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第22号(2026)
総合研究大学院大学 先端学術院 人類文化研究コース 鈴木 一平 キーワード: クリス、交流史、九州、東南アジア島嶼部地域 本稿は、鹿児島・豊玉姫神社と大分・浮嶋八幡社に伝世した二差のクリスを対象に、その製作地と年代、さらに日本への伝来経緯を検討したものである。クリスはインドネシア・ジャワ島を中心に東南アジア島嶼部で広く用いられてきた鍛造製鉄剣であり、武器であると同時に威儀具や魔除けといった精神的・象徴的機能を有する。14世紀以降には遠隔地にも流通したが、日本伝世例の研究は限定的で、多くが由来不明である。こうした資料の基礎的情報を明らかにすることは、陶磁器を主な手がかりとしてきた従来の交流史研究を補い、東南アジア島嶼部地域の歴史動態を検討する上で重要である。本研究は、対象の観察と関連品との比較を通じ、製作地・年代を比定し、これらを東南アジア交流史の文脈へ位置づけることを目的とした。 本研究では剣身や鞘の形態分析により、両資料は類例関係にあり、14世紀から16世紀前半の東ジャワで製作された可能性が高いことが示された。この時期の東ジャワはマジャパヒト王国の支配下にあり、当時のクリスの現存例は世界でも数例にすぎない。今回の資料はその希少な伝世例にあたり、歴史的価値がきわめて高い。また剣身基部の特徴や蛇行形態は16世紀末以降に展開する型式への移行を示唆し、過渡期の作例として位置づけられる。 搬入については、九州沿岸部の対外交流史や東南アジア陶磁の出土状況と整合的であることが確認された。特に豊玉姫神社の伝世品は、従来想定された17世紀以降ではなく、それ以前に遡る可能性が指摘できる。伝来主体や経路の特定には限界があるものの、日本と東南アジア島嶼部の交流史に具体性を与える事例として重要である。 以上より、本研究は日本伝世クリスの属性を明らかにし、東南アジア島嶼部製品を交流史の枠組みに位置づけるための基盤を提示した。東南アジア島嶼部の交流史的動態を捉える新たな視点を提供する点で、学術的意義を有するものである。 | ||||||