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国内学生派遣関連事業 研究成果レポート

早川 誠二(メディア社会文化専攻)

1.事業実施の目的

魅力的ユーザビリティを持つ商品の開発プロセスにおいて、従来の人間中心設計プロセスとの相違や促進(阻害)要因を明らかにすることにより、企業の商品開発の中でどのようにすれば魅力的なユーザビリティを高められるのかを把握するための調査

2.実施場所

A社 本社

3.実施期日

平成21年11月24日(火)

4.成果報告

●事業の概要

1.
平成21年11月24日(火)午後3時40分~5時20分
2.
A社本社
3.
面会者(所属):K氏(事業推進部開発グループ)、I氏(事業推進部商品企画)
4.
インタビュワー:総合研究大学院大学 早川誠二
5.
調査内容:事業の目的を果たすために、人間中心設計プロセス(ISO13407)を意識し、以下の内容に沿って半構造化インタビューを実施した。

【インタビューシナリオ】

1.
着想、戦略に関して
1)そもそもこの製品の開発のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
(いつ頃、誰が、どのような形でアイデアを提起されたのか、当時の課題は何だったのか)
2)開発当初に掲げられた目標などがございましたら、教えていただけますか。
2.
ユーザー像に関して
1)電動アシスト自転車のターゲットとなるお客様像をどのように設定されましたか
2)ターゲットとなるお客様の要望をどのように把握されたのですか。
3.
企画プロセスに関して
1)御社の電動アシスト自転車は、自然なアシスト機能のような特長を持っており、多くのお客様に受け入れられていると伺っていますが、御社から見たときに、電動アシスト自転車の特長や使い勝手、便利な機能はどのようなものだとお考えですか
2)商品企画のステップで掲げられた、コンセプトとはどのようなものでしたか。
3)商品企画のステップでは、見やすい表示のような使い勝手(ユーザビリティ)や長時間使用可能のような便利な機能についてどのような方法で企画されたのですか。最終的に、決裁されたのは、どちらの部門の方ですか。
4)(先行商品がある場合)他社にも同じような製品がありましたが、どのような点で差別化を考えられていましたか。
5)開発にあたっては、さまざまな部門の方々が携わったと思いますが、核となった部門の方はどなたですか。ユーザビリティ専門家は参加されましたか。
(特別なチームを組むような取り組みをしたのか、チームのリーダーシップはどちらの部門の方がとったのか、誰によって提起されたアイデアが支援され拡張されたのか
4.
設計・評価のプロセスに関して
1)設計を進めて行く中で、プロトタイプや試作機を作成され、ターゲットとなるお客様などに実際の使い勝手などを評価していただくことはされましたか。
2)開発のプロセスの中で、活用されたガイドラインなどはありますか。
3)開発のプロセスの中で、ユーザビリティ専門家の果たした役割は、どのようなものでしたか。
5.
販売・サービスプロセス
1)実際の販売にあたり、お客様に電動アシスト自転車の持つ利便性を伝えるために、何か工夫されたことはありますか。
2)販売後のお客様の電動アシスト自転車に対する満足度やご要望は、どのような方法で把握されましたか。実際のお客様の反応はどのようなものでしたか。
6.
阻害要因、促進要因に関して
1)電動アシスト自転車の開発全体を通して、一番の阻害要因は何でしたか。それはどのように克服されましたか。
2)(逆に)電動アシスト自転車の開発にあたっての、何か特別な促進要因はありましたか。その結果はどのようなものでしたか。
7.
売り上げ、シェア
1)最後に、差し支えない範囲でけっこうですが、電動アシスト自転車の売り上げ規模、この製品分野におけるシェアを教えていただけますか。
2)(従来商品がある場合)電動アシスト自転車は、御社の従来商品に比べて、売り上げ規模やシェアにどのような変化がありましたか。
以上

