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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

佐藤 優(日本歴史研究専攻)

1.事業実施の目的

東北地方における青麻(あおそ)神社の信仰実態及び史資料の調査

2.実施場所

福島県福島市・須賀川市

3.実施期日

平成22年9月18日(土)から9月22日(水)まで

4.成果報告

●事業の概要

 本調査は、2010年9月18日(土)から 9月22日(水)まで行った。調査は、東北地方における青麻神社信仰の実態を把握することを目的とした。具体的には、鎮座形態・利益など現在の信仰状況を調査し、市町村史等の文献に記載されていない資料を得ることにあった。
 調査の具体的な内容は下記の通りである。
 まず、9月18日(土)福島県福島市に午前中に移動し、午後から同市松川町に鎮座する青麻淡島神社で石碑等の調査を行った。その後、2名の方(大正10年生・大正13年生)から聴き取り調査を行った。得られた成果としては、利益が中風除けであることが確認できた。そして、昭和10年くらいまでは、中風除けに利益があるとされた桑の木の箸・ヘラ・スリコギボウが社から頒布されていたことも確認できた。
 19日(日)は、氏子の方の協力により神社に奉納されている棟札の確認を行い、写真を撮影した。その後、社を代々管理されていた方(大正10年生)から聴き取り調査を実施した。棟札は、計7枚現存している。古い物は、「奉勧請青麻三光宮一宇造立神璽」(弘化3年)があり、この社がこの年に勧請されたものであることがわかった。また、「維時嘉永二年己酉歳二月吉日」の棟札からは、社の鎮座地が嘉永2年(1850)に杦内与三郎・六右衛門によって寄進された土地であることも確認できた。
 20日(月)は、福島市飯坂中野地区で行われていた青麻講についての調査を行った。まず、飯坂中野地区在住の方(昭和2年生)から聴き取り調査を行った。そこでは、飯坂中野字北円部地区に講元がおり、複数の地区から講員を募り宮城県仙台市に鎮座する青麻神社へ毎年参拝に訪れていたことが確認できた。そして、講元のお孫さん(昭和26年生)の方にも聴き取り調査を行うことができた。そこで得られたことは、この講が仙台の青麻神社に参拝する目的で結成されたことが確認できた。また、講元が脳梗塞で身体を悪くした事を契機として講が組織されたことも確認できた。よって、仙台の青麻神社が中風に利益があるということは、福島市あたりまでかなり濃厚に信仰されていたことが確認できた。
 21日(火)~22日(水)は、須賀川市に移動して、神炊館(おたきや)神社の境内社である青麻神社の調査を行った。社は、明治37年(1904)に再建されたことが確認できた。また、社殿再建の発起人及び寄付者は、全80人中76名が女性で占められていた。よって、女性に多くの信仰があったことが確認できた。その後、須賀川市内でのアカザの杖にまつわる俗信について、2名の方(昭和6年生・昭和10年生)から聴き取り調査を行うことができた。須賀川でもアカザの杖をつくと中風にならないという俗信が、伝承されていたことが確認できた。

●本事業の実施によって得られた成果


 本事業を実施したことで、調査地域の青麻神社信仰の実態を具体的かつ詳細に把握できた。 具体的には、仙台の青麻神社で頒布されている中風に利益があるとされる桑の木の箸の伝承は、戦前までは福島市松川町に鎮座する青麻淡島神社でも同様の伝承が行われていたことが確認できた。
 また、福島市では近年まで仙台の青麻神社に講を組織して参拝に訪れていたことも確認できた。
 本調査によって、さらに青麻神社信仰について詳細に分析できる資料が得られた。博士論文第2章の執筆においては、本調査までに得られた資料を比較検討しながらより詳細な検討が可能となった。


福島県福島市松川町に鎮座する青麻淡島神社の奉納棟札写真
(2010/9/19撮影)

●本事業について


 今回本事業に参加したことにより、博士論文第2章執筆のための資料収集が大幅に進んだ。民俗学におけるフィールドワークは、不可欠な方法として重視されてきているが、長期の調査には費用がどうしてもかかってしまう。こうした心配を払拭してくれる当事業は、学生の身分にとっては有益な制度であった。また本事業は、研究の計画性を養うという意味でも多く学ぶことができた。