから参入してきた
・他社は片側送風タイプ 両面送風はB社だけだった
・通常の開発と同じチーム編成
・現在はデザイン研究所の専門家も関わっているが、当時は設計がデザインに連絡を取りながら、デザイナーが来て外観デザインを中心に関わった
・現在は、ユニバーサルデザインチェックで点数化する仕組みがある
・開発の核になったのは設計と営業
4.
設計・評価のプロセスに関して
・社内評価は機能試作機ができた時点で、ユーザーに近い人たちに評価してもらった
・設計の中では、直接関わらない人たちに適宜評価してもらった
・社外で試作機を使ったグループインタビューを行った 社内評価の対策後
タイミングは最終デザインの前で、新しい使い方が認知できるか、浸透できるのかを把握するため
・いかに認知させるかということで、本体に説明シールを貼った 壁張りのマニュアルも作った(社内評価の結果反映)
・設置高さの基準は活用した
推奨は大人の使用寸法 子供にすると使いにくい
・ただ、車いすなどの障がい者の方には使いにくいので、ユニバーサルデザインの視点から最近新しい温風ドライヤーを出した
・車いすでの使用の時に、濡れた手で車いすを回すことへの抵抗など問題になったが、それを解決するために開発された
5.
販売・サービスプロセス
・選任部隊を作った 販売ルートが当初なかったので
・デモ機を持って営業、設計者が片っ端から全国を回った
・現在も継続しているが、NK製作所では設計担当が自分の設計した商品を自分で売ってくる研修が必須になっている

●本事業について

 学生支援事業としては、とても有効だと考えるので、今後とも継続していただきたい。