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文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業 研究成果レポート

高木 仁(地域文化学専攻)

1.事業実施の目的

本事業の目的は博士論文において海の資源の共有問題を中米・ニカラグア東部沿岸民によるウミガメの利用と管理を事例に論じるための一次調査資料を収集すること。

2.実施場所

中米・ニカラグア共和国北東部の沿岸地域(図1)、北大西洋自治州プエルト・カベサス市、近隣村落及び沿岸海域(図2)。

図1 中米、カリブ海沿岸域における調査地の位置   図2 調査地域の拡大図
図1 中米、カリブ海沿岸域における調査地の位置   図2 調査地域の拡大図

3.実施期日

平成24年8月7日(火)から同年10月4日(木)までの59日間。

4.成果報告

●事業の概要

 本事業は、博士論文において海洋資源の共有に関する問題を中米・ニカラグア東部沿岸民によるウミガメの利用と管理を事例に論じるため、その一次調査資料を平成24年8月7日(火)から同年10月4日(木)の間に、①ニカラグア北東部にあるプエルト・カベサス市及び沿岸村落、②ミスキート諸島周辺の海域にて収集することです。
 本ニカラグア東部地域の銛つきによるウミガメ漁に関して、特に1970年代に文化地理学者ベルナルド・ニーチマンが残したウミガメを中心とした狩猟や漁撈、農耕活動による自給的な暮らしに関する記述(Nietschmann 1972, 1973)と自給的な生態からウミガメを街で売却し外貨を得て暮らすようになるまでの経済変化に関する研究(Nietschmann 1979)が著名である。報告者はこうした彼の40年前の研究を最も重要な先行研究資料として、現在、ニカラグア東部地域でおこなわれている網でのウミガメ漁による自然資源の利用やその管理に関する研究しています(高木 2012)。そして、本事業では特に

1)1970年以降のウミガメの捕獲管理に関する行政資料の収集。

2)ウミガメの個体数保護を目的とした個体調査と取引後の肉の流通管理に関する調査

3)大型化した漁船・装備・船具や網へと変化した道具に関する調査

4)ロブスター漁が隆盛する沿岸のミスキート諸島海域でのウミガメ漁による漁場利用調査


を得ることを目的としています。

文献 Nietschmann, Bernald, Q. (1972) Hunting and fishing focus among the Miskito Indians, eastern Nicaragua. Human Eco 1. (1) 41-67. Nietschmann, Bernald, Q. (1973), Between land and water: The Subsistence Ecology of the Miskito Indians, Eastern Nicaragua. New York: Sminar Press. Nietschmann, Bernald, Q. (1979)Ecological Change, Inflation, and Migration in the Far Western Caribbean, The Geo Rev, 69, (1), 1-24. 高木仁(2012)「カリブ海沿岸での先住民によるウミガメ捕獲-ニカラグアにおけるミスキートの網漁の事例『ビオストーリー』18:pp93-99.

●本事業の実施によって得られた成果

成果はそれぞれ、

1)1970年以降のウミガメの捕獲管理に関する行政資料の収集
 ニカラグア政府の資源管理部門(MARENA*1)プエルト・カベサス支局及び北大西洋自治政府の資源管理部(SERENA*2)にて、それぞれ担当者より現行のウミガメの持続的な資源の利用とその管理に関する方策について聞き取り調査をおこない、2009年から2012年度のウミガメの資源管理に関する法律、最大捕獲頭数、各コミュニティーの漁船登録者に関する資料を収集した。

2)ウミガメの個体数保護を目的とした個体調査と取引後の肉の流通管理に関する調査
 プエルト・カベサス市、港にて近隣村落からウミガメを売却しに来た漁師たちと仲買人との取引に立ち合い実際の交渉を観察、また、交渉の前に行われる市職員による捕獲個体の調査(腹甲の寸法*3、値段、捕獲者・売却者の氏名等の記録)に同行しその詳細を記述した(次ページの写真1)。

3)大型化した漁船・装備・船具や網へと変化した道具に関する調査
 プエルト・カベサス市港から沿岸村落*4へと移動し、ウミガメ漁の際に使用する漁船や船具・装備と船のペンキ塗りや造船作業、網や帆の補修作業について調査・記述した。

4)ロブスター漁が隆盛するミスキート諸島海域でのウミガメ漁による漁場利用調査
 沿岸村落にて村人たち所有の計30艘のウミガメ漁船の1艘(識別番号GS-MI1209)に同乗し、沿岸村落から漁場となるミスキート諸島でウミガメ漁による漁場の利用実態を調査した(次ページの写真2)。他にも海上でウミガメ漁に関連して捕獲したウミガメの保管方法の観察、売却・持ち帰り選択の事由の聞き取り、運搬方法や取引相手との交渉、売却金額、売却益の分配についての参与観察・聞き取りの調査をし、その結果を記述した。

写真1 捕獲個体を計測する様子   写真2 ウミガメ漁船とその乗組員
出所:2012年9月7日、
ミスキート諸島海域にて報告者撮影

写真1 捕獲個体を計測する様子
  出所:2012年9月13日、
プエルト・カベサス市にて報告者撮影

写真2 ウミガメ漁船とその乗組員


 なお、本事業で得られた成果は2012年10月、第22回総合研究大学院大学、文化科学研究科学術フォーラム(国立歴史民俗博物館)において本事業の成果の一部を発表した。帰国日からフォーラムまで期間が20日程度と短かったため、特に本事業によって得られた成果1)1970年以降のウミガメの捕獲管理に関する行政資料の収集資料を、これまでの結果と合わせポスターとして発表した。

注 *1. Ministerio de Recursos Naturares Ambienteの略称、*2. Secretaria Recursos Naturares Ambienteの略称、*3.腹部の楕円形部の縦寸法。*4.調査村落の方々には2009年より継続して協力を頂いています。

●本事業について

 日本から中央アメリカへの渡航費は高く、低く見積もっても20万~25万円が必要でした。渡航費だけでなく現地での滞在費や食費、薬や治療費などの出費もあり、本事情の助成おかげで無事に現地調査を終えることができました。そして調査地では博論において海洋資源の共有問題を論じるため、きわめて重要な一次資料を得るにいたりました。心より感謝いたします。今後とも本事業が継続されるよう心よりお願い申し上げます。