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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

SAUCEDO SEGAMI Daniel Dante(比較文化学専攻)

1.事業実施の目的

学会発表

2.実施場所

オーストリア共和国、ウイーン市

3.実施期日

平成24年7月14日(土)から7月23日(月)

4.成果報告

●事業の概要

 平成24年7月15日から20日までウイーン大学で開催された第54回国際アメリカニスト学会に参加した。国際アメリカニスト学会はラテンアメリカに関する研究者のための最も大きな学会である。様々な研究分野において、古代から現代までのアメリカ全体における多様性について発表が行われた。多様な分野の研究者が集まるため、学際的な意見や質問が出される。例えば、歴史学、言語学、考古学、人類学など、他分野の研究の方法論を学ぶことができる。また様々な国の研究者と交流できるので、将来的には国際的な学会や勉強会やワークショップなどの開催へとつながる新たなネットワークの構築が可能である。
 私は7月16日に行われた「ラテンアメリカの新たな行動と考古学者の役割」というテーマのセッションに参加した。このセッションでは2つのテーマが掲げられた。1つ目のテーマは「世界における考古学者のネットワーク形成の重要性」である。このテーマでは、ラテンアメリカの現状が示された。ラテンアメリカではスペイン語かポルトガル語が公用語だが、研究者による国際的なプロジェクトはあまり組織されなかった。しかし、近年はインターネットの存在によりグローバル化が顕著であり、この状態が変化してきていることが伺える。考古学者は国際プロジェクトへと発展させるため、研究者間のネットワーク形成を重要視し始めている。そのために、電子雑誌やソーシャルネットワークは非常に価値があると考えられているのである。もう1つのテーマは「現代社会における考古学者の役割」である。このテーマでは、現代社会における考古学者が担う役割の必要性に関する議論が行われた。特に、学校教育に対する役割の重要性が示された。例えば、考古学者が教師をサポートすることで、学生は考古学に関する正しい知識や情報を得ることが可能となる。また、考古学者は教師と学生たちとの交流を通して、国や地域のアイデンティティ形成に寄与することにもなるであろう。
 この他にも、私は文化遺産に関するセッションに参加した。今回は観光業と文化遺産の管理方法についての発表が多くみられ、現在のラテンアメリカでは重要な課題と考えられる。多くの文化遺産が脚光を浴びて観光業に利用されるようになり、それに伴い遺跡保存や現地の先住民との問題が浮上してきたのである。遺跡保存に関しては、入場者数の増加による遺跡破壊が懸念されている。この問題を回避するために、遺跡や史跡公園の管理者は観光客の入場をコントロールする必要に迫られる例もある。また、観光業が先住民の生活を変化させる要因になり、グローバル化によってそれまでの先住民文化の伝統が失われる可能性が高まるのである。そこで、現在は観光業の発展が先住民に与える影響について検討されている。

●学会発表について

 私の発表は「学問の世界を超える考古学-古代と現代を繋ぐパブリック考古学の役割」という題目であった。本発表では、ペルーにおけるパブリック考古学の現状が中心テーマである。
 現在、ラテンアメリカにおける「考古学」という分野は、現代における貧富の差を縮めることを目的として用いられている。各国の政府と地元住民は、遺跡を文化資源として観光業のために利用している。このような遺跡利用は、社会考古学、開発考古学、文化資源管理など、様々な研究分野に影響を及ぼしている。つまり、「遺跡」の概念は学問的な立場から定義されており、地元住民を含める一般の人々の立場からの定義は含まれていない。その結果、遺跡の利用や管理に関して両者のコンフリクトがみられるのである。
 本発表では、このコンフリクトにおける考古学者の役割をパブリック考古学の立場から議論した。事例としてはペルー北海岸のランバイェケ県における、ポマ森林歴史保護区域周辺に居住する村人と考古学者の関係性を提示した。

●本事業の実施によって得られた成果

 この学会に参加したことで、多様な国における考古学と文化遺産の管理や遺跡保存問題について、新たな知見を得ることができた。とくにラテンアメリカ各国では同様な状態であることが分かり、ペルーでみられる問題について、他国と比較しながら解決策を模索する道筋が与えられたことは大きな成果であった。そして、自分の博士論文研究で得られる成果が他の国でも応用可能であることが将来的な展望としてみえてきた点が、今回の学会発表で得られた大きな成果でもある。

●本事業について

 文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業は研究成果を発表する機会を得るために、学生にとってとても良いサポートである。今後もぜひ継続していただきたい。ただ1つ意見を述べると、留学生は英語で申請書とリポートを英語で提出することができれば、もっと積極的に活用できると思う。