●本事業の実施によって得られた成果

1.
着想、戦略に関して
1)そもそもこの製品の開発のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
(いつ頃、誰が、どのような形でアイデアを提起されたのか、当時の課題は何だったのか)
1980年代後半国内のスクーター市場が減少してきた
道路交通法でヘルメット着用の規制が始まってから、若者がヘルメットを嫌って乗らなくなった
研究所で、スクーターに代わるヘルメットレスで気軽に乗れるコミューター研究始まる
当初はエンジン付きで検討し何度も試作したが、なかなかうまくできない →研究中止なる
その後も細々と研究は続けていた
1980年代後半、ある研究者が電動モーターを付けた自転車を開発 ペダルと一緒にモーターの出力を制御する方式
試作はできたが、道路交通法の壁があり、ヘルメット着用が義務であった 自転車として認可されなかった その後、試作をしては役所へのロビー活動を繰り返した
自転車として認可されるように、いろいろ技術的に工夫した →当時の国土交通省が認可の方向出したので、91年から研究所のプロジェクトを作り本格的に開発をスタートさせた
製品発表会(技術発表)を93年7月に行った →評判は良かった 事実上それまでモーター付き自転車は世の中になかった(10年前にあったが話題にならなかった)
93年11月、横浜、静岡、広島の3都市でテスト販売を行った
当時自転車は4,5万円 電動アシスト自転車は15万円した
重量も31㌔あった(自転車20㌔以下)
限定1000台でスタートしたが、けっこう男性高齢者(全体の80%)に売れたので、3000台追加生産した
94年4月から全国販売に踏み切った
(当時の課題)
重量
・軽量化は電池と車体 電池は93年鉛、97年ニッカド、04年リチウム 車体は03年からアルミ合金
長距離走行(電動アシスト時間)
価格
2)開発当初に掲げられた目標などがございましたら、教えていただけますか。
スクーターに代わるヘルメットレスで気軽に乗れるコミューター
徒歩、自転車、スクーター、バイク、自動車とあるが、自転車とスクーターの間のギャップが大きいのでそこを埋めるコミューター 自転車の延長にこだわった
開発プロセス的には特に新たなことはない
重量を目標24㌔に設定した 当時の自転車17㌔+バッテリー、パワーユニットで7㌔ →結果技術的にできず31㌔になった
その後、28㌔にするのに4年かかった 現在一番軽い商品は20.1㌔ 重い業務用で31㌔
2.
ユーザー像に関して
1)電動アシスト自転車のターゲットとなるお客様像をどのように設定されましたか
第1号機は、誰に乗ってもらうのかはよくわかっていなかったので、ユーザーを広く考えて誰が乗るのか不明のまま発売
富裕層の高齢者から電話での問い合わせ、注文は結構あった
→結果は、富裕層高齢者が中心
2)ターゲットとなるお客様の要望をどのように把握されたのですか。
第1号機は、シーズ志向
高齢者だけでなく、子育て世代(母親)にも売りたいとは思っていた → 調査をしたが発売当時は価格が高すぎるとの反応あった
それ以降は、販売店ヒヤリング、試乗会でのユーザーヒヤリング、購入者カードによる調査、定期的なユーザーアンケート調査
3.
企画プロセスに関して
1)御社の商品は、軽量や短い充電時間のような特長を持っており、多くのお客様に受け入れられていると伺っていますが、御社から見たときに、電動アシスト自転車の特長や使い勝手、便利な機能はどのようなものだとお考えですか
人のペダルをこぐ力に合わせたスムーズな電動アシスト
2)商品企画ステップで掲げられた、電動アシスト自転車のコンセプトとはどのようなものでしたか。
スクーターに代わる気軽に乗れるコミューター
3)商品企画のステップでは、自然なアシスト機能のような使い勝手(ユーザビリティ)や短時間充電のような便利な機能についてどのような方法で企画されたのですか。最終的に、決裁されたのは、どちらの部門の方ですか。
本格的な商品企画は97年発売の商品から
高齢者だけだと販売に限界がある、主婦にも乗ってもらいたいことから、調査をして方向性を探った →価格弾力性が一番 10万円を切ることがポイント 定価を99800円にした
この商品シリーズから、攻めの市場開拓をした
1年からのシリーズ商品は、さらに低価格化 69800円の商品 →調査で7万円を切ればさらに売れることがわかっていた
発売当初は、鉛のバッテリーで重いし、容量が少なかった、満充電に8時間かかった →リチウムイオン電池になって容量対重量が飛躍的に向上した、充電も急速で2時間、大容量タイプでも4時間ですむ 結果車体も軽くなり、コストも安くなった
男性向けの商品07年発売 それまで女性が8割
数年前から通勤、レジャーに若年男性が電動アシスト自転車に関心を寄せていた
