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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

テロン ゴーメズ アンドレア(比較文化学専攻)

1.事業実施の目的

博物館における織物―アイデンティティの形成としての所蔵品と展示

2.実施場所

グアテマラとアメリカ合衆国

3.実施期日

平成23年2月1日(火)から3月21日(月)

4.成果報告

●事業の概要


 アメリカ合衆国の国立アメリカ・インディアン博物館(ワシントンD.C.)と染織博物館(ワシントンD.C.)、および、グアテマラの国立民族学・考古学博物館、カティナミット地域博物館(サン・クリストバル ヴェラパズ)、染織博物館(サンティアゴのアティトラン)を訪れ、各博物館のスタッフへ聞き取り調査をおこなった。これは、私の博士論文のための研究において中心となる課題への対応ある。
 博物館での保存と展示の実践、そしてこの2か月間で集めたその他の情報は、織物の保存に関する博物館学における新たな方法論を築きあげる最初の一歩であった。織物は、グアテマラの博物館でマヤやラディノのアイデンティティを表象するものとなっている。グアテマラの博物館ではマヤの視点や意見が基本的に排除されているがこの結果、マヤやラデぃノのといったエスニック・グループへの配慮や、彼らに表象の機会を与えることが不足しています。さらに、政府の方針における、日常の政治的決断や未来計画の際にグアテマラの四大民族の文化を取り入れる姿勢の欠如も指摘できる。文化庁と国立博物館が協働することもない。また、織り師たちは布の所有者でもあるため、展示計画にかかわるべきであるにもかかわらず、博物館の館長やキュレーターたちが地域の織り師のコミュニティと協働することもない。博物館は、単に予算にもとづいて維持されている組織のようなものとなっている。
 今回の調査によって、政府機関ではなく地域のコミュニティによってマネージメントされる織り師たちの組織があることがわかった。このような組織は、現代的なの織物を生産し、国外へ輸出やあることも目的としている。織り師の組織の存在は、それがさまざまなマヤのコミュニティによって維持されているという点において、非常に重要である。なかでも最も活動的な組織はチマーテナンゴ町の アフケンの織物協会とサンティアゴ アティトラン町のコホルヤの織物協会である。アフケンは、織り師や他の職人たちの作品の販売方針を決める際に参加し、経済庁の決まりに基づき、彼らの作品を地域で売ることを目的としている。経済庁は、フェアトレードや、布の海外輸出制限に関与し、マヤの人びとの収入を確保している。マヤ文化の商品が、グアテマラのアイデンティティを「主張する」ために日常的に使用されているとするならば、文化庁や観光局は地域のプロジェクトの発展にかかわるべきだろう。しかし、アフケン もコホーヤも文化庁や観光局とはつながりがない。
 この研究は、平成23年度に予定しているフィールドワークで発展させ、平成24年度に執筆する博士論文に反映させることとしている。今年度のフィールドワークのために、私はサンティアゴのアティトランのコホーヤとコンタクトをとり、約1か月間彼らの活動に参加させてもらい、織り師たちがどのように組織にかかわっているのか、また、彼らの作品や技術ともの将来について調査することになった。さらに彼らが、彼らの作品を広める市の組織と協働することに興味を持っているのかどうかも、調査する予定である。これは、彼らが経済的にサバイブしていくために、そして彼らの作品やアイデンティティを理解することを促す博物館への活動の参加を可能にさせるために、重要なことであると考える。

●本事業の実施によって得られた成果


 各博物館への訪問とインタビューによって得た情報が博士論文研究にとって必要不可欠であることは間違いない。とくに、アメリカ・インディアン博物館でのマヤが織物の保存にかかわる実践が、グアテマラの博物館の活動の重要な柱となるべきものであることも明がとなった。

●本事業について


 この事業に参加したことによってはじめて、私は博士論文のための研究やその発表に必要な情報とアイディアを得ることができた。この事業による経済的支援がなければ、この時期、いくつかの場所で情報収集を行うことは非常に難しかったと思う。