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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

石橋 嘉一(メディア社会文化専攻)

1.事業実施の目的

本事業の目的は、ISIC2012 (The Information Behaviour Conference)国際学術会議で、博士論文の進捗状況と課題を発表することを目的とする。

2.実施場所

慶應義塾大学三田キャンパス

3.実施期日

平成24年9月3日(火)から9月7日(金)

4.成果報告

●事業の概要

 ISIC(The Information Behaviour Conference)は、情報探索と情報利用の研究に焦点をあてた国際会議である。本学会は、米国情報科学技術協会(ASIST)の情報利用研究分科会(SIG USE)の研究集会と同様に、情報探索研究の国際的なコミュニティの形成を担っている。ISICは1996年から開催され、今回の東京での開催はアジア初となった。
 本事業では、ISIC2012で2つの研究発表を行った。はじめに、9月4日に開催されたDoctoral Workshopで、海外の博士課程の大学院生(アメリカ、イギリス、フィンランド、メキシコ、オーストリア、台湾)と、博士論文の目的、理論的背景、研究方法、進捗状況、課題について、4~5名のスモールグループで、午前3時間、午後4時間の集中的なディスカッションを行った。ワークショップでは、学生9名に対してメンターとなる教員が4名(アメリカ、カナダ、オーストラリアの大学教員)つき、学生の研究に対してアドバイスを行った。
 次に、翌日の9月5日には、Doctoral Poster Presentationが開催され、ポスターによる研究発表を1時間半行った。ポスターセッションでは、博士候補生と研究者が、研究概要と今後の方向性について議論した。
 9月6日から7日は、情報探索研究に関する多くの研究発表が行われそれらを聴講した。

●学会発表について

本事業では、博士論文の目的である日本人大学生の自律英語学習の支援方法の検討について研究発表を行った。特に、ISICが情報探索と情報利用の研究に焦点があてられていることから、英語学習者自らが授業外に英語学習コンテンツを選択し(Information seeking)、自律的に英語学習を行う(behaviour)ためには、どのような支援方法が考えられるか、また、その支援方法の効果を測定するためには、どのような実験デザインが考えられるか、について発表し、海外の研究者から意見を求めた。Doctoral Workshopとポスターセッションの発表・ディスカッションで得た主な知見を以下に記す。

(1) 研究題目にある「Informal Learning」という語句は、教育工学の領域では、正課外や授業外の学習という意味での理解が定説であるが、他の研究領域の研究者からみると、意味が伝わらないことがわかったので、海外のジャーナルに論文を投稿する際は説明を足すなどの配慮をしたい。

(2) 自作の調査結果をまとめた図に、TOEICのスコアを数値で記述してあるが(例 430)、スコアではなく被験者の数と誤解した人がいたので、図に分かりやすい解説を加えたい。

(3) 実施済みの質問紙調査が、一つの大学から被験者を抽出しているので、追調査では調査対象校を広げるといいのではないかと、多くの人から提案された。

(4) 実施済みのインタビュー調査は、さらに被験者を増やし、モデル化を試みることを推奨された。

(5) リサーチクエスチョンが長く複雑なので、よりシンプルなものに書き直すようにアドバイスを受けた。

●本事業の実施によって得られた成果

 本事業によって得られた成果は2つある。ひとつは、今後の実験実施方法について大変有益な助言を得た。本事業終了1ヶ月後に、専攻内で中間報告が開催されるので、それまでに本事業で得た知見をさらに精緻化し、詳細な実験方法を発表できるように早急に準備を進めたい。
 二つめは、実践的な英語ディスカッションスキルの向上に繋がった。ISICの特筆すべき点は、博士課程の学生のために、特別なセッションが設けられている点である。学会1日目はDoctoral Workshopで集中的なスモールグループ・ディスカッションが設けられ、2日目は博士課程の学生のためにポスターセッションが設けられ、長時間の研究発表と質疑応答を繰り返し行った。一般的な国際会議では、限られた時間内で英語プレゼンテーションを行うが、ISICでは連日に渡り長時間英語でディスカッションをすることを求められた。国内の大学院に進学した者にとっては、大変貴重な訓練の場になったと実感している。

●本事業について

 ISIC2012で研究発表を行ったことで、Doctoral Workshopに参加した博士号取得を目指す海外の大学院生と知り合うことができ、とても嬉しく思っている。学会終了後も、お互いの研究進捗状況を共有するために、FacebookでISIC2012のコミュニティを作り、相互に繋がった。さらに、Doctoral Workshopのメンターの教員もコミュニティに加わり、調査や分析で困難が生じた場合にアドバイスをもらえる体制ができた。
 このように、海外の多様な大学院生・教員と研究コミュニティを構築することができたリサーチトレーニング事業に感謝する。特にISIC2012での発表に推薦してくださった文化科学研究科の三輪眞木子教授、Doctoral WorkshopメンターのTheresa とRossに心より感謝したい。