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海外学生派遣関連事業 研究成果レポート

李 昌熙(日本歴史研究専攻)

1.事業実施の目的

韓国考古学全国大会の参加及び炭素14年代測定用試料採取

2.実施場所

全北大学校、釜山大学校博物館、蔚山文化財研究院

3.実施期日

平成21年11月4日(水)から平成21年11月11日(水)

4.成果報告

●事業の概要

1.「葛藤と戦争の考古学」という主題で開催した「第33回韓国考古学全国大会」に参加した。学会の内容は以下のとおりである。
「一日目」:主題発表
テーマ:葛藤と戦争の考古学
第1部:葛藤の考古学的証拠
①中国の殉葬 ②三国時代の殉葬 ③中国秦時代の戦争と虐殺 ④西日本弥生時代の戦争と犠牲 ⑤東莱邑城からみた壬辰倭乱 ⑥韓国戦争中の犠牲者
第2部:戦争考古学の模索
①青銅器時代の戦争 ②壁画と遺物からみた高句麗の軍士体系 ③嶺南地域の武器・武具副葬墓と被葬者の性格 ④三国時代の騎馬戦 <総合討論>
「二日目」:自由パネル発表
①古代人骨資料の復元研究(国立加耶文化財研究所)
②三国時代の土器窯復元及び土器焼成実験(土器窯復元実験研究会)
③鉄製武具類の製作技術及び復元研究(鉄文化研究会)
『炭素14年代測定用試料採集』

2.これまでのSIPと連動して、勒島遺跡の人骨や動物骨から炭素14年代測定用の試料を採取した。動物骨は弥生土器が出土した遺構や層位で共伴したシカを中心に、人骨は甕棺に埋葬されたものを採取した(釜山大学校博物館所蔵)。

3.最近、韓国蔚山地域から出土した新しい弥生土器を実見し、撮影と実測を行った(蔚山文化財研究院所蔵)。

●本事業の実施によって得られた成果

1.韓国考古学全国大会に参加し、戦争に関する考古学的な最近の議論を把握することができた。戦争の存在を想定できる根拠として取り上げる考古学的な資料についてわかる機会になった。特に現在、私の研究で扱っている西日本の弥生時代においても、関連する発表主題があり、とても有益であった。二日目のパネル発表のなか、博士論文と係わる人骨の炭素14年代測定についての発表があり、これに関する最近の韓国の研究動向を把握することができた。問題点が散在することがわかった。

2.人骨の炭素14年代は海洋リザーバー効果の影響を受け、実年代として活用することが簡単ではなかった。しかし、韓国泗川勒島遺跡の甕棺には人骨と海洋リザーバー効果の影響を受けないシカの骨が共伴し、それを通じて海洋リザーバー効果の影響がどの程度なのかがわかるようになった。これにより勒島遺跡の甕棺の人骨の炭素14年代測定を用いて実年代として活用できる土台が用意された。今回の調査では勒島遺跡の甕棺に副葬された人骨を炭素14年代測定試料として多量に採取し、今後の測定結果が期待される。勒島遺跡におけるより高精度の実年代を構築することができると考えられる。これは博士論文の重要な部分になる。

3.最近、韓国蔚山地域では弥生土器が出土する事例がますます増えている。発見された新しい弥生土器を実見し、それが全部西日本の弥生土器と同一型式であることがわかった。弥生人の製作品と判断される。なお、これらの土器は住居址で出土し、在地土器との共伴関係がわかり、併行関係がわかるよい資料として活用できる。また撮影と実測を行い、今後論文に使える資料が確保できた。当時、日本列島と韓半島との交流関係を考える上で、蔚山地域が重要な拠点地域の一つと推定される。