06年に小型のスポーティー車を発売していたが。これを踏まえて企画した
若年男性にインタビュー、アンケート調査を実施
・客層がどんどん広がっているのが現状 買い物、通勤、通学、 3,4年で市場の情報変わる
まだまだこれからお客様の使い方変わるはず →ユーザー要求も変わる
近距離使用から遠距離使用に 家庭用から業務用に 用途によって求められるモノ異なる
(ギア比ひとつとっても、用途や地域性に合わせる必要がある)
人の体に合わせるが一つで共用できない ユーザー要望に応えると多機種展開せざるを得ない
 →現在17シリーズある 用途別、オールラウンド、小径車(自宅へ持ち込む)
最終決済は事業部長
4)(先行商品がある場合)他社にも同じような製品がありましたが、どのような点で差別化を考えられていましたか。
94年にH社から電動アシスト自転車が発売された
その後各社が参入 一時20社近くあった
スムーズな乗り心地 他社に負けない自信がある ドライブユニットを自作している
他社との乗り比べしてもらい、アシストパワーの自然さを体感してもらった
最近は、普及期にさしかかっているので差別化が難しい
5)開発にあたっては、さまざまな部門の方々が携わったと思いますが、核となった部門の方はどなたですか。ユーザビリティ専門家は参加されましたか。
初期は研究部門
97年から商品企画が主導 95年に事業推進部できた
3大課題(重量、長距離走行、価格)の解決は、開発部門が主管
4.
設計・評価のプロセスに関して
1)設計を進めて行く中で、プロトタイプや試作機を作成され、ターゲットとなるお客様などに実際の使い勝手などを評価していただくことはされましたか。
電動アシスト機能は、モーターのトルクで各社各様になっているが、パスはスムーズな制御にこだわった 乗り心地に直結する 官能評価を繰り返した 技術者に定性的なものを定量的な数値に置き換えるプロがいた
2)開発のプロセスの中で、活用されたガイドラインなどはありますか。
初期はほとんど無かった →オートバイ、自転車の基準を使用 使用環境は自転車の少し上を狙った
最近独自の開発基準を持っている ユーザビリティに関するガイドラインはない
3)開発のプロセスの中で、ユーザビリティ専門家の果たした役割は、どのようなものでしたか。
ユーザビリティ専門家はいない 使い勝手の企画は商品企画が担当
商品企画担当は2人しかいない 国内モデル全機種担当している
全体が理解できるメリットある
市場導入の時は販売店に行く、試乗会にも良く行く
5.
販売・サービスプロセス
1)実際の販売にあたり、お客様に商品の持つ利便性を伝えるために、何か工夫されたことはありますか。
今までにない商品なので、
販売店に機能認知、乗り方指導を徹底し、専門店を増やした
いくら口で説明してもダメ とにかく試乗会で乗ってもらい体感してもらう(特に初期のころ)
試乗会は今でも重要 乗車経験率10% まだ90%の人が乗っていない
マスコミ相手に試乗会よくやる 毎回半分以上の人が初めての経験
2)販売後のお客様の満足度やご要望は、どのような方法で把握されましたか。
実際のお客様の反応はどのようなものでしたか。
その年のモデルは必ず顧客満足度調査を行う
定期的な調査で推移をみている
スポットな調査はターゲットユーザーを集めて意見を聞く
試乗会を大切にしている
想定外のクレームがきたときなど、現場に行って一緒に走ってみる
6.
阻害要因、促進要因に関して
1)開発全体を通して、一番の阻害要因は何でしたか。それはどのように克服されましたか。
阻害要因は「ユーザーの認知率」 どんなモノなのか、その良さは乗ってみないとわからない
商品名称の認知率は90%あるが機能が認知されていない
2)(逆に)開発にあたっての、何か特別な促進要因はありましたか。その結果はどのようなものでしたか。
いろいろな人に乗ってみて喜んでもらえることの実感 特に高齢者
高齢者が坂道で、若者の自転車を追い抜いてゆく優越感、爽快感ある
実際の購入者の満足度はとても高い 「助かる、便利」というユーザーの反応多い 特にここ数年
実用一辺倒ではない 最近の健康志向の道具として売れている
開発者がユーザーのインタビューに行く、クレーム対応で市場に出る
→モチベーションがアップする
クレームの生の声は解決できれば商品性を高められる マイナスをプラスにする発想
7.
売り上げ、シェア
1)最後に、差し支えない範囲でけっこうですが、売り上げ規模、この製品分野におけるシェアを教えていただけますか。
シェア 1位E社 2位B社 3位C社 4位D社 上位4社で市場シェアの95%
ドライブユニットシェア 45%でトップ

●本事業について

 学生支援事業としては、とても有効だと考えるので、今後とも継続していただきたい。