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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

林 真人(日本文学研究専攻)

1.事業実施の目的

2.実施場所

大阪大学附属図書館、大阪府立図書館、舞鶴市郷土資料館、神戸女子大学古典芸能研究センター

3.実施期日

平成23年4月15日(金)から4月18日(月)

4.成果報告

●事業の概要

 説経『さんせう太夫』諸本の書誌情報調査を行った。寛文頃刊の草子本『さんせう太夫物語』を中心に、それと深い関係を持つとされる諸本を見た。

●学会発表について

 今回の調査結果をもとに、本年5月28日、演劇研究会例会(於:同志社大学)にて、草子本『さんせう太夫物語』についての研究発表を行った。草子本が本文と挿絵においてそれぞれ別の先行正本を祖本としており、そこに説経の特色を排除する草子化とでも呼ぶべき加工が施されていたことを明らかにした。
 出席者からは、本文と挿絵が別々の先行本に拠ったとする論拠である、本文と挿絵の不一致について、「当時の版本の挿絵では一つの本を祖本としていても起こりえることなのではないか」という指摘をいただいた。また、「本文と挿絵を別々の本から取るということはありえるのか。あり得るとすればその目的は何なのか」という疑問も呈された。その他、与七郎本と草子本の道行の異同について、「与七郎本の道行が初期説経正本の道行の特性を具えているのに対し、草子本の道行はどのような性格を認めうるのか」という質問をいただき、「同時期の古浄瑠璃道行との類似を指摘できるが、草子本が草子屋のもとで作られたという前提に立った時、当時の芸能関係書との関連のみを指摘するだけでは不十分であり、現時点では不明といわざるを得ない」という旨の返答をした。
 今後は、同時代の絵入版本の挿絵や道行などを網羅的に披見することによって、今回断定することを避けた、草子本本文の祖本の確定、あるいは草子本を他の草子化された芸能書の中にどのように位置づけられるのかを検討していく。

●本事業の実施によって得られた成果

 草子本『さんせう太夫物語』の成立を考える上で必要な諸本の情報を得ることができた。大阪府立中之島図書館で閲覧した万治寛文年間頃刊の説経正本『さんせう太夫』(以下、万治寛文本)は、草子本の挿絵との関連が既に指摘されていたが、今回の調査で両本の関連について新たに二つのことが明らかとなった。まずひとつは、両本はほぼ同構図の挿絵を持つが、いずれにももう一方には見られない挿絵があり、しかもそれは独自に創出されたものでないと考えられるということだ。もう一点は、両本共に本文内容と挿絵の内容に矛盾点が認められるということだ。それらによって、両本には直接の関連があるわけではなく、現存しない共通の祖本があったことが判明した。

●本事業について

 今回のリサーチトレーニング事業では、古典籍の調査の基本的な手順を、特に所蔵者への配慮を重視しながら学んでいった。調査の許可を当然と思わず、所蔵者に対して敬意を示すことを心がけた。また、資料の取り扱いに最大限注意し、保存状態の維持に努めた。