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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

陳 可冉(日本文学研究専攻)

1.事業実施の目的

中国国家図書館における調査及び「中日書物史の比較研究」シンポジウムへの参加

2.実施場所

中国国家図書館

3.実施期日

平成22年12月21日から12月25日(日)

4.成果報告

●事業の概要


 中国国家図書館は2631万冊の蔵書をほこる、アジア最大、世界で3番目の規模をもつ国立図書館である。江戸時代、特に近世前期日本で流布した漢籍およびその和刻本の源流をおさえるために、今回は中国国家図書館における明清刊本の調査を行った。
 調査の対象は、『陶淵明全集』、『仙佛奇踪』、『虚舟題跋』の三点である。明暦三年刊和刻本『陶淵明全集』は明版を覆刻し、羅山門の儒者菊池耕斎(岡西惟中の儒学の師)による訓点と跋文を有している。釈道の畸人の小伝を集め、一人ずつ挿絵を添えて紹介した明・洪応撰『仙佛奇踪』は、恐らく近世初頭に成立した隠逸伝の編纂や林家の画賛にも影響を与えたと思われる。清・王澍撰『虚舟題跋』は主に書道に関する考証と評論であり、報告者はたまたま江戸後期の儒学者朝川善庵旧蔵の写本『虚舟題跋』一冊を入手したので、同書の元である唐本についても少し知りたくなった。
 12月23日~24日は、中国国家図書館古籍館、国家古典籍保護センター、北京大学国際漢学家研修センター、国文学研究資料館共催の「中日書物史の比較研究」シンポジウムが中国国家図書館で開催された。報告者は同学会にも出席し、中日両国の専門家より沢山の教示をいただいた。シンポジウムのプログラムは以下の通りである。


12月23日

【午前】

※開会式 主持人:陳紅    領導致歡迎辭 張志清、今西祐一郎

※與會代表合影

※第一場 插圖本研究 主持人:堀川貴司
相田満 :由相書看唐本與和刻本
今西祐一郎:行数不同版本和插圖―― 17世 前期的《伊勢物語》版本

※自由討論

【午後】

※第二場 插圖本研究 主持人: 劉玉才
鈴木淳:谷文晁與《江川家蒐集書畫帖》
程有慶:簡論明代小説戲曲的插圖和版式

※自由討論


12月24日

【午前】

※第一場 古籍結構形態研究 主持人:鈴木淳
入口敦志:日本接受漢籍的形態――以《帝鑒圖 》為例
陳捷:和刻本的變種――流入中國的日本版片及其印本

※第二場 古籍結構形態研究 主持人:李際寧
劉玉才:從稿本到刻本――以《周易注疏校勘記》成書為例
堀川貴司:關於中世紀日本漢籍中的本文和注的形態

※自由討論

【午後】

※第三場 古籍結構與裝幀研究 主持人:陳先行
陳紅 :中國古籍裝具的形制
李際寧:蘇州瑞光塔出碧紙金書《法華經》裝潢研究――與日本、韓國收藏品的比較

※第四場 古籍字體研究 主持人:陳捷
梶浦晉:宋代寫經的形式與字體――以大藏經為中心
陳先行:關於宋版書的字體

※自由討論

※嘉賓感言

※閉幕式 主持人:林世田  大會總結:劉玉才


 そのほか、開会前の12月22日に、国文学研究資料館の先生方と一緒に、「故宮文物南遷史料展」、「清宮蔵善本碑帖特展」、「明永楽宣徳文物特展」を拝観し、故宮の歴史や明清時代の文化と藝術について広く見聞を得られた。そして、同じ日に国家図書館文津街分館にある文津雕版博物館をも見学し、実際に使われた版木をはじめ、版本印刷にまつわる様々な実物から書籍制作の工程を知ることができた。

●本事業の実施によって得られた成果


 今回のRT事業の実施内容は、書物の調査と学会の参加の二つである。書物の調査について、国家図書館の閲覧規則により、原本を見ることができず、すべてマイクロフィルムで確認することになったのは大変残念に思うが、事前の計画に基づき、国家図書館所蔵の次の三点を調べた。(1) 明刊四巻本『陶淵明全集』二冊(漢蔡中郎竹冊)、王仲甫跋。巻一「詩四言」、巻二至四「詩五言」。(2) 明万暦刊『僊佛奇蹤』三冊(原八巻、三巻現存。仙二・三、佛二)、鄭振鐸手沢本。(3) 清乾隆聞川易鶴軒刊『虚舟題跋』四冊、馮浩序、翁方綱書入本。
 23日~24日の二日間、中国国家図書館で行われたシンポジウム「古典籍の形態・図像・本文――中日書物史の比較研究」は、今までの書籍伝播の視点と違う、古典籍の生成やその特徴の角度から中日書物史の比較研究を提言する国際集会であり、両国の古典籍への理解を深める絶好の機会である。プログラムを見ても分かるように、報告者の専攻に近い日本の近世前期と中国の明清時代を取り上げる発表が多く、中日両国の著名な学者が一堂に集まり、活発な討論と意見交換が行われているので、一聴講者に過ぎないが、私なりに啓発を受け勉強になった。
 中でも、版木の流通を取り上げる、国文学研究資料館の陳捷先生のご発表を聞いて、和刻本『明季遺聞』の版木は明治維新後中国に逆輸入された事実があったことを知り、大変興味深く感じられた。実は黒川玄通(道祐の弟)点和刻本『明季遺聞』(寛文二年跋刊)は、今取りかかっている林鵞峰編『本朝一人一首』(寛文五年跋刊)の出版事情を探るための重要な書物であり、その版木は日本より渡ってきて、中国でも使われていたことなど思ってもみなかった。そのような経緯を知ることができたのも今回のRT事業の収穫の一つである。
 また、学会の以外の時間帯でも、以前お目にかかれなかった斯道文庫の堀川貴司先生よりお教えをいただいたり、五年ぶりに北京大学の厳紹※(湯+玉)先生と再会し、比較文学の研究方法についてアドバイスをいただいたりして、中日両国の先生方と学術交流を深めた。