HOME > 平成24年度活動状況 > リサーチ・トレーニング事業 > 研究成果レポート

文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

石原 朗子(メディア社会文化専攻)

1.事業実施の目的

九州大学にて開催された第79回教育社会学交流セミナーにおける発表ならびに意見交換

2.実施場所

九州大学大学院人間環境学研究院

3.実施期日

平成24年7月28日(土)から7月29日(日)

4.成果報告

●事業の概要

 教育社会学セミナーは、九州大学を中心とした主に九州地区の研究者によって開催される教育社会学の研究会である。この交流会は、規模はさほど大きくない(毎回10名~30名程度)が、定期的に開催され、今回で第79回を数える。年に数回、定期的に開催されるため、学会のように20分から30分と限られた時間での発表ではなく、ある程度、長時間にわたる発表と質疑が可能である。当日は、私自身の発表でも発表時間30分強、質疑で1時間強の計2時間を割いていただいた。
 今回の第79回は、参加者が20名弱で、発表者は2名であった。参加者は、九州地区の大学院生(博士前期課程・後期課程)、並びに研究者が主であった。私の研究テーマは高等教育であるが、参加者は広く教育社会学全般の研究者であった。
 当日は、セミナー自体は4時間弱で、活発な議論が行われた。自身のテーマに際しては、議論の展開に関して多くの示唆を得た。このセミナーのいい点は博士前期課程1年の学生から研究者まで発表に対して自由闊達に意見を交換できる点である。実際、博士前期課程の学生からは、議論の進め方、問い・仮説の立て方について勉強になったという評価の反面、結論からインプリケーションへの過程の議論の不十分さの指摘を受けた。こうしたわかりやすい・わかりにくい、知りたいことがわかった・わからなかったといった下級生からの意見は、自身の専攻のように博士後期課程の学生のみの場からは得にくい指摘であり、新鮮であった。また研究者の方々からは、量的調査に関するサンプルの代表性や結果の表記における議論の詰めの甘さ、教育社会学研究としての面白さの観点から様々な意見を得ることができ、学際的な反面、同一分野の内容を研究する研究者が学内に多くない状況の自身にとっては、刺激的であり、勉強になった。

●学会発表について

発表テーマ
 情報系の専門職大学院と大学院修士課程の比較

報告概要
 本研究では、専門職大学院の教育を大学院修士課程の教育と比較することで、その違いを検討し、専門職大学院の意義を考察する。研究の主対象は情報系の専門職大学院であり、また比較対象としての情報系大学院修士課程である。ここで情報系を選ぶのは、情報系が専門職大学院と大学院修士課程が併存しており、社会からの期待を反映して専門職大学院ができたと考えられるからである。
 研究は4つの側面からなる。第一が「社会からの期待の検討」、第二が「教育理念や内容の課程間の比較」、第三が「教員の意識の課程間の比較」、第四が「学生の意識の課程間の比較」である。
 これらの比較から、専門職大学院は、教育理念・内容と教員の意識、学生の意識が一貫して高度専門職業人養成に向いていること等が知見として得られた。そして、この4つの側面の知見を基に、専門職大学院の特性と意義を検討し、この段階での知見を発表した。

ディスカッションならびにアドバイス
 研究会発表での意見交換ならびに、その後の同一分野の研究者からのアドバイスの中で次のような意見があった(抜粋)。

①専門職大学院と修士課程のカリキュラムを比較する際に、学生の履修パターンなどに着目した分析ができるとなお面白い。カリキュラムで選択が多い部分は同じ専門職大学院の部類である法科大学院などとは大きく異なり興味深い。

②そもそも専門職大学院の制度自体に需要があるのかを考えた。発表された内容以外にも、情報系には多額の費用が掛かるなどの点から国の予算の問題など分野特有の事情があるのではないか。

③大きなビジョンの点で、既存のモデルを活かした説明ができないかを検討してみてはどうか。

●本事業の実施によって得られた成果

質疑を通じて受けた示唆
 質疑を通じて、得られた主な示唆は次の3点である。

①全体的な議論を通じて、自分自身が情報系専門職大学院の枠内で議論を行っているということを再認識した。つまり、本議論は情報系だからこそ言える部分と、分野を超えて言える部分があり、それらは細心の注意を払って議論すべきであると認識した。今後、論文をまとめていくに当たり、事例研究の可能性と限界を考慮して議論を行っていくとともに、専門職大学院の議論のどの部分に特に着目しているのか、どこまでの結論が導けるのか、さらに結論は他の研究とどのように関わりあうのかをより検討することが研究の発展には望ましいと感じた。

②各論としては、自分自身で補強が必要と感じていた部分を中心に関しての議論の展開への指摘を受けたことで、その部分の強化についてのヒントを得た。また、自分自身では十分と感じていた枠組みに関する説明に関しても、こうした方がより明確に内容を捉えやすくなるのではないかという提案もいくつか受けることができ、全体像を説明する部分に関しての補強のヒントが得られた。

③今回は、実験的に発表の仕方を今までと変えて、聴衆に聞きながら進めるスタイルなどを取り入れた。それらは成功した部分も、今一つであった部分もあるが、特に、専門分野がややずれるような学生への発表の仕方の観点で勉強になった。この挑戦の経験は、今後、自分が専門家として人に分かりやすく伝えるためにどうすればいいかを考える上で役立ったと思われる。

●本事業について

 本事業の実施により、普段、深い交流が難しかった同一分野の他研究者と自由闊達な議論を行うことができました。日頃、専攻内で学ぶことが多いのはもちろんですが、学外の方との交流で得られる示唆はまた違った内容・性質のものであり、研究を多面的に深めるためには重要と考えています。
 こうした経験は、多くの場合に、より質の高い論文を完成させるために不可欠と考えています。今後もこの制度が継続され、活用されることを願っています。
 最後に、この発表の機会を与えていただいた当該セミナーの方、発表を後押しして下さったRT事業の関係者の方に感謝を表します。ありがとうございました。