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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

キム ホンソク(日本歴史研究専攻)

1.事業実施の目的

6th International Symposium “Radiocarbon and Archaeology” にて研究成果発表

2.実施場所

キプロス

3.実施期日

平成23年4月9日(土)から4月16日(土)

4.成果報告

●事業の概要


 今回参加した6th International Symposium “Radiocarbon and Archaeology” は、炭素14年代測定法の考古学への応用をテーマとする国際シンポジウムである。現在まとめている博士論文では、炭素14年代測定法による骨の埋没年代と遺跡の年代の推定が主要課題の一つとなっており、このシンポジウムのテーマと合致する。そのため、博士論文における方法論の再確認と考察の深化を目的として、このシンポジウムで研究成果発表を行った。
 シンポジウムは、キプロスのパッポにおいて4月10日から14日まで開催された。口頭発表12セッションを中心とし、この他に2つのポスターセッションが2日ずつ行われた。セッションは時期、地域、測定試料などによって分けられており、各セッションでは5人程度の発表が行われた。

SUNDAY, APRIL 10, 2011
Opening Session

MONDAY, APRIL 11, 2011
09:00 – 11:10 Session Ⅰ  DENDROCHRONOLOGY AND BOTANICAL REMAINS
11:40 – 13:20 Session Ⅱ  RADIOCARBON RESEARCH IN THE 1st MILLENNIUM BC
14:40 – 16:40 Session Ⅲ  METHODS AND APPLICATIONS IN RADIOCARBON DATING OF OLD WORLD
PREHISTORIC SITES
16:40 – 19:00 Poster SessionⅠand refreshments
TUESDAY, APRIL 12, 2011
09:00 – 10:40 Session Ⅳ  RADIOCARBON RESEARCH IN THE 2nd MILLENNIUM BC
8
11:10 – 13:20 Session Ⅴ  ANCIENT CULTURES OF THE EURASIAN STEPPES: CHRONOLOGY,
MIGRATIONS AND INTERACTION
16:30 – 20:50 Session Ⅵ  SPECIAL ARCHAEOLOGICAL MATERIALS AND TECHNIQUES FOR DATING
Keynote Lecture
WEDNESDAY, APRIL 13, 2011
09:00 – 11:00 Session Ⅶ  CALIBRATION, INTERCOMPARISON, MODELS AND OUTLIERS
11:30 – 13:20 Session Ⅷ  RADIOCARBON RESEARCH IN THE 3rd MILLENNIUM BC
14:40 – 16:00 Session Ⅸ  HISTORICAL PERIODS
16:30 – 17:50 Session Ⅹ  RESERVOIR AGE IN ARCHAEOLOGY
17:50 – 19:30 Poster Session Ⅱ and refreshments
THURSDAY, APRIL 14, 2011
09:00 – 10:40 Session Ⅺ  PREHISTORICAL PERIODS
11:10 – 13:20 Session Ⅻ  14C SAMPLES PRESERVATION, SITE FORMATION AND NORDIC
ARCHAEOLOGY

 このシンポジウムでは、炭素14年代測定結果と考古学的な研究結果とをどのようにすり合わせていくのかということについて、さまざまな国の研究者の方法論を知ることができた。さらに、安定同位体分析と炭素14年代測定を併用することによって食性の復元と時期推定を同時に行うという研究手法を使った報告が数多くみられたが、これは現在執筆中の博士論文でも使用している方法であり、データの扱いや解析法など(特に、執筆上の困難を抱えていた窒素同位体比の解釈をめぐる問題)に関して非常に参考になった。今回のシンポジウムに参加したことで、博士論文を大いに深化させることができると考えている。

●学会発表について


 紀元前1000年期に関するポスターセッションに参加し、博士論文の内容のうち、炭素14年代測定の部分について発表を行った。以下はその概要である。
 これまで韓国では、ブタに代表される家畜の出現時期が明らかになっていない。その解明のために、まず動物考古学的な方法による形態観察に加えて炭素と窒素の安定同位体分析を行った。形態観察の結果、韓国には大•小の二つの形態を持つ「イノシシ」が存在し、小さい「イノシシ」では家畜化現象が多く認められた。また、同位体分析では両集団に異なる食性がみられ、大きい形態のものではシカと同様であるのに対し、小さい形態のものは窒素同位体比が高く、人間と同様の食性であることがわかった。これらのことから、小さい「イノシシ」がブタである可能性の高いことがわかった。さらに、それらが出土した遺跡の炭素14年代を測定したところ、2500年14CBPから1700年14CBPという結果が得られた。ブタの存在が確認できる最も古い遺跡の年代から、韓国におけるブタの存在と飼育は少なくとも紀元前5世紀に遡るということがわかった。それぞれの遺跡の炭素14年代は連続しているので、今後これらを詳細に検討することによって、韓国におけるイノシシ類の変化を系統的に追いかけられるものと期待される。

●本事業の実施によって得られた成果


 博士論文の執筆にあたり、窒素同位体比のデータ解釈について困難を感じていたが、今回の発表とそれに対する意見交換、および他の参加者の報告を参考とすることで、その解決の糸口が得られた。また他の報告の中で、放牧地における窒素同位体比の変化について言及したものがあった。博士論文の中では、ウマの飼育に関わる窒素同位体比の数値データを扱っており、これを含む草食の家畜についての考察に活用できるものと考えられる。
 韓国で5月に開催される学会では、貝塚から出土した動物骨や人骨を対象として、炭素14年代測定と土器編年との対応関係から考察した貝塚の存続期間に関する発表を行う予定である。今回、他国研究者のさまざまな報告スタイルや構成の方法などを知ることができ、その発表にあたって非常に参考になった。また博士論文の公開審査時にも役立つと思われる。