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海外学生派遣関連事業 研究成果レポート

石原朗子(メディア社会文化専攻)

1.事業実施の目的

ED-MEDIA2009(国際学会)発表・参加

2.実施場所

ホノルル(ハワイ)

3.実施期日

平成21年6月21日(日)から6月28日(日)

4.成果報告

●事業の概要

研究科選定国際会議であるED-MEDIA2009に参加した。内容は、自身のポスター発表、2つのチュートリアル・ワークショップへの参加、キーノート講演・各口頭発表の聴講である。

 自身のポスター発表については、学会発表の欄に示すが、あまり得意でないポスター発表ということで、ポスターの作成・作り直しに1カ月かかったが、その成果もあり、聴衆も1対1対応ながら、20名近くと多く、写真を撮っていかれた方もいた。この経験は、非常に自信になった。

 次に、学びとして最も役に立ったのは、チュートリアル・ワークショップである。その内容は、1つは「eラーニングの評価」、もう1つは「インストラクショナルデザインをよりよくするには、実践のためのコツは」という内容だった。いずれも博士論文には直接関係があると言いきれるものではなかったが、将来の勉強のために、また国際学会のワークショップの雰囲気を知るために参加した。

 この効果は予想以上だった。ディスカッションでは自身の英語力の不足から十分な議論ができなった面も多々あり、今後の課題を感じたが、学び・考え・作り上げるという点で、また世界的な議論の様相を知ることができたことは大変有意義であった。また、高等教育・人材育成教育でのコンピテンシーベースの学習への学習観への変化の実態を豊富な資料をいただき、それについて解説を受けたこと、その分からない点を聞けたことは、博士論文での自分のテーマで、かつ現在進行形である「専門職大学院と大学院修士課程の教育の違い」の「能力観」の部分にそのまま役に立ちそうな内容であった。

 また、参加した口頭発表セッションでは、特に、教育実践の評価の部分の発表をされた方々の評価の仕方が勉強になった。中には、自分と関連性の低いものも少なくなく、かつ英語力の問題から理解が難しいものもあったが、総じて自分の置かれた状況と、課題把握に役に立ったと思われる。

意外だったのは、ワークショップには日本人はほとんど参加しないことである。自身で発表し、個別の各論の発表を聞くことも大切だが、キーノート講演といった全体講演以上にワークショップなどの参加型セッションは勉強になるもので、日本人も積極的に参加すべきだと思う。

 これに関しては、本派遣制度について要望がある。日本人がワークショップに参加しない理由には、「1.語学力」「2.重要性の認識の低さ」「3.費用」の問題があると思われる。今回、私は、せっかく参加するのだから、多くの体験をしたいと思いワークショップへ自費参加したが、こうした学習機会をより活用しやすくするために、参加費等のみならず、研究科で有用と認められる学会内の有料セッション等への支援もして頂きたい。

●学会発表について

 今回の学会では、”Education for IT Professionals in Professional Schools and Master’s Program; A Comparative Study in Japan”(日本の高度IT人材における専門職大学院と大学院修士課程との比較研究)と題したポスター発表を行った。研究の内容は、IT系の2つのタイプの大学院-専門職大学院と大学院修士課程-の教育の特徴がどのように違うのか、どの点が類似しているのかを教える側に着目して比較するという内容である。

そこで、ポスター発表であること、研究の集大成よりは途中経過で意見を聞くことなども目的としていることから、ポスターでは、日本の状況の紹介、比較分析の結果、今後の課題を中心に紹介した。

まず、背景となる日本の状況の紹介では、

(1)
IT人材の不足、特に若く高度なスキルを持った人材の不足。
(2)
IT人材不足の理由として、1990年代までは大学院修士課程しかなく、研究の独自性が追求され、実践的な技術の教育が必ずしも十分でなかったこと。それに対して、2000年代に入り、高度専門職業人養成のための専門職大学院制度が誕生し、IT分野での大学院教育も実践性を重視するようになってきていること。

という2点を紹介した。そして、この専門職大学院と大学院修士課程の比較を文献資料や各学校の資料等から行った結果を発表した。対象校としては、専門職大学院はその主流ともいえるITとビジネスに重きを置く大学院を、大学院修士課程としては2006年度に文部科学省の「先導的ITプログラム実践プロジェクト」として選定された大学院を対象とし、各学校の教育の特色を調べた結果を、大学院タイプ別に紹介した。

