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国内学生派遣関連事業 研究成果レポート

小林 秀明(メディア社会文化専攻)

1.事業実施の目的

2.実施場所

3.実施期日

平成21年12月16日(水)から12月18日(金)

4.成果報告

●事業の概要

 初日は、第1回目の多感覚研究会へ参加した。チュートリアル講演は2講演行われた。1つ目のバーチャルリアリティ(VR)における多感覚研究についての講演では、視覚、聴覚、触覚、前庭感覚、味覚、臭覚、固有受容感覚などの基礎研究について話があった。これまでVRの研究においては、知覚心理や感覚生理学の領域で行われてきたが、近年のVR研究においてもやや独自性の進展みられる。多感覚を統合した研究の紹介は、視覚のみの研究からでは生み出せないアイディアを得た。視覚と聴覚は良く知られているように、視覚からの情報が圧倒的に聴覚を上回る。しかし、統合を考えるとき、聴覚は視覚の補助になり、さらに触覚も加わる事からより正確な知覚へとつながる。近年では、触覚の研究も数多くなされ、マルチモーダル統合への動きは盛んになっているように感じた。2つ目の講演では、データフロープログラミングについてであった。従来のプログラミング環境と違い、インタフェースのユーザビリティ、ビジュアルプログラミング、インタラクションが主になってきていると理解した。デモを行い、視覚的に分かりやすいプログラミングであると感じた。その他、ポスターセッションでは、いくつかの研究の説明を聞いた。視覚と聴覚に関しての研究では視覚刺激と聴覚刺激のズレが視覚刺激の印象形成に及ぼす影響の説明を聞いた。呈示画像の切り替えと音の関係を実験していたが、呈示画像の種類や色などの検討はまだ曖昧であると感じた。2Dでの心理的奥行き空間に対象物を置く画像であるが、奥行きがあるか無いかで差があるか無いかも曖昧であった。また、画像の色に関して説明が少なかった。次に実物模型のメンタルローテーションの研究の説明を聞いた。実物を使用すると、かなり実験は困難となる。CG等で実物を正確に表現するのも困難であるため、実験の手間はかかるが実物で行う方が良い。3D空間において、X、Y、Z方向へそれぞれ回転させるのだが、奥方向へ回転するX軸回転は、判定が鈍いという。Y軸とZ軸は普段から眼にする回転系であり、慣れもあるのだろうか。X軸回転系においても、ある程度訓練することでY軸・Z軸系と同じような結果を出せる可能性も否定できないと思う。奥行き知覚を周辺視野で行う場合の限界範囲及び感度を測定した研究では、偏心度20度以内における周辺視野を対象とし、両眼視差手がかりでどの程度の奥行き知覚・大きさ知覚がなされるかを検討していた。偏心度0度から5度では全ての条件で一定の奥行き知覚がなされたが、視差40分を超えると交差・非交差視差条件いずれも偏心度15度を、全ての非交差視差では10度から奥行きが減少しはじめた。大きさに関しては偏心度が高くなるにつれ大きさの変化は減少し、偏心度が20度では有意な差がみられなくなる。奥行き感度は周辺視野でも中心視野と同程度維持されるが、大きさ知覚は同様に維持されないと分かり、私の研究である奥行き知覚に活かせる研究報告であった。

●学会発表について

 今回の発表テーマは、マルチモーダル,感性情報処理であった。私の発表内容は、立体視に関する内容であり、博士論文のテーマである。今回発表した研究は、立体視時に対象物を呈示する奥行き位置の検討をした内容である。本研究の目的は、観察者が好ましいと思う立体視画像の奥行き呈示位置を算出することである.我々は、本実験を行うために3 種類の立体視ディスプレイを用意し、観察者の好む奥行き呈示位置を一対比較法で調べた。その結果、観察者が同一コンテンツを観察した場合における各ディスプレイの快適な奥行き呈示位置の算出ができた。個人差はあるものの,好ましい奥行き呈示位置が存在することが示唆された.まず、立体視させる対象物は、ディスプレイ画面位置では2D 呈示となり、立体視としては意味がない呈示位置である。立体視の特徴は、人間の左右の眼にそれぞれ外界の情報が写しだされるが、瞳孔間距離が6cm から7cm 程度あるため、外界の映像にズレが生じる。それが両眼視差であるが、その視差があるから人間の眼は対象物の奥行きを感じることができる。この原理を応用して、近年では盛んに立体視ディスプレイの開発が行われ、一般家庭で購入できるほどの機器となった。呈示装置の開発や販売はおこなわれているが、技術系の研究では、画面の見易さや低コストなどに目が向けられる。一方、それらの呈示装置を利用する側は、立体視コンテンツの充実が望まれている。しかし、立体視コンテンツにおいては、まだまだ制作に関する目安などがはっきりとしていないのが現状であり、制作は現場の経験値に頼るところが多い。そこで本研究において、立体視時の最適奥行き呈示位置の検討を行い、立体視コンテンツ制作の有効な知見となる事を目的とし、発表に望んだ。得られたコメントとしては、実験で使用している呈示物を変更して行うと、どのような結果となるか、という質問であった。呈示物の検討は、私も以前から検討していた。本実験は心理的要因を極力排除した設定であり、両眼視差のよる呈示物までの奥行きの好みの測定である。したがって、心理的要因を含む呈示物は、その心理要因の検討も含めて行う必要がでてくる。そのため、なかなか解が得られないことになり、立体視コンテンツ制作の指標の土台とすることが困難となってしまう。その他のコメントでは、視差勾配についての質問もあり、検討事項の一つとして考える事も視野に入れたいと、参考になった。

●本事業の実施によって得られた成果

 本事業により、実験の成果を他者に発表できる機会を得た。発表において得られたコメントなどを参考に、今後の研究活動を行うことができる。専門家やその他の視聴者の貴重な意見は、今後実験を行う上で参考とし、学術的な知見も踏まえつつ、実社会へ貢献できるような研究成果を作り上げたいと考えさせられた。博士論文執筆において、実験・研究内容を発表する機会と、そこから得られた情報などにより、研究の方向性の見直しや、追加実験等を考える事ができると思う。また、他の研究者との交流も可能であり、博士論文研究においては貴重な情報を得る場として活用できる。そのためには、本事業が必要であり、学生としては支援を受けられることによる多大な恩恵を得られる。今回は、この支援により博士論文の研究の一部を発表する事ができた。それにより多数の意見やコメントを頂いた。
 視覚の分野は、脳での視覚情報処理を経て認知される。しかし、その詳細な処理については、まだまだ未知の部分が多く、モデルを作って検証している。立体視に関しては、現実空間で立体視をしているにも関わらず、擬似的に呈示された立体視に関しては、視覚情報処理過程で現実とは違う処理がなされ、違和感がある。眼球では、網膜に映る二次元映像から再度脳で三次元を形成するのだが、それは奥行きの情報があるからである。その奥行き情報は、立体視ディスプレイによって呈示可能であり、生理的要因を用いた三次元の情報の呈示ができる。人間の持つ視覚認知能力は偉大であり、一つ一つ解決して行く研究のほかに、現実に起きている現象についての解明や事象を研究する事も重要であり、その知見を基に立体視コンテンツの有効な制作技法が確立できる可能性もある。研究の必要性を他の研究者や視聴者へ理解してもらうためにも今回のような発表の場を数多くこなし、得られたコメントから次のステップを見出す事が、本事業により実行できたことが成果であった。また、他の研究者の発表を視聴することにより、さまざまな研究環境における活動や、苦悩などを聞くことができた。研究の視点などは参考になる事も多く、意見やコメントなども大変参考になった。決められた発表時間で言いたい事を全て伝えるのは大変困難であり、そのための訓練としてこのよう発表の場は大事であると認識し、積極的な参加が望まれると感じた。
 最後に、自分の発表以外に出席した多感覚研究会は第一回目ということで、自由な発想の研究の紹介を見ることができ、今後の研究の参考にしたいと感じた。

●本事業について

 プレゼンの機会を得られた事は、視聴者へ言いたい事を時間内に伝える訓練となり、今後の研究活 動に役立ったと感じた。