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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

今井 彬暁(地域文化学専攻)

1.事業実施の目的

ベトナム首都ハノイ市および調査地であるベトナム西北地方ラオカイ省の訪問。ハノイでは、最新の資料・情報収集を目的として、ハノイ国家大学ベトナム学研究所やベトナム民族学博物館などを訪問すること。また、ラオカイ省では、地方政府関係部署にて情報収集を行うとともに、現地でのツアー参加などの形でモン族の観光労働の現状についての予備調査を実施すること。

2.実施場所

ベトナム首都ハノイ市、ベトナム西北地方ラオカイ省

3.実施期日

平成23年8月14日(月)から9月13日(火)

4.成果報告

●事業の概要

 本調査において実施した活動は、大別して3つの活動内容に分けられる。(1)情報・資料収集のための活動、(2)調査手続きに係る活動、そして(3)現地予備調査、の3つである。情報・資料収集のための活動および調査手続きに係る活動は首都ハノイにて行い、現地予備調査はラオカイ省の複数のモン族の居住する県において実施した。
 (1)情報・資料収集のための活動は、ハノイでの現地研究者との面談に基づく情報収集や、書店や図書館での関連資料の収集を含む。ハノイでの現地研究者との面談では、ハノイ宗教学院や文化研究所、またハノイ国家大学ベトナム学研究所やベトナム民族学博物館の研究者を始めとして、現地のベトナム人研究者および現地に長期滞在する日本人研究者より、特にベトナム西北地方での調査実施に関連する情報を収集した。関連資料の収集については、書店での地図や書籍の購入、古本屋での学術論文の購入、また図書館での書籍の閲覧を行い、ラオカイ省やモン族に関する資料および書籍を入手した。
 (2)調査手続きに係る活動では、ハノイでの研究者との面談の際に、ラオカイ省で調査するに際して特に関係の深い行政機関等の状況を聞き取りした。そのことによって、同省の関係部署担当者と面会する必要性が明らかになった。その後、ラオカイ省を訪問し、担当者との面談を行い、同省での調査の可否および可能な調査形態に関しての示唆を得ることができた。また、面談の結果として、来年度からの調査実施に関して現実的な見通しを得ることができた。
 (3)現地調査活動では、ラオカイ省のサパ県、バックハー県、バオイェン県などのモン族の村を訪問し、それぞれの役場および家庭での訪問聞き取り調査を行うことによって、次年度からの調査地の選定を行った。その結果として、市街地と村が近接しており、市街地においてもモン族と日常的に接触することが可能であるサパ県を次年度からの調査対象地として選定した。その後サパ県に5日間滞在しつつ、サパの町および近郊のモン族の村で生業形態や生活に関する聞き取り調査を実施するとともに、モン族の家庭を訪問し昼食をいただくなど、暮らしぶりに関する観察を行った。
 今回のベトナム訪問では、渡越以前に連絡を取っていた現地の研究者の助力を得つつ、また関係する行政機関からの前向きな対応を頂くことによって、当初行う予定だった活動を実施することができ、結果としてすべての目的を達成できた。

●本事業の実施によって得られた成果

 本事業の実施では、次年度からの長期滞在調査に向けての活動を実施し、結果として以下の成果を達成することができた。(1)次年度からの長期滞在型調査実施のための準備、(2)予備調査の実施および調査地の選定、そして(3)資料収集、の3つである。
 (1)ベトナムでは調査を実施するに際しては一連の手続きを経る必要がある。必要な手続きには主に受け入れ機関の決定および調査実施対象地の省、県、村レベルからの調査許可が含まれる。受け入れ機関先に関しては、ハノイにて面会した幾つかの団体より前向きな返答をいただくことができ、次年度からの調査に必要となる手続き等に関する協力を始め、現地滞在中の責任機関としての協力を得られる見通しが立った。次に、調査実施対象地からの調査許可に関しては、省、県、および村レベルでの許可が必要となるが、そのうち省レベルからの許可に関しては、今回のラオカイ省関係部署担当者との面談において、次年度からの調査許可取得に関する条件や留意事項についての示唆をいただき、調査許可申請に関する状況が明らかになった。また、サパ県の村で訪問した村長との面談においても、次年度からの調査に関して協力を得られる見通しを立てることができた。これらの結果として、次年度からの長期滞在型調査実施に際して、現地受け入れ機関と相談しつつ、省や村からの調査許可を申請するための具体的な準備が出来た。
 (2)予備調査の実施では、ラオカイ省において適切な調査地を選定するとともに、当該調査地において聞き取り調査および暮らしぶりに関する調査を実施することが出来た。具体的には、どのような生業を行っているかを中心として、農作物、家畜や生活パターンに関する聞き取り調査を行った。また、農業や畜産といった生業のほかに、公務員や観光業などのモン族の職業形態の拡大やキリスト教プロテスタントの蔓延などについて、現地のモン族インフォーマントから情報を得ることができた。サパ県での調査は5日間の短期滞在という限定的なものであったが、次年度からの調査に向けて、また詳細な研究計画を作成するための、基本的なイメージを得ることができた点で、有意義であった。
 (3)関連資料の収集に関しては、ベトナム語での書籍や論文、またラオカイ省関係部署より入手した統計資料など、現地でしか入手しづらい資料を手に入れることが出来た点で、ベトナム訪問の大きな成果の一つといえる。博士論文の計画作成においても入手資料を活用しつつ行っていく。
 ベトナムでの調査、特に中国国境の北部地方の少数民族地域での調査においては、手続き上困難が伴うと一般には言われている。しかしながら、本事業の実施によって、現地に赴き、研究者や行政機関との面会により最新の現地状況を知ることができた。そしてそのことによって、当初計画していた目的を達成するとともに、結果として次年度からの調査について明るい展望が持てたことは、非常に大きな成果であった。今回の調査で得られた知見や現地とのつながりをもとに、博士論文の計画作成および次年度からの調査を実施していく。

●本事業について

 本事業のような枠組みにおいて調査研究活動を行えるということは、学生にとっても非常に有意義なことであり、こうした事業の継続・推進は、研究を行っていく学生の側からも強く期待されるものであると感じます。