結果の概要は

(1)
専門職大学院は、教員に実務家教員(ビジネス経験者)が多く、彼らの存在が、ITやビジネススキルを効果的に教えることを可能としている。つまり、教員が重要なファクターである。
(2)
大学院修士課程(特に先導的な大学院)は、教員の多くは研究者であり、産業界との連携により教育体制を築くことで、実践的な教育を行うことが可能となっている。つまり、産学連携(産学官連携)が重要なファクターである。
(3)
ただし、類似点として、どちらのタイプも産業界のニーズに応えるべく、実践的な教育方法を積極的に導入している。

という3点を示した。特に、上記2点については図で比較しながら示した。

 また、今後の課題として、インタビューやアンケートを通じて、現状での結果について、詳細に勝実証的に示していきたいとして締めくくった。

 この発表に対して聞かれた意見は、一番強調したい専門職大学院と大学院修士課程の違いの部分に集中した。ただし、質問の多くは、「どちらの大学院が優れているのか」「あなただったらどちらを勧めるか」といった表面的な質問も多かった。これに対しては、大学院の設置目的が異なるので一概に言えないが、それぞれの大学院に入ってくる学生の背景も違うため、学生のタイプによって勧めるだろう大学院は異なること。現状では修士課程が多く知名度も高いが、専門職大学院は、専門職や高度な専門家養成に特化して作られたものであるから、今後、こちらのタイプの発展も望まれることを伝えた。その上で、現在、詳細な調査を行っている最中であり、自分にとって結論を明言できるには、まだしばらくかかると伝えた。

 中には、自国の状況を説明してくださった方もおり、また日本の人材流出の恐れとそれを防ぐための方略についての意見をくださった方もおり、情報交換の点でも有用なディスカッションができたと思う。

●本事業の実施によって得られた成果

 本発表は、自身の研究のうち、昨年度までの成果についての発表である。よって、研究進捗上の問題で、提出論文に博士論文での核となるような結果や、重要かつ深い考察が含められなかったことは反省材料である。ただし、本事業での発表では、現在、進行中の調査などの知見も交えてディスカッションをすることができた。これはポスター発表の柔軟性のなせる業であり、聴衆が自分の発表を聞いてどこを疑問に思うのかをつかむこともできた。聴衆の質問は意見よりも「専門職大学院と大学院修士課程のどちらがいいと思うか」的な主観的内容が多かった。これは聴衆が興味を持ってくださったと同時に、私の研究が「専門職大学院と大学院修士課程のどっちがいいかを考える研究」と映っているということが理解された。私の研究の現時点での狙いは、なぜ違う目的で作られた2つのタイプの大学院がIT分野においては、同様の実践をしているのか、同様の実践の中での違いは何なのかを明らかにすることによって、専門職大学院という新しい制度の意味を問い直し、同時にIT分野の大学院教育の変化の意味、今後の展望を行うことである。よって、こうした意図が理解されるには、いくつかのことが必要であるということに気づいた。

(1)
IT教育の実践者あるいは教育工学などの教育実践方法の研究者にも意図が理解されるような、論理的な背景の説明
(2)
本研究の中核となる理論や根拠、学問への依拠の説明とそこから導かれる研究方法と内容の理解を促す工夫
(3)
外部に伝わるような研究の意義の明確化
(4)
自分のフィールドでの学会発表

である。(1)と(2)は自分に欠けている部分という自覚があったが、高等教育以外の工学系など、つまり違う学問分野の人にも研究の核と主張がより見えるようにするには、今後、調査を行っていくことも事実であるが、さらにレビューを重ねていく必要があると再認識した。この反省に立って、(3)の課題を克服したい。

 さらには、(4)については、今回は自分の依拠する学問(教育社会学・高等教育論)とは別の分野での発表(情報学・教育工学・コンピュータを用いた実践教育の発表)の場であったため、今後、自分のフィールドにあった国際学会でも発表を行ってみたいと感じた。

 ただし、メディア社会文化専攻は学際研究の場であり、総研大自体が広い学問領域の上に成り立っている。自身の研究も文科系(社会科学系)技法で、理工系高等教育を分析する試みでもあるので、そういった点で、学際的にも通用する博士論文とする必要を感じられた点で、本学会発表は役に立った。

●本事業について

 本制度は、学生が積極的に調査研究とその発表を行う機会として非常にありがたい制度だと思っています。毎年、利用させていただくとともに、その成果の発表機会(フォーラム)があることは素晴らしいと思います。フォーラムでは多領域の発表内容・技法についても学ぶことができ、大変貴重な機会です。

 ただ、今回感じたこととして、別の部分にも書きましたが、派遣事業は「あくまで派遣」の部分に焦点が当てられており、そこでの費用のかかる学びなど(ワークショップ参加)についての柔軟性がさらに増すことを願っています。これらの改善により、学生のさらなる深い学びが実践されることを願ってやみません。


 今後も調査、(国内外)発表での支援をよろしくお願いいたします。