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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

吉田 小百合(日本文学研究専攻)

1.事業実施の目的

2.実施場所

韓国国立中央図書館

3.実施期日

平成22年11月14日(日)から11月17日(水)

4.成果報告

●事業の概要

 本事業の内容は、韓国国立中央図書館所蔵の和古書調査と、来年度から始まる高麗大学校との交流事業の準備となっている。
 実施期間は平成22年11月14日から17日の四日間である。場所は、上記の図書館となった。
 同図書館には、朝鮮総督府が収集した和古書が豊富にあり、これまで長きにわたり国文学研究資料館が和古書調査を行ってきた。その一環として、すでに調査した文献であっても、再び見直す必要があるものについて、今回文献調査を行った。
 第一日目は韓国へ入国し、高麗大学校の院生と交流を行った。まず、院生の方から韓国の文化をお教え頂くこととなり、韓国国立中央博物館で開催されていた、高麗仏絵の展示を観覧することとなった。高麗仏絵は現在その多くが日本で所蔵、管理されており、当該展示の絵も、日本から多く借り受けていることをお教え頂いた。展示点数は100余りと多く、壮観であった。初日は、韓国の文化、日本の文化、互いの研究について、先述の院生と意見交換が活発に出来、良い刺激となった。
 第二日目は、中央図書館で文献調査を行った。ひとつの和古書を見るたびに、ご同行されていた、大高洋司教授をはじめ、諸先生方から、その和古書の持つ特色を分かりやすくご教授頂けたことは、申請者をはじめ、同席していた院生にとって大きな喜びであった。さらに、各ご専門の古書についても、丁寧に時間をかけてお話しを伺うことが出来、研究上必須の基礎知識を得ることの重要性や、それを研究にどう生かしていくか、という応用的な問題についても、教師、学生一丸となって互いの意見を交わすことができた。
 第三日目も、二日目同様、文献調査を引き続き行った。三日目は、漢籍について、陳准教授、入口助教にご講義頂けた。日中の漢籍の違い、本の装丁、本文の内容等、多角的な視点からのご講義は、内容としてとても充実しており、普段申請者が関わらない、しかし研究者として知っておくべき知識をお教え頂けた。この事業で得たことを単なる情報ではなく、今後は自身の知識として研究に役立てていきたい。この日、文献調査の締めくくりとして、自身の行った文献調査の簡単な報告を口頭で報告させて頂いた。発表者は『栄花物語』の調査を主に行ったため、これが日本でも多く残っているものであったことをまず発表した。それ以外の和古書で、特筆すべきものとして、『伊勢物語闕疑抄』を提示した。同書は、多くの書き入れがみられ、その内容が何らかの文献の引用であるのか、なんらかの講義を聴いて書き入れたのか、判断は難しい。そのため、帰国後国文学研究資料館内の資料と比較し、改めて調査報告を行う旨をお伝えした。
 以上のように、大変充実した文献調査を終え、第四日目に無事帰国の運びとなった。
 調査期間中、特に印象に残っていることは、研究に対して真摯であること、謙虚であることを忘れない、という言葉である。研究に対して、気を抜かない先生方の姿勢を見習い、今後も研究に邁進していきたいと改めて感じた。もう一点、高麗大学校の院生の皆さんと国を越えて、分野を越えて意見交換が出来たことも、大変貴重な体験となった。
 今回の主な活動の文献調査は、研究上欠かすことのできないことで、今後もこの調査でお教え頂いた知識を生かして研究をすすめていきたい。

●本事業の実施によって得られた成果

 文学研究を行う上で、文献調査は必要不可欠のことです。調査する上で、どういった知識、技術が必要であるかは、本からだけでは学びとることはほぼ不可能といえる。また、実際に一人で調査を始めても、必要な情報のすべてを得ることはできない。文献調査は、可能であれば、専門の指導者に方法をご教授頂きながら、より多くの和古書に触れ、調査方法を習得していく必要がある。また、申請者が所属する国文学研究資料館には膨大な資料を有するため、「文献調査」自体は館内で習得ができる。しかし、これに加えて所属外機関での調査法というものも、知っておく必要がある。本事業はそれら学びのための要件をほぼ満たしており、知識、技能習得に最適な場と機会となった。今回学んだことを、今後の研究生活でも実践してきたい。
 このほか、申請書の作り方、書き方、調査前の準備など、実務的な方法についても、申請から報告までを通して学ぶことができたことも、良い経験となった。

●本事業について

 本事業は、総研大の事業の中でも極めて重要な事業であると思います。学生の身分でありながら、費用を支給して頂き、多くの研究者と交流をし、研究を実践できる場と機会を得ることができます。このような事業は、他の大学では類をみないことです。金銭的な問題は、学生生活を送る上で非常に大きな問題です。今後も本事業をぜひ続けて頂き、総研大の長所の一つとして、広く周知して頂ければと思います。そうすることで、多くの若手研究者(院生)が総研大に集まるきっかけとなって欲しいと思っています。
 本事業については、一つ希望があります。RT事業についても、国外調査は原則前払いにして頂ければより活用しやすいです。今回は調査地がアジアだったため、それほど費用はかかりませんでしたが、少ない金額でも前払い制度を導入して頂ければ、より安心して事業に応募できるように思われます。