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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

窪田 暁(比較文化学専攻)

1.事業実施の目的

2.実施場所

神奈川県愛川町、福島県下郷町

3.実施期日

平成23年11月26日(土)から12月3日(土)

4.成果報告

●事業の概要

 調査の目的は、3年前より実施している国内に暮らすドミニカ系移民の人類学的調査であった。国内最大のドミニカ系コミュニティがある愛川町において、行政・学校・家庭の現状について継続調査をおこなった。
 調査地には、コミュニティ内で全児童に占める外国籍児童の割合が最も高いA小学校を選んだ。まず、今年の4月に入学したドミニカ系の児童(1年生)の通常学級と、特別支援学級での学習の様子を観察した。この調査からは、外国籍児童の言語使用状況が来日時期、家庭における言語環境によって差がみられること、日本語の理解度が通常学級でのふるまいに影響を与えていることが明らかになった。また、この児童が特別支援学級での授業が必要と判断されたのは、日本語が苦手な両親(日系人とドミニカ人)のかわりに祖母(日本人)が学校と話しあったものの、日本語学級と特別支援学級の違いの説明がうまく伝わらなかったことが原因だという。そのため、2年生にあがるまで日本語学級で学ぶことはできない。
 次に、4人のドミニカ系児童の日本語学級における授業風景について観察・インタビューを実施した。母語であるスペイン語で教えてもらえればもっと理解できるはずという児童(来日して1年未満)と、日本語を習得する過程で、母語であるスペイン語を忘れてしまうことに不安を感じている児童(来日して2年)、日本語とスペイン語双方で読み書き能力が向上しない児童(来日して5年)というように、同じ日系ドミニカ人でも言語能力や意識にはばらつきが見られた。
 コミュニティ調査としては、ドミニカ系の3家族に会い、彼らの来日の動機・経緯や日本での生活について話を聞くとともに、家庭内における親子の会話の現状についての調査を実施した。日本での生活に関しては、ドミニカ系の人びとが週末に集まり、バーベキューや草野球をすることで故郷とのつながりを維持していることがうかがえた。役場では、外国籍住民に対する言語サービスについて、通訳職員の勤務の様子を観察した。
 福島県下郷町落合地区でコミュニティ再生の研究・実践活動をおこなっている人びととの交流をおこない、限界集落に加えて原発事故による風評被害が重なる現状といかに向き合っているのかを調査するとともに、コミュニティのありかたを議論した。

●本事業の実施によって得られた成果

 博士論文においてアメリカのドミニカ移民コミュニティの事例を扱うが、国際比較の観点から日本のドミニカ系コミュニティの実態も参照する必要があると考えている。そのために、今回の調査は非常に重要なものであった。それは、アメリカに暮らすドミニカ系と国内のドミニカ系は、同じ文化的背景をもつとはいえ、その行動や意識は彼らをとりまく環境(ホスト社会)から影響を受けていることが明らかになった。それは、ホスト社会の制度や慣習であり、人びとの国家観である。逆に、移民のホスト社会に対して有していたイメージや移民先での経験が、彼らの行動様式に影響を与えることがわかった。
 アメリカ、日本のドミニカ系移民に共通するものとしては、野球というスポーツを故郷にみたてていることである。これは、博士論文のテーマである「越境するスポーツ文化」を考察するうえで非常に重要な事実である。この調査結果をふまえ、移民先でのスポーツ実践を移民がいかに意味づけているのかについて、ドミニカ本国での調査データを軸に掘り下げていきたい。