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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

張 培華(日本文学研究専攻)

1.事業実施の目的

「和漢比較文学会・台湾大学 第三回特別研究発表会」研究発表、歴史的文献 文物を調査する。

2.実施場所

国立故宮博物院、国立台湾大学、苗栗県内客家集落、国立台湾歴史博物館、国立台湾文学館(台南市)国立故宮博物院文献館

3.実施期日

平成22年9月1日(水)から9月7日(火)

4.成果報告

●事業の概要

 「和漢比較文学会」と「台湾大学」で共催された「第三回特別研究発表会」にて、「『枕草子』における『和漢朗詠集』の引用」という題目で研究の成果を報告し、研究の視野を開拓するため、海外の多くの日本文学研究者と情報を交流し、歴史的文献、文物を調査した。
 九月二日、国立故宮博物院で、様々な歴史的文献、文物を拝見した。特に専攻(平安文学研究)に関して、以前に書いた論文に関する問題について、理解がより深まった。例えば、私は「『枕草子』における「唐鏡」考」という論考を公表したが、唐代の鏡を観察できたは、問題に対する認識を深めるよい機会であった。
 九月三日、国立台湾大学研究発表、詳細は次の「学会発表について」を参照。九月四日、苗栗県南荘老街、北荘等歴史地区を調査し、台湾の特有な歴史と民俗について理解を深めた。
 九月五日、国立台湾歴史博物館では、最終日の『三国史』の展示を見学した。また、歴史の文物を観察した。特に、私の専攻と近い時代の文物を観察でき、研究のため大変有益であった。例えば、唐人書写の「唐人写経残巻」を鑑賞でき、『枕草子』における多くの写経の場面に対する理解は以前より深まった。また、「唐人文会図」を観察し、当時の文学の活動について、非常に参考になった。
 午後、国立台湾文学館で、体感(室内の現代設備、音声、映像等)で、台湾文学の発展の道筋をたどり、台湾本土の母語文学に初めてふれた。特に、台湾の地元の作家が地元の生活を生かして書かれた作品の、生き生きした筆致の活力には感動した。古典文学研究専攻でも、作品を深く理解する為に、大変啓発となった。
 九月六日、国立故宮博物院文献館に訪問した。所蔵された貴重な文献について、検索、利用する手続き等を直接体験し、今後の研究のために、極めて有益であった。

●学会発表について

 発表題目:『枕草子』における『和漢朗詠集』の引用 ――四系統本文の表現差異を中心に――
 概要:『枕草子』本文について、かつて、池田亀鑑は様々な写本を研鑽し、「雑纂」の「三巻本」、「能因本」と「類纂」の「前田家本」と「堺本」のように「二類」「四系統」本文を分別した。これらの四系統本文のうち、どれが作者清少納言に最も近いのであろうかという問題は、極めて複雑で、いろいろな説が論じられてきた。例えば、「類纂」系のうち、鎌倉中期の書写と認められた前田家本『枕草子』(尊経閣文庫蔵)本文は、最も古い『枕草子』写本である。しかし、この前田家本『枕草子』本文は、能因本と堺本に基づいて、後人が再編纂したものとの「仮説」がある。現在、前田家本『枕草子』本文を中心とする研究はそれほど多くではない。また、「雑纂」系のうち、三巻本と能因本の古さについては、様々な角度から論じられ、三巻本本文がよいではないかという可能性は数多く指摘されているが、結論はでていない。
 以上のことをふまえ、本発表では、『枕草子』と『和漢朗詠集』に重なる漢詩句に注目して考えた。具体的には、四系統『枕草子』本文における『和漢朗詠集』の詩句及び朗詠古注釈を利用して検証した。そのうち、代表的な箇所を取り上げて、四系統本文を比較し、各系統本文による漢詩句の特徴を明らかにした。結果、三巻本は能因本より古いと考える。また前田家本が、必ずしも能因本と堺本に基づいて再編集したものとは言えない。前田家本が、能因本と堺本を再編纂したとされる「仮説」について再検討することが必要になるであろう。
 会場及び発表後、多くの台湾、日本の研究者からのご意見を頂いた。例えば、漢文学受容の研究として、『枕草子』における問題を解決することは、有益な方法であるということに賛同をいただいた。
 発表順等、下記の「和漢比較文学会・台湾大学・特別研究発表会」のウェブ-サイトを参照。

http://www.wakan.jpn.org/reikai.html#special

●本事業の実施によって得られた成果

 本発表「『枕草子』における『和漢朗詠集』の引用 ――四系統本文の表現差異を中心に――」博士論文『枕草子における漢文学受容の可能性』の中に、一章を予定している。

●本事業について

 本発表、調査した経験者として、文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業に参加させて頂き、大変有益となりました。