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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

佐藤 優(日本歴史研究専攻)

1.事業実施の目的

東北地方における青麻(あおそ)神社の信仰実態及び史資料の調査

2.実施場所

岩手県紫波郡紫波町・一関市、宮城県白石市・亘理郡山元町、山形県東置賜郡高畠町

3.実施期日

平成22年8月21日(土)から8月28日(土)まで

4.成果報告

●事業の概要

 本調査は、2010年8月21日(土)から 8月28日(土)まで行った。調査目的は、東北地方における青麻神社信仰の実態について具体的に把握するためである。鎮座形態あるいは、利益など現在の信仰状況を調査し、文献に記載されていない資料を得ることにあった。
 調査の具体的な内容は下記の通りである。
 まず、8月22日(日)に岩手県紫波郡紫波町遠山地区に鎮座する青麻神社例大祭に参加し、信仰圏を明らかにするため、例大祭参加者がどのような地域から訪れているのかについて聴き取り調査を行った。また、鎮座地域の方から社の利益やそれと関連する民間療法についての聴き取り調査を行った。得られた知見としては、社に奉納してあるアカザの杖をつきながら社を三周まわることで中風にならないという習俗が行われていたことが複数の調査者から確認できた。
 23日(月)は、岩手県一関市川崎町門崎(かんざき)地区で清悦社を管理する方から、社の由来及び利益、今日に至るまでの経緯等について聴き取り調査を試みた。この調査は、社号を青麻神社とする数社が清悦こと常陸坊海尊の伝承を持つためで、青麻神社と関連のある常陸坊海尊伝説の解明のために行った。
 24日(火)は、宮城県白石市福岡長袋地区に鎮座する神明社境内末社の青麻神社について、神明社宮司からの聴き取り調査を行った。また、当該地に鎮座する社の建立年代が正徳三年(1713)であることが確認できた。
 25日(水)は、調査者の都合で先に山形県東置賜郡高畠町亀岡地区に鎮座する青麻神社の調査を行い、神社に奉納されていた麻紐を確認してきた。また、大正13年(1924)生まれの方から聴き取り調査を行い、社の利益や氏子組織についての知見を得た。
 26日(木)は、宮城県亘理郡山元町高瀬地区に鎮座する天神社の境内末社若木神社について調査を行った。これは、若木神社の旧称が青麻権現と呼称されていたためである。また、同町における「青麻三光宮」石碑の調査も併せておこない、当該地域における近世期の信仰実態についても知見が得られた。
 27日(金)は、先にふれた山形県高畠町に再度赴き、亀岡地区で近世期組頭をされていた昭和6年(1931)生まれの方から当地に鎮座する青麻神社の信仰実態について聴き取り調査を行った。近世期には本山派修験の勧行院が社を管理していたこと及び社に付帯する民間療法についての知見が得られた。また、所蔵の文献資料を閲覧することで、この社が常陸坊海尊の伝承を持っていることも確認できた。

●本事業の実施によって得られた成果


 本事業を実施したことで、調査地域の青麻神社信仰の実態を具体的かつ詳細に把握できた。
 具体的には田植えの際、手首が動かなくなる症状に利益があるという山形県東置賜郡高畠町の事例は、中風除けだけではない特異な利益が青麻神社にあることが確認できた。
 また、宮城県亘理郡山元町での石碑の調査からは、青麻神社が近世末期に多くの信仰を当地で集めていたことが確認できた。この資料を得たことで仙台市宮城野区岩切に鎮座する青麻神社に奉納された石塔群との年代比較が可能となり、仙台の青麻神社に対する信仰の集中した時期がより詳細に確認できるようになった。
 本調査によって、2010年6月6日の日本口承文芸学会での報告時よりも詳細に青麻神社信仰について分析できる資料が得られた。博士論文第二章の執筆においては、日本口承文芸学会報告時の資料と本調査の資料とを比較検討しながら、青麻神社信仰についてより詳細な分析を行って行くことが可能となった。


宮城県白石市福岡長袋地区に鎮座する神明社境内末社の青麻神社写真
(2010/8/24撮影)

●本事業について


 今回RT事業に参加したことにより、博士論文のための資料収集が大幅に進んだ。民俗学におけるフィールドワークは、自身の学問形成に不可欠な方法として重視されてきているが、長期の調査には費用がどうしてもかかってしまう。こうした心配を払拭してくれる当事業は、学生の身分にとっては有益な制度であった。また当制度は、今述べた経済面だけでなく自分で計画を立て、予算を組み実行するといった研究の基盤作りという意味でも多く学ぶことができた。