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国内学生派遣関連事業 研究成果レポート

村山絵美(日本歴史研究専攻)

1.事業実施の目的

沖縄戦体験者への聞き取り調査

2.実施場所

インフォーマントの自宅・沖縄県平和祈念公園・沖縄県立図書館・沖縄県立公文書館

3.実施期日

平成21年6月10日(水)から7月7日(火)

4.成果報告

●事業の概要

本調査は、沖縄戦の記憶をテーマとする博士論文執筆のための追加調査として実施した。用務内容は、主に以下の三点が挙げられる。


①沖縄戦体験者への聞き取り調査

②資料収集(沖縄本島南部地域の戦中・戦後直後に関する写真・遺骨収集関係の公文書
 ・文献)

③慰霊祭、遺骨収集の参与観察


今回の調査で重点的に行ったものは、①戦争体験者への聞き取り調査である。インフォーマントは、以前から聞き取りを実施している5名の沖縄戦体験者である。これまでに築いてきたラポールのもと、自宅での聞き取りだけでなく彼や彼女らが戦時中に避難したルートをたどるなど、より詳細な聞き取りを行うことができた。避難ルートをたどる際は、インタビューを行うだけでなく、ビデオ撮影の許可を頂けたため、映像として記録することができた。インフォーマントである沖縄戦体験者の方々は、これまで公の場でみずからの戦争体験を語ったことがなく、彼らの言葉を記録し映像化できたことは、重要な意味を持つ。

 ②資料収集では、沖縄県立図書館、沖縄県立公文書館、沖縄県平和祈念資料館を中心に資料調査を実施した。沖縄県立図書館では、主に戦争体験者が自費出版している戦争体験記録を閲覧、複写した。沖縄戦体験者個人が自費出版でまとめている体験記録は、関東の図書館では閲覧できないものが多数ある。沖縄県立図書館には、多くの自費出版の記録が所蔵されているため、充実した資料収集を行うことができた。沖縄県立公文書館では、沖縄本島南部地域における戦中・戦後直後に関する写真資料の調査を実施した。さらに、遺骨収集及び戦死者の慰霊に関する公文書を閲覧、複写した。

 ③慰霊祭に関しては、6月23日の沖縄戦慰霊の日に、ご遺族及び戦争体験者の方と一緒に慰霊巡拝を行うことができた。慰霊巡拝の経路は、①戦争体験者の方が所属されていた部隊の慰霊碑→②沖縄県平和祈念公園の平和の礎→③平和祈念堂→④魂魄の塔である。

 また、遺骨収集ボランティアの方達とともに、何度か遺骨収集を行った。みずからも遺骨収集に参加することで、記録では分からない具体的な詳細の一端をかいまみることができた。さらに、撮影の許可を頂いて現場を映像として記録し、関係者の方々からお話をうかがった。

       

6月23日(沖縄戦慰霊の日)の魂魄の塔     遺骨収集を行った構築壕

●本事業の実施によって得られた成果

 本事業の実施によって得られた最大の成果は、戦争体験者の方々から今まで聞くことのできなかった戦中・戦後の体験を、語りだけでなく現場や資料を通してより具体的にうかがえたことである。特に、避難中のルートを一緒にたどりながら、お話をうかがえたことの成果は大きい。体験者の方が現場に赴くことで思い出される記憶も多く、これまで自宅での聞き取りではうかがえない話を数多く聞くことができた。また、私自身も現場を訪れることで、地形や場所の配置など、語りだけでは具体的に想像できなかった事柄が分かるようになり、当時の状況への理解を深めることができた。

 現場では、体験者の方はときに饒舌に、ときに寡黙になるなど語りにも変化が見られた。もちろん自宅での聞き取りの際もそのような場面に立ち会うことが多々あったが、語り手が聞き手へ気を遣って再び語り始めて下さるため、沈黙の時間はそれほど長くはない。現場で体験を語るとき、沈黙をつなぐものとして風景が存在する。体験者の方が寡黙になられたときは、二人で風景を長い時間眺めていた。その間も、断片的な言葉やつぶやきがあり、体験者の方の表情や声音には変化がある。言葉が生まれてくる背景に触れられたことは、本調査の最大の成果であり、戦争の記憶をテーマにした博士論文を執筆する上で、骨格を成す体験ともいえる。

 さらに、避難中のルートだけでなく、体験者の方々が保管されてきた手記や写真、戦後に収集された戦争関連の資料などを拝見させて頂くことができた。手記に関しては、一部譲りうけたものもあり、博士論文を執筆する上で、大変貴重な資料といえる。語りだけなく、そのほかの資料に触れることで、より詳細な戦中・戦後の状況を把握することができた。

 また、今回の調査の大きな成果として、遺骨収集に参加したことが挙げられる。報告者は、3年前より遺骨収集の取材を行ってきたが、今回初めて遺骨の身元が判明する現場に立ち会うことができた。報告者も参加していた遺骨収集で、遺骨の側から印鑑が見つかった。印鑑をもとに関係者が身元を調べたところ、遺骨の身元が判明し、遺族に連絡をとることができた。遺族はすぐに遺骨を迎えるため来沖し、戦死者縁の地を訪ねた。これら一連の経緯をリアルタイムで取材し、ご遺族の方の巡拝に同行させて頂くことができた。遺骨の身元が判明し、遺族に連絡がとれるというのは、現在の遺骨収集においてはほとんど皆無に等しい出来事である。これらの貴重な機会に立ち会い、関係者からお話をうかがうことができたのは、大きな成果といえる。今回の調査で得た成果は、博士論文の一部として執筆する予定である。

●本事業について

現地調査や遠方での学会発表を必要とする学生にとって、本事業は大変有効なものである。本事業によって、研究をより発展させることが可能となった。今後も事業を継続して頂けることを希望します。