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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

中田 梓音(比較文化学専攻)

1.事業実施の目的

日本語の会話分析の技術獲得

2.実施場所

東京都港区白金台1-2-37 明治学院大学白金キャンパス

3.実施期日

平成24年8月6日(月)から8月14日(火)

4.成果報告

●事業の概要

 林誠(イリノイ大学)・串田秀也(大阪教育大学)・高木智世(筑波大学)細田由利(神奈川大学)・早野薫(お茶の水女子大学)・西阪仰(明治学院大学)などの各大学に在籍する会話分析研究者6名の指導の下に会話分析に関する体系的な訓練を行った。分析に当たって、使用する主な論文は、サックス,シェグロフ,ジェファンソンによる,会話分析の基本論文である,「順番交替組織」と「修復組織」に関する2つの論文("A simplest systematics for the organization of turn-taking for conversation" および "The preference for self-correction in the organization of repair in conversation")である。
 2010年から第1回会話分析セミナーを開催し、今回は第4回目となる。テーマは、連鎖の組織を前提とした修復の組織であり、基本論文、課題読むことが受講条件となる。受講申し込みとともに、事前課題が配布され、今回のテーマである修復の行われている事例のコレクションから、複数の事例について観察できることを基本論文に即してレポートとして提出。締め切り内に提出した受講生を対象にセミナーが開かれた。
会場は代表者である明治学院大学教授の西阪仰先生の在籍する白金キャンパス本館の1551室~1558室で行われた。主にデータセッションを行い、会話分析的アプローチによる日本語データ分析の「練習」を共同で行なうことが目的。今回は「修復の組織」に注目し、様々なデータを用意、収集、使用した。時間は午前10時から午後5時まで、主な流れは以下の通りである。

1.提供されたデータ全体にざっと眼を通した後(映像データを見たり音声データを聞くことを含めて),適当な長さのシークエンスを選ぶ.あらかじめ選ばれている場合もある。

2.選択したシークエンスの一行ごとの分析を,10~15分程度各人で行なう.行為連鎖の組織、修復開始の場所、修復の結果などを中心に。

3.映像/音声データを参照しながら一行ごとの分析全員でを行なう. 2で行った分析とデータ提供者に関しての情報の確認。

4.復習を兼ねた課題と、自分でトランスクリプトのデータを用意したもの分析を翌日に発表する形で講習を行う.課題はHPにアップされる度に各自プリントアウト、レジュメも参加人数分用意する.

 最終日には、課題と自己作成コレクションの発表を行い、それぞれのフィードバックをもとに再分析を行った。まとめとしては電話会話のデータから、修復の組織上の「トラブル源」「トラブルの修復開始の位置」「自己修復か他者修復」「修復の完了」位置の特定を全員で検討。午後6時30分から反省会を兼ねた懇親会を行い、会話分析に関する研究会および論文情報などの交換を行った。

●本事業の実施によって得られた成果

これまでに報告者が行ってきた日本語教育における会話分析とは違い、H. Sacks , E. A. Schegloff , G. Jeffersonらによって開発された「会話分析(Conversation Analysis)」の 方法論に基づいた体系的な訓練によって、会話の連鎖の組織や、そこに組み込まれている修復の組織の発見の仕方とその種類(カテゴリー、対象者)について多くを学んだ。この観点からの分析は、博士論文執筆時に不可欠であり、論文の重要な部分を構成する際の軸になると考えられる。また、これまでに収集してきたデータの整理・および詳細な分析が可能になったことで、その成果を随時社会言語科学会や文化人類学会などで発表する予定である。

●本事業について

 調査・研究の可能性を広げてくれる推進事業は大変有意義であり、実際に自身の研究を深めるのに役に立つものであると実感